24話 殿下の一目惚れ
「殿下、近いです。離れてください」
ピシャリとディルクさんが殿下の腕を払いのけてくれたけど、これも不敬にならないのだろうか。
「ああ、すまない。衝撃のあまりつい」
「衝撃?」
気にしていない様子の殿下は、こちら側のソファはもういっぱいだからと向かい側に腰を下ろし、スマホをテーブルに置くよう促してきた。殿下の表情が変わった。それまでの余裕が、完全に消えている。
「この娘は?」
そこに写っていたのは、朝陽華だ。確かこれは、一緒に見に行った舞台の劇場にあったポスター前で妹が推しのアクスタを持ち、私が撮影したものだ。
「この子は、私の上の妹ですね」
テーブルを倒しかねない勢いで殿下が立ち上がったせいで、ビュッフェテーブルにいたみんなまで驚いて集まってきた。あの冷静な殿下がこんな顔をするとは、一体なんだろう。
「……年齢は?」
「24歳です、けど……妹がなにか?」
妹とはなんだとロキ君たちはディルクさんに説明してもらっているが、私は困惑気味である。
「結婚しているか?」
「いえ、まだしていませんけど」
「あの、殿下? 我々もよくわかっていないんですが、もしかして、彼女の妹君に惚れました?」
ディルクさん、めっちゃズバッと斬り込むし。
「そう! 私は生まれて初めての一目惚れをした!」
その横で、ディルクさんの表情がわずかに固まった気がした。
なんだろう、こんなキラキラした人が大仰しく言うとそれこそ舞台を観てる感覚になるわ。
「……殿下、落ち着いて聞いてくださいね? 彼女の妹君は、異世界にいるんですから会えないんですよ?」
「……そこの大神官長と第三の団長を協力させるか。私とお前の魔力も足せばいけるんじゃないか」
「しれっと俺を犯罪に加担させないでください」
いままさに召喚儀式をした人間を地下牢に閉じ込めている張本人が同じ罪を犯そうとしているなんて、恋って盲目……って違う!
「ディルクさんの言う通りですよ、殿下。妹とは会えないんですから諦めてもらわないと」
「彼女は未婚だと言ったが、恋人は?」
「いえ、いません。恋してるんじゃないかってぐらいの推しはいましたけど」
「推し?」
「特別応援したい人、みたいな感じですかね。ファンとも言います。皆さんにもそういった人たちがついているんじゃないんですか?」
このメンバーだ、いないわけがない。心当たりがあるのか、あーなるほどって顔をしている。
「この写真に一緒に写ってる人がそうですよ。ほら、すごく可愛い系の美形でしょう? 私が好きだったのはこっちの人なんですけど……まあ、私の話は置いておきましょう」
隣からの圧が一瞬にして強くなる。推しの話すらできない。
「私のほうが美しくないか?」
自分で言っても嘘ではないんだから、こういうセリフが許される数少ない人種だな。
「この人は顔立ちは化粧落としてもあまり変わらないですけど、髪色含めて考えてみても殿下のほうが美形だとは思いますよ。でももしそれを妹に言えば、100%嫌われますね」
「なぜっ!?」
「推しをバカにしてると取られかねませんからね。殿下やディルクさんの場合、その顔を謙遜されるとそれはそれで嘘になりますから難しいところではありますけど」
「なら、私はどうすれば……」
「諦めましょう、現実をみましょう」
「ディルク! お前は異世界からきた人間が運命の相手で、しかも嫌がられずにそうやって横にいられるからいいだろうが、俺にだって幸せがあっても良いじゃないかっ」
なかなかひどいこと言ったディルクさんだけど、運命の相手? え、彼自身もそう思っているの?
本人を見ると、ニコッと微笑まれる。うっ、眩しいっ! 美形が微笑むと、可愛くなることを知りました。
「殿下、その台詞、次期国王としてどうかと思いますよ」
「団長まで! 誰も味方してくれないのか!」
「殿下、会ったこともない方に惚れられても、妹君も戸惑うだけかと」
呆れた様子でディルクさんがなだめるが、殿下はテーブルに突っ伏したまま唸っている。こんな殿下を見るのは初めてだ。
朝陽華は殿下みたいなのがタイプだろうなとは思っていたけど、殿下がまさか写真一枚で一目惚れするとはねぇ。会うこともないんだから、そのうち落ち着くでしょ、たぶん。




