37話 家族からの手紙
「ママ! 創造神様が、日本からの返事が来たって」
「えっ!」
その日の夜。テーブルを挟んで向かい側に座るモカが、いつもの神様仕様のレターセットを出す。
「創造神様がこの返信用封筒を入れてくれたんだよ。これじゃないとやり取りできないから」
「そうなんだ。ありがとうございます、創造神様!」
「はい、開けて良いよ」
かすかに震える手でレターセットを開封する。そこには、うちの家族らしい心配する声と一部非難が書かれていた。
「永遠へ」
声に出して読み始めた。
――――――――永遠へ――――――――――
元気にしているか? モカから連絡が来た時はなんの冗談かと思ったのに手紙まで届いて、こちらは信じるしかない状態だよ。こんなことになってさぞや大変だろう。父さんはお前の体調だけが心配だよ。正直、それ以外は特に心配してない。お前ならなんとかなるだろう。モカと協力して頑張るんだぞ、数か月後に会えるのを楽しみにしているよ。父より
永遠、モカちゃん。お手紙ありがとう。あなたたちがいなくなってすごくさみしいけど、生きているだけでもよかったと安堵しました。写真見たけど、モカちゃんは可愛いだけでなくかっこよくなったのね! ぜひ会ってモフらせて欲しいわ。あと、なにあのイケメン集団は!? どなたかは永遠の彼氏になってくれないの?
長女だからと、私たち夫婦はあなたに甘えて我慢させて、頼りにしてしまっていたわね。ごめんなさい。イケメンでなくて構わないから、そちらで甘えられる人を見つけるのよ。あなたは、体のことを気にして結婚する気がないのかもしれないけれど、お母さんはそれでもあなたを好きでいてくれて、あなたが一緒にいて幸せだと思う人と幸せになってほしい。体調にはくれぐれも気をつけるのよ。モカちゃんにもよろしくね。 母より
よ。姉ちゃんに手紙書くなんて初めてで無駄に緊張するわ。てか、異世界転移ってなに!? 俺も行きたいんだけど! 姉ちゃんは狩りとか絶対無理なのに、生きていけているのか心配だよ。俺がいれば一狩りいけるよ? 魔法も使えるのか? 俺にも教えてよ。
それとあのアナって人、超タイプ! なんで俺じゃないんだ! モカもかっこよくなってるから会いたいよ。羅稀より
お姉ちゃんのバカー! チケット当落発表前に異世界転移って! お姉ちゃんの方がチケット運良いのに!
ねぇ、そっちではちゃんと生活できてる? お姉ちゃんは人の名前覚えるの苦手だし、勢いだけでいくところあるから色々心配だよ。貴族令嬢に虐められたりしてない? あんな美形に囲まれてたらとばっちりもあるんじゃないの? 特にあの銀髪の人は人外的に綺麗だね、あんな人、2.5次元にもいないよ。王子様も最高。今度帰ってくるときにはもっと制服の写真とモカを撮ってきてね。それから、帰ってくるときは早く教えてね! 有休取るからね! 朝陽華
ハル姉、モカ、元気にしてる? 王宮にいるんでしょ、いろいろ大丈夫なの? 私がいたらやり返すんだけど、ハル姉は妙に冷めてる所あるから、溜め込んでいないか心配だよ。カッコ可愛くなったモカに発散させてもらうんだよ。モカのことすっごいモフリたい! でも、私が一番言いたいことはそれじゃないんだよ、なんだあの美形軍団! 特に金銀ヤバい。本当に人間?
私の好みは、ロキ君て人かな。双子だけど、雰囲気は違うね。制服姿も推せる。今度帰ってきたときは、ゆっくり話そうね。元気でね。 綺羅花より
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最後まで読み終えた時には、手紙を握りしめていた。
いつの間にか涙がこぼれていて、止まらなくなっていた。
「みんな、元気そうだね」
「うん……あんまり心配していないのもうちの家族らしいというか」
モカが差し出してくれたティッシュで涙を拭き取りながら鼻を噛む。
「創造神様が言ってた。ボクたちの存在は家ごとなくなっているんだって。でも家族だけが覚えているのは、切りきれない縁があったからなんだって」
それは本当に良かったのだろうか。心配をかけ続けるだけで忘れてくれたほうが良かったのかもしれないとすら思ってしまう。
「ママは心配かけるの下手だからこれでいいんだよ」
「下手って」
「だって甘えるの苦手でしょ、いつもボクにだけだった。でもこっちに来てよく分かったんじゃない? ママの周りには甘えていい人がいるんだよ」
「……でも」
「ママのママ、おばあちゃんだって言ってたでしょ、幸せになってって」
「でも……でも私はここを離れるんだよ」
「それが理由ならママはここに残ってもいいよ」
今まで一度もそんなことを言ったことのないモカに驚き、顔を上げる。
「モカ?」
「ボクだって一緒にママと頑張りたいよ。でもそれがママの幸せの邪魔になるなら一人で行く」
「そんな、そんなつもりで言ったんじゃない! ママだってモカと一緒にいいほうが決まってるし、浄化も土地開発もやるって決めてるの!」
「それなら、ママは正直に話したほうがいいと思う。土地開発のことは言えないけれど、しばらくここを離れるつもりのことやなにより、ママの気持ちをだよ」
それを話して受け入れてくれる保証はある? もし拒絶されたら? それこそ立ち直れないかもしれない。
「ボクは、ママの幸せが一番で、そのためにはディルクが必要だと思っている。ママがどう考えているかはわからないけど、そこは自信がある」
「……受け入れてくれなかったら?」
「それは絶対ないって言い切れるけど……」
「そんなのわからないじゃない」
「ない、それはない。ないけど、もし、万が一そうなってもボクがずっとそばにいるよ。ボクは永遠にママの味方だよ。ほら、ママの名前にだって誓える」
「うぅー、モカがスパダリ過ぎるぅー」
「もぅ、これ以上泣いたら目が腫れちゃうよ。このあとまたディルク来るんでしょ」
「あ、忘れてた!」
「……だんだんとディルクが気の毒になってきたよ」
そうだ、彼は仕事が終わったあとで何か持って来ると言っていたんだった。
会議の待ち時間、暇つぶしにと渡したゲーム機にみんなはすっかり夢中になっていて、会議が終わって戻ったときも白熱していたっけ。さすが若いだけあって操作に慣れるのも早い。
大神官長様とディルクさんはそれを見守っていて、殿下までやりたがっていたから、私とアナとモカは作業部屋へと移動したのだった。
商会に見せるリストを作っていたとき、顔を出したディルクさんに「夜にまた来る」と言われたのをすっかり失念していた。
私にお気持ち表明しろというのは、まさにこの後のことよね。
どうしよう、ものすごく緊張してきた!




