SS 自分の気持ち -ディルク視点ー
「はぁ……最悪だ……」
騎士団用の寄宿舎には、副団長以上になると台所や浴室、トイレや洗面室などが備わった個室が与えられる。
その中の一室、ベッドとテーブル、ソファしかない自室のソファに座り、頭を抱えた。
神殿の小部屋の扉が開いたとき、椅子の音を鳴らして立ち上がった。待っている間の最初は良かった。モカ様が言ったことを考えていたから。だがそれが過ぎ去ると次は数時間が何日にも感じられるほど長く、このまま戻ってこなかったらという不安だけが大きくなっていった。
彼女は、純粋に待たせたことを悪く思ってああ言ったのはわかる。でもそれが俺が必要ないと言われたようで許せなかった。
それでもあれはない。騎士として、一人の人間として、ない。普段の生活で大声をあげることなんてないのに、なぜよりによって彼女の前で…………
そうか……俺は彼女のことが好きなんだ。
彼女を欲しいとは思っていた。だが、それがどういう感情なのか分かっていなかった。
人を好きになるとは、こんなにも自分を制御できなくなるものなのか。
はぁ……ますます最悪だ。許してくれたとしても、怖い思いをさせた事実は消えない。モカ様にも、嫌われただろうか。
そうだ、なにか謝罪の意を込めて贈り物をしよう。モカ様は遊び道具が好きだが、彼女の世界のようなゴムとかいったものはこちらにはない。そうなると次に好きなものは、食べ物だろう。それはきっとどうにかなる。
だが、彼女の好きな物はなんだ……?
そういえば彼女のことをほとんど知らない。きっと逆も然り。それなのに俺はずっと手を繋いで逃さないようにしていた。よく考えれば、ろくに知りもしない人間に、それも彼女よりも遥かに体の大きい人間にそんなことをされているなんて、彼女からしたら恐怖でしかないのでは……?
まずい、これはダメなんじゃないか? 許してはくれても嫌われている可能性が出てきた。
兄によく「お前は人だけでなく物事に興味がなさすぎる」と言われていたが、いま初めてその言葉の意味が理解できた。
いまからでも挽回できるだろうか、いや、するしかない。使えるものはなんでも使ってやる。
仕方がない、あいつに相談するしかないか。でも、絶対笑うだろうな。
それを思うと憂鬱さが更に増した。




