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聖獣と自宅、異世界に着地  作者: 冬実 なぎさ
転移した先での出会い

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28話 自宅にご案内②

 


 ほぐした燻製肉をモカにあげると、本当に美味しかったようで討伐に行くことが決定してしまった。私は邪魔になるから行かないけど、ずっとモカのことを心配してしまいそうだからその日は何か別のことしようと思っている。


 彼がくれたお茶は、茶葉が開くと色とりどりな小さな花が出てくるものだった。可愛らしいだけでなく、ほんのり甘くて優しい味のする美味しいお茶だった。写真には撮れたけど、次は花開く瞬間を動画で撮りたい。

 そんなお茶を飲みながらさっき気になったことを聞いてみた。


「ねぇ、この国は国民のほとんどが魔法使えるんでしょ? 家事も魔法でするの?」

「いや、家事は魔石だよ。火を点けたり温めたりするのは火の魔石が付属されていたり、水を出すには水の魔石が必要だったりする」

「そもそも魔石ってなんなの?」

「魔石は、主に魔物からドロップする。高ランク魔物だと貴重なものをドロップしやすいが、中ランクまでの魔物のほうが生活には役立つ魔石を落とす。ほかには鉱山から取れることもあるし、鉱石に魔法を付与する付与師という職業のものが各魔法を付与して魔石とすることが多い。一般的に売られているのはそっちか魔物のものだな」

「へぇ。でもそれって永続的なものではないんでしょう?」

「その魔石の容量にもよるが、定期的に交換が必要だな。だから付与師は儲かるんだよ」


 ということは、私もできるはずだから付与を覚えれば継続収入のある仕事も可能ってことね。


「じゃあ、氷の魔石を作れる人は狙われたりしないの?」


 彼は見るもの全てに驚いていたが、いまのところ一番驚いていたのが冷蔵庫だ。こんなに冷やせるものとなると、王侯貴族の一部しか持っておらず、それでもここまでではないとのこと。ましてや氷は氷魔法の使い手が極端に少なく、滅多にお目にかかれない貴重なものなんだとか。


「氷属性の者は身を隠して商売をするか、いまうちの国に囲っている者はいないはずだが高位貴族や王族に囲われることが多いな」

「なるほどねぇ。魔石以外には世間の人はどんな魔法が使えるの?」

「魔石以外で一般的によく使われると言われているのが掃除や髪を乾かすといったクリーン魔法やドライ魔法だな。あなたの世界の風呂の頻度は?」

「お風呂? 毎日」

「……毎日?」

「うん。翌日休みで疲れ切って動けない日はシャワーだけの日もあるけど、基本的には毎日お湯にちゃんと浸かるよ、私はだけど」

「なるほど、そこも違うんだな。この世界では毎日風呂には入れない。魔石も多く必要になるし、消費量が多いため金がかかるから。それをなんとかするのがクリーン魔法だ」

「毎日お風呂入れないなんて私は無理かも。ますます自宅ごと転移できたことに感謝だわ」


 ありがとう、創造神様! でも同時に、この世界の衛生管理が心配になってきた。魔法や魔石だけで全て解決できているんだろうか。


「モカ様。彼女にクリーン魔法を教えても? 魔力操作はもうできているのでしょうか」


 彼はお腹いっぱいでソファに寝そべっているモカの方を振り返り確認する。モカがひょこっとソファから顔を出しているが、眠そうだ。


「ママは魔力はあるけれど、魔法は使えないよ」


 そのモカの発言に、目を見開く彼をみて相当珍しいことなのかと気付く。


「魔力はあるのにですか?」

「ママの魔力はスキルに全振りしているからね」

「スキル持ちですか。どんなものかお聞きしても問題ありませんか」

「ひとつはこの家」

「彼女の持っている魔力自体がこの家を支えているということですか。それに複数あるのですね」

「そうなんだけど、言うか正直迷っている」

「モカ様。私はトワやモカ様に関することを他言することはありません。それは例え殿下でもです」

「ボクにそういう発言すると、誓約として発動しちゃうよ」


 そんなことになるなんて聞いたことなかった私はモカを思わずじっと見てしまう。


「ママにも言っていなかったけどね、ママ以外はみんなそうなるの。別になにか悪いことが起こるわけじゃないよ」

「力を持つ者はそういう力があるんだよ。これは古龍やそういった生き物でもそうだ。騎士であれば誰でも知っていることだから、心配する必要はない」

「それならいいけど。聞いたことなかったから驚いてしまって」


『ママはどのスキルのこと言っても大丈夫だと思う? ボクはどれでもいいよ。魔力があるのに魔法が使えないとなるとスキルでどれだけ使ってるのかって思う人間もいるから2つは言っておいたほうがいいんだ』

『どれ選んでも大丈夫なの?』

『いまはまだディルクにならってことだけどね』

『それなら、いま知っている人たちにバレても困らないのは通販かな。特に彼はあまり買い物とかに興味なさそうだし、どうやってここから出ずに生活してるんだとか思われないでしょ』

『じゃ、それにするね』


「もうひとつは、通販だよ」

「つうはん?」


 どうやらこちらにはないようで、説明すると便利さに驚いていた。インターネットがないんだからなくて当然と言えば当然だ。


「では、この家にいながら買い物ができるのですか?」

「そうだよ。あとでなにか買ってもらうとわかりやすいよ」

「そうね、あとで実演してみせるね」


 スマホをポチポチするだけだけど。ついでだからテレビにつないでそれを見せてみても良いかもしれない。


「ディルク、一応ママに魔力操作教えてあげて。君との相性が一番良いから」


 彼はそのモカの言葉に口角を上げて頷いた。相性が良いというのが嬉しかったようだ。結構、顔に出るのよね、この人。


「トワ、俺の手に手を重ねてみて」


 テーブルの上に黒い手袋を外した彼の手が置かれる。そういえば、生身の彼の手は初めてな気がする。どうしよう、妙に恥ずかしい。


「トワ?」

「あ、ごめん。はい、これでいい?」


 それでも催促してくるから、恥ずかしさを飲み込んでそっと右手を重ねた。


「初めて会った時に俺が譲渡した魔力はわかったんだろう? 魔力操作はそれの逆をやればいい」


 簡単に言ってくれるわねぇ。こっちはなにが魔力かもわかっていないとモカのお墨付きなのに。

 ふう、まずは深呼吸。目を閉じてあの日のことを思い出す。殿下から流れてきた魔力はほんのり温かい程度だったけれど、ディルクさんから流れてきた魔力は人間カイロだった。あの温かさを思い出そう。


「――っ!」


 言葉が詰まったように驚いたのは私ではなく、ディルクさんだった。目を開けると信じられないものを見ているかのように重なった手を凝視していた。


「あの……?」

「あ、ああ、すまない。俺が誰かから魔力を譲渡される日が来るなんて思いもしなかったから……」

「どういうこと?」

「あなたの魔力譲渡は成功だということだよ。うまくできている」

「本当? 良かった!」

「ああ。本当に……」


 彼はなぜか泣きそうな顔をしている。そっとその頬に反対側の手を添えてみる。彼はそれにすりっと甘えるような仕草を見せた。


「あなたに会えてよかった」


 私の手にキスをしてからそう微笑む彼は、花が綻びたような笑顔でとても美しかった。


「……モ、モカっ! うまくできたみたいよ!」


 モカはまた寝ようとしていたのか、面倒そうに顔をあげた。さては私が時間かかると思っていたな。


「おめでとう、ママ。これから魔力操作を応用していこうね?」

「モカって基本、スパルタよね。もっと褒めてくれるかと思っていた私が甘かったわ」

「ママのことはディルクが甘やかすでしょう? そうなると厳しく言えるのはボクだけだもん」

「それはそうですね。甘やかすのはお任せください」

「いや、それはそれでどうなの」

「ふふ、これからは日常生活でも少しずつ魔力に慣れていこうね」

「わかりました。モカ先生、ディルク先生」


 それから笑いあいながら穏やかな雰囲気で会話していると気付けば時刻が23時を回っていた。

 今日はお開きとしようとしたところで彼がまた手を握ってきた。まるでどこか触れていないと不安だと言っているようだ。


「これからはあなたともっと一緒に過ごして、お互いのことを知りたい」

「まぁ、たしかにあまり知らないもんね」


 なんか本能部分が強いんだよ、この人は特にそんな感じがする。


「だから今日、ここに泊まっていい?」


 ん? 聞き間違いかな?


「え、なんて?」

「もちろん手は出さない。ただあなたともう少し話していたい、一緒にいたい」


 どうした、今日は甘えん坊モードのようだ。そんなモードまで持ってるなんて聞いてないよ? この顔でそんなモードまで兼ね備えてるなんて最早、無敵では? その顔は反則だと思う。でも、ここで流されたら、私はまた誰かに寄りかかってしまう気がした。


「ええっと、あなたは明日も仕事では? 私も午前中は大神官長様と勉強だし」

「……そう、じゃあ今度にするよ」


 手がそっと離される。待ってやめて、そんなシュンとするの! あるはずのない尻尾が項垂れている幻覚まで見えてきて、気付いたら私は彼の腕を掴んでいた。

 その瞬間、彼がニヤっとしていたことに気付いていたのはモカだった。


『ママって、チョロいよね……』


 憐れむような声が脳内に響いたのだった。

 チョロくて悪かったわね!

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