21話 好み
食堂にはビュッフェスタイルの食事が用意され、給仕係がトレイを持ってスタンバイしていた。端の方にいたディルクさんがこちらに気づき、近くにいた人物を呼び寄せてから一緒に向かってきた。燃えるような赤い短髪に、がっちりとした大きな体。胸に手を当てて挨拶をしてから、にかっと笑顔を見せてくれた。
「はじめまして、第一騎士団団長のゲイルと申します。ご挨拶が遅くなり申し訳ありません」
「かっこいい……」
「…………は?」
ヤバい。はっきりと声に出してしまった。口元を押さえるも時すでに遅し。前方から、刺さるような視線が飛んできた気がする。ヤバい。
「も、申し訳ありません! 異世界から来ましたトワと申します。この子はモカです」
「がっはっは! こんな素敵なお嬢さんにそう思っていただけるなんて光栄ですよ! それに、ディルクのこんな顔見たことありませんから、お嬢さんも大変だな!」
こんな顔ってどんな顔!?
怖すぎて見られないんだけど!
「モカ様には、うちの団員を鍛えていただいてるとお聞きしております。聖獣様のお手を煩わせるとは、恥ずかしいことではありますが、光栄なことです」
「あの2人は特に才能はあるからね。ママを守るなら強くなってもらわないと!」
「それはそうですな! がっはっは!」
モカと団長さんの会話の後ろで、双子君たちの顔が引きつっていた。これまでの散歩には時々ディルクさんも加わっていて、これ本当に遊びなのかと何回も確認したけど、遊びだと言い切られ、止めるのがなかなか難しい。ちなみに終わる頃には双子くんは疲れ切っていて、ディルクさんは平気そう、モカは元気いっぱいだ。
「彼は昨日まで隣国に行ってくれていてね。第一騎士団の団長は全騎士団のトップだ。今回の件も今後は彼が関わるから挨拶をしてもらうことにしたんだよ。宰相も連れてきたかったんだが、それが叶わなくて申し訳ない」
「いえ、お忙しいなかありがとうございます。これからなにかとご迷惑おかけすることもあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします」
「こちらこそですよ。それに私にはもっと気さくに接してくださって結構ですよ」
「あ、ありがとうございます」
大きくにかっと笑う顔が素敵だ。ときめいてしまう。隣の冷気がさらに下がった気がするのは気のせいだ、うん。
「ふ、トワ嬢は団長のような男が好みなんだな。それは私の求婚が断られても仕方ないな」
「ちょっ、殿下!」
面白そうに殿下が笑いながら言うけれど、冷気だったものが氷点下になって伝わってくるんですけど!?
「求婚!?」
ロキ君とロク君が声を揃えて驚き、アナとクィンさんも目を見開いていた。険しい顔をしているのはただ一人。
「違うのよ、殿下は私たちを守るためにそう仰ってくれただけでね? ちゃんとお断りもしてるし!」
彼の方は見ず、双子くんたちの方へ向いて答えたけれど、結果的に誰かへの弁明みたいになってしまった。
「トワ様の好みは変わっていますねぇ。ほとんどの令嬢は殿下のような男が好みですよ?」
「大神官長様まで! 私のことはいいですから!」
頼む、黙ってほしい! 本当にお願いしたい。私の好みは事実だけど、せめてディルクさんがいない時に会わせて欲しかった!
「ふふ、そうだな。挨拶も済んだし、今後のことを話そう」
そう言うと、殿下を筆頭に一斉に頭を垂れる。
「まずは、此度のこと誠に申し訳なかった」
さっきまでの空気との落差に、一瞬言葉を失った。頭を垂れるなんて本当にやめてほしい。慌てて皆を立たせる。
「先日も言いましたけれど、悪いのはここにいる人たちではありません。きちんと罪を償っていただけるのならそれで構いません」
「それは約束する。まだまだ余罪がありそうだから、彼らから取り上げる私財も君への支払いに上乗せをするよ。賠償金も彼らから出させている」
「それはお願いしていた通りですね」
「それから、あなたとモカ様のことは、彼らが禁忌を犯したとして正式に発表する。モカ様のことは、聖獣だと発表させていただく」
「発表、ですか」
「それと同時に、あなたに危害を加えようとした場合の制裁の話もする。各国の神殿にはすでにご神託がおりている確認もとれているからな。温かく見守るようにも伝える」
温かく見守ってほしいってなんだか芸能人の交際宣言の時のようだな。
「モカに被害は及びませんか? 聖獣だなんてどこの国も欲しいのではありませんか?」
「聖獣に手を出そうなんて愚か者はそういないし、たまたまこの国に来てくださっただけで、聖獣とは国に縛りつけられるようなものではないんですよ。各国の神殿が国にも伝えてあるはずです」
モカのことになると心配性になるけど、大神官様だけでなく、創造神様もそう仰っていたから信じるべきなんだろう。
「あなたの側に護衛がいても、慣れるまでの護衛だと言い切れるし、発表したほうが早いということになったんだ」
「わかりました。モカと安全にいられるならそれで良いです」
発表のことは聞いていなかったが、お金のことは事前にお願いしていた。私への慰謝料、賠償金は、リオレス殿下の私財や、国民の税金は使わないようにお願いし、罪を犯した人間の私財から払ってもらうようにした。
王弟を放置していた責任として王様からもいただくが、寝込んでいるとのことだからいつになるやら。ちなみに大神官長様からもらうことはない。王の紹介で王都のこの神殿にきたらしい勤務態度のひどい副神官を離職させるよう何度も進言していたらしいが、聞き入れなかったのは王本人だと聞いたからだ。いまのところ、私のなかでは王様はダメな統治者という認識しかない。
「それから、これが身分証だ」
手渡されたのは銀行カードほどの大きさの白いカードで、蔦模様のような装飾が金色で施されていた。周りはそれを見て一瞬目を見開いていたけど、すぐに表情が無表情に戻った。
なんだろう、この反応。私が持っていて良いものなのかしら。
「これは、どういった時に使えるものなのですか?」
「これがあればギルド登録も可能だし、他国への入出国も可能だよ。王宮の門番もこれを持つ人がきたら通すことになっている」
「平民が出入りってマズくないんですか」
「だからこの身分証なんだよ。既に生活資金が入っているからいつでも買い物ができるよ」
「それは助かります。ありがとうございます」
硬貨だけじゃなくてカードでも支払いできるんだ。やはり魔法があるからかアナログなのかそうではないのかわかりにくいところがあるな。
あまり王宮とはつながりを持ちたくはないけれど、お金はいくらあっても困らないからね。十分使い切れないほど持ってはいるんだけれど。まずはこのお金から使わせてもらおうかな。気持ちの良いお金でもないし。
「派手な生活さえしなければ、数年は働かなくても生活はできるだろうけど、いつでも我々を頼ってほしい」
「はい、ありがとうございます」
「他の希望は、確か王都の見学だっけ」
「はい。さすがに一度も見たことない異世界の地域に住む勇気はありません」
「それもそうか。ディルクがいるならいいよ」
「ディルクさんですか?」
「団長でも良いんだけど、あとでなに言われるかわからないからね」
「当然です」
「いや、でもお前も王都なんて全然知らないだろ」
なんで自分の住んでる街を全然知らないんだ。寄宿に住んでるとは言っていたけど、街に行くことぐらいあるだろうに。
「そんなものはどうとでもしますので、俺が彼女を案内します。あ、その日は休みにしてくださいね」
「ちゃっかりしてるな。俺は休みなしなのに!」
その後も二人はわちゃわちゃと言い合っているのを横目に団長さんがこそっと教えてくれた。
「ディルクはあの見た目で大の女嫌いで有名なんだが、それでも毎回騒ぎのようになるから街や人混みには行けないんだよ。だから、今回も大変だろうけど、悪いが一緒に行ってやって欲しい」
「はい、楽しみにしています」
って、女嫌いってなんだ? 初耳だけど!?
チラっとロキ君たちを見れば、頷いていた。




