35話 協力
不穏な空気を感じ取ったのか、モカがロキ君たちから離れて走り寄ってきた。
「ママ、またじゃがいも掘りしていい? ブルーベリーの実も取るよ!」
「それは助かるけど、誰とするの?」
「じゃがいもは、ロキとロク。ブルーベリーは神殿組にお願いする」
「じゃがいも掘りというのはその名の通り、掘るんですよね?」
ロキ君が不思議そうに首を傾げる。
「そうなんだけど、モカが大胆に掘ったものをキャッチする人が必要なの。しかも掘るときに土や葉なんかが大量に舞うからすごく汚れるよ」
「なるほど。制服が汚れるのはまぁ討伐に行けばいつものことですし、クリーン魔法がありますからね」
「手間でなければ着替えやお風呂というか人数が多いのでシャワーは貸せるよ。お風呂の水も聖水だから疲れがとれるかも」
「ここ、お風呂あるの?」
クィンさんが驚いたように聞いてくる。そういえば、クィンさんは貴族だからあるのは当然かもしれないけれど、他ではそうではないんだった。
「私の国は綺麗好きが多いのもあってお風呂はほとんどの家にあるよ」
「へ~すごいですね。異世界の風呂、オレ、入ってみたいです。その分、働きます!」
「俺はトワさんの国の服に興味があります。だから汚れてでも働きます!」
有難いことに皆が乗り気なため、畑作業はモカを隊長に任命してお任せすることにした。その間、私は家に戻り、着替えの購入とお風呂の準備。
それから――
「実はアナにもいろいろ協力してもらいたいんだよね」
「私、ですか?」
アナは侍女だから、こういう場面でも出しゃばっちゃいけないって思っているんだろうな。それなのに、さっきからずっと目がキラキラしっぱなしだ。
「うん。ここの材料で作ったポプリとかサシェとかそういった物が商品になるか見てほしいんだよね」
「それはトワ様が作られたのですか?」
「うん。でも、刈り取っても毎日こうなるからさ。作っても作っても追いつかないし、そんなに作ってどうすんだってぐらいになってるのよ。本来なら乾燥にも一週間はかかるはずなのに、翌日には乾いてる謎空間だからね」
「あのっ、それは私にも手伝うことは可能でしょうか?」
「ん? 作る方?」
「はい、そうです。子供の頃からそういう手作業が好きなんです。刺繍も一応できます」
「え、刺繍できるの? すごいね。私はミシンでしかやったことないわ」
「ミシン?」
「縫物とかしたりする機械、道具のことよ。それなら私の作業部屋で先に商品になりそうかどうかも見てくれない? そこにミシンもあるし。簡単な刺繍しかできないミシンだから、刺繍に関しては結局手仕事にはなると思うんだけど、それでも良ければ」
「もちろんです! ぜひ見させてください!」
おお、アナに初めて会ってから一番のテンションだわ。アナを一階の作業部屋へ案内すると、この家に入ってきたときと同じようにきょろきょろと周りを見渡していた。
「じゃあ、私はいろいろ準備しないといけないことがあるから、好きに見て触ってね」
「え、え、何か高級そうなものばかりですけど!?」
「大丈夫、大丈夫。欲しいものがあればまとめて聞くから。なにかあれば呼んで、2階にいるから」
「わ、わかりました」
いつも冷静なアナが動揺しながらも目は輝いている。アナが気に入ってくれるものがあればいいんだけどな。売れるものがあればなおさらいい。ニヤリとしそうな顔を抑えて、二階の空気を入れ替えるべく窓を開けていく。
その一室でスマホを開き、男性四人分、いや、殿下の分も念のため追加しておこう。五人分の服や肌着類、バスタオルなんかもそろえて準備していく。
ジャージでいいかとディルクさんの時も思ったんだけど、どう想像してもあのキラキラした人たちには面白いぐらい似合わないのよね……。スウェットと大して変わらないだろうと思うかもしれないけど、そうじゃないのよ。今回もシャツとジーンズを購入して、先にそれだけ一階へと持っていく。
「モカー! ここに着替え置いておくから先にこれに着替えてもらってね!」
裏庭に沿ってある縁側から、大声を出せば皆が一斉に走り寄ってきた。なかなかの迫力がある。
「こ、これがっ、異世界の衣類というものですか!」
「シャツはあまり変わらないと思いますけどね。ジーンズは普段着ではありますが、一応元は作業着ですので良ければ。本当はもっと楽なものもあるんですけど、すみません」
「トワさん、じゅうぶんですからね? これ以上なんてオレら望んでませんし、いますごくわくわくしてるので!」
「そうですよ。ちゃんとお支払いもしますから受け取ってくださいね!」
「あれ、1着多くないか?」
クィンさんが皆の手元にあるか確認してから、ワンセット残ったのを指さす。
「あ、それは殿下用。もし、皆のことを聞いたら一人だけ省かれたみたいで嫌かなと」
「なるほど、お優しい。ということは、ディルクは持ってる?」
「作業も手伝ってくれたから持ってるよ」
「それなら問題ないか。では我々も着替えてから作業開始するよ」
「はい、よろしくお願いします」
騎士団の人は脱ぐことに抵抗がないのだろうか? 私がいても普通に脱いでいく。女性として見られていないというのもあるんだろうけど、脱ぎっぷりがすごい。そして筋肉もすごい。またただの変態が降臨してしまうから、足早に作業部屋へと顔を出す。
アナにももちろんプレゼントがあるよ。
「あ、トワ様! ど、どうしましょう……」
「え、なんかあった? 大丈夫?」
「私、ここに住みたいです!」
「え、ええ? そんなに気になるものあった?」
「住めないのはわかっています、わかってはいるんですけど。この空間が素敵すぎて……」
そんなに気に入ってもらえるとは思わなかったなと嬉しくなりながら部屋を見渡す。私が作業部屋と呼んでいる部屋は約10帖あり、この家の中では一番広い。ここには、パソコン一式や作業机、材料置き場、仕上がったものを置く棚などが設置されている。ただし、材料に匂いを移すわけにはいかないので、サシェ用の袋をこの部屋にあるミシンで作って、庭先でいつも詰めているのだ。夏はどれくらい暑くなるのかわからないけど、一月なのに寒くないおかげでいまはそれでなんとかなっている。
「あ、そうだ。アナにはこれあげる」
「え?」
「ショルダーバッグ。前に私が使っているの見て、楽そうでいいって言っていたでしょう? 私と色違いなんだけど、良かったらもらって?」
「え、よろしいのですか? ただの侍女である私がこんな素敵なもの……」
「ただのじゃないよ。大事な侍女であり、妹と離れ離れになった私にとっては勝手に妹のように思ってるよ」
「トワ様……。ありがとうございます! 大切に使わせていただきます」
アナはそのショルダーバッグをギュッと抱き締めるように持って深々と頭を下げた。私はその頭をあげてもらってから、どれか売れそうなものがあるか早速聞いてみた。すると意外な答が返ってきた。
「正直、これだけのものになると価格設定が難しいかと思います」
ただの瓶に詰めた匂い消しと、手作り布のサシェなのになぜだと聞くと、まずこの瓶。こんな透明で歪みなどがない瓶がないこと、香りが良すぎること、布もこの世界に比べると質が良く「同じ目幅でこんなにまっすぐ縫われているものなんて、王への献上品ぐらいしか見たことがありません」とアナが真顔で言うので、思わず変な声が出そうになった。それこそミシンのおかげなんだけどな。私からすれば手縫いでできる人のほうが凄いと思う。
それでもアナはいくつか一度見せてみると持って帰るものを厳選していた。その時、インターホンが鳴り響く。
「ん? ここ鳴らせるのって、他にはディルクさんと殿下だけよね?」
「そうですね、ですがお2人とも執務中かと……」
二人で顔を見合わせ、私はインターホンのモニターを覗いてから、急いでドアを開けた。
「やぁ、私が来たよ!」
よく似たセリフが日本のアニメにもあります、リオレス殿下。
玄関先に立っていたのは、目を爛々とさせた殿下と困り顔のディルクさんだった。
夜の更新は、SSを挟むので二話更新します。
SSですけど、2500文字ぐらいあります。




