SS お詫び ークィン視点ー
「ディルク、あのプレゼント喜んでもらえたのか?」
珍しく王宮内で会ったディルクと職員用食堂で昼食をとることにした。大神官長様は殿下といて、ゲイル団長が護衛に付いてくれているからこその時間だ。
「ああ、写真を撮って喜んでくれたよ」
この無表情極まりない他人に興味ゼロ、いや、物事全てに興味のない親友から信じられない相談を受けたのはつい先日のこと——
「は? 女性が喜びそうなもの?」
「今日、トワを怖がらせてしまっただろ。モカ様にも不快な思いをさせてしまった。だからなにか非礼を詫びたいんだ」
「……お前が?」
「……だから嫌だったんだ。やはりいい」
ちっと舌打ちして背を向けるディルクを慌てて引き留めた。こんな面白いことを見逃してなるものか。
「待て待て待て! モカ様は肉が好きだろ。トワさんは女性だし、ドレスや宝石でいいんじゃないのか」
「トワはそういったものに興味がない。特にドレスは絶対に着たくないと話していた」
「……なるほど。この世界の女とは違うんだな」
僕たちの周りに寄ってくる女どもは、外見と権力に寄り付く寄生虫のような人間ばかりだ。虫酸が走る。
子どもの頃からそういう人間に囲まれたせいでどの家からの婚約打診にも決して頷くことはしなかった。両親はそれに困りきっているようだが、僕が跡を継がなくても弟がいる。僕は生涯独身で構わない。
あぁ、トワさんみたいな女性なら結婚しても良かったけどね、内緒だよ。僕は親友が人間らしい感情を得て心の底から嬉しいんだから。
「今日、このあとは用事ないんだろ? 街へ行こう。付き合ってやるから」
「……街」
「そう、街。どうせ学生以来行ってないんだろ?」
「…………」
「トワさんのためだろ」
「……わかった、行こう」
本当にトワさんのことが好きなんだな。
そんな相手に出会えたことが少しだけ羨ましく思えた。
◇◇◇◇
「落星鳥の燻製だって」
滅多に街へ出ることのない僕、さらにそれ以上に出ないディルクが揃っているとなると、どうしても目立つ。さっきから僕たちの周りには鬱陶しいぐらいの人間が集まっていた。なんだかんだ好き勝手言われているが、ディルクは本当に見えても聞こえてもいないようだ。これはある意味、特殊スキルなのではないかと思う。
「落星鳥なんて珍しいな」
「らっしゃ……い……」
さっきまで威勢良く売り込みしていた店主が僕たちを見た途端、声が尻窄みしていった。
「これ、本物?」
「ほ、ほんものです! ここに、冒険者ギルドからの認定証と商業ギルドからの許可証があります!」
なるほど、彼は僕たちが調査に来たと勘違いしているようだ。幸いなことに僕は落星鳥を食べたことがあるから本物かどうかは食べたらわかるんだけど。
「狩りに行くか?」
「今からはさすがに無理だよ。ねぇ、店主。この落星鳥の燻製肉は買うから、どこで討伐したのか教えてくれない?」
その場所を聞いて、後日改めてモカ様を誘って討伐に行くことにした。きっと喜んでくださるだろう。
「高級品に興味がないなら逆に素朴なものとかのほうが喜ぶんじゃないか?」
「そういえば、花を見るのが好きだと言っていたな」
「ああ、確かに前庭に花多いもんね。それならそういう系統で探そう」
しばらく歩いていると、街を警備している男性騎士と女性騎士が数名近付いてきた。神殿や第二には女性騎士はいないが、ほかは多くはないがいることはいる。
「第二団長、神殿筆頭護衛官様、お疲れ様です!」
そう思っているなら放っておいてほしい。適当にお疲れと返事すれば、僕たちに憧れていたなど話し出した。すると、立ち止まった僕たちを好機と捉えたのだろう。どこかの令嬢やその騎士が利用したことのある娼館の人間たちまでもが集まって来てしまった。
「第二団長は最近、黒髪の女性とよくご一緒におられるとか。子どもの護衛で大変だとうかがいました。護衛任務でしたら我々でも——」
「あら、わたしたちは団長様方は表だって娼館を利用できないから専属の娘だと聞いてるわよ?」
まずい!
ディルクの魔力が跳ね上がるのを感知した僕は咄嗟にディルクと自分に結界を張った。
「……っ!」「キャア!?」
騎士も咄嗟に令嬢たちを庇ったようだ。情けないことに尻餅ついているけれど。第四は鍛え直したほうがいいね。まとめて報告しておこう。
「クィン、なぜ止めた」
「さすがに止めるよ! 止めたくはないけど!」
「なら止めなければいいだろ。剣を抜かなかっただけマシだと思え」
「それはそうなんだけどさぁ」
剣を抜かれてたらこっちも本気出さないとまずいんだから絶対にやめてほしい。
僕は尻餅ついてる集団に向き直った。それだけでびくっと後退りするんだから恥ずかしい。
「このことは第四団長に報告する。娼館についても偽情報をバラまくような所は認定を改める必要がある。どこの令嬢かはしらないが、勘違いも甚だしい。二度と、僕たちに近付くな」
ハァ、これでまたこの男は街嫌いになるじゃないか。
再び歩き出してから気付く。あれ、でもトワさんと出掛けるとか言ってなかったか? こんな調子で大丈夫なのか、こいつ。
「ディルク、お前大丈夫なのか」
「なにが」
さっきの人間はもうすでに見えない者となっているようで、先を進んでいるディルクに追い付く。
「トワさんと出掛けるんだろ。またこんな目に遭うかもしれないぞ」
「……それはそうだが、本人が行きたがっている」
「双子に任せればいいじゃないか」
「断る」
即答だな。トワさんもとんでもない男に好かれたものだ。だんだん気の毒にも思えてきたよ。
「あ」
そんなディルクが急に立ち止まった。その視線の先を追うと数名の人間が並んでいる店舗が目に入った。
「ヴィルセンナ限定の花茶……期間限定……え、あれ並ぶ気? お前が?」
女が好きであろうピンク色をベースに色とりどりの花が描かれたそれはもう野郎二人で入るにはキツすぎる店構えだった。僕はまだいい、制服が白い。ディルクは違う。黒地に銀色の刺繍がたっぷりと入った威圧感のある制服だ。
「……トワが好きそうだ」
「まぁ、確かに……」
こいつの特殊スキルが羨ましい。並んでいても周囲の視線をまるっと見えないことにできるからだ。なぜ僕のほうが恥ずかしい思いをしないといけないんだ?
早く順番が来ますように! 切実に願った。




