18話 創造神様との面談②
「さて、彼の話はこれぐらいにしておこう。君たちはいつ頃、日本へ帰ると決めているのかい?」
「今のところ具体的にはまだ。1年に3回とのことですので、4か月に1回かなとぼんやり考えているぐらいです」
「うん。帰る時期は任せるけれど、瘴気の土地へはこの国での仕事が終わったらすぐ向かってほしい」
「殿下には最大で2か月と伝えていますが……よくそんな感じでディルクさんと付き合えと圧かけてこられましたね」
思わずジト目になって神様を見てしまう。モカは飽きてきたのか大きな欠伸までしている。
「一瞬で人を好きになれる人だっているでしょう。私が瘴気の土地へ向かって欲しい理由には、君とモカの運命がもうひとつあるんだよ。あぁ、ディルクにも関係があるね」
「……この世界は、運命通りに動かないといけないのですか」
先ほどから話を聞いていると、とにかく選択や運命が重要なんだなと思う。日本にいたときは、人生について考えることはあったけど、そこまで運命について考えることなんてなかった。
「まぁ、それも選択によって変わるんだけどね。私は、ディルクとのこと、この瘴気の土地のことは素直に従ったほうが良いと思うよ」
それはつまり従えっていうやはり命令じゃないか。モカをチラりと見ると、こちらを見ていて目が合う。
「モカにも関わることなんですね」
「そうだね」
「……わかりました、モカのためなら従います」
「ママ、ボクはママの好きにしたらいいと思うよ?」
「モカの幸せがママの幸せでもあるのよ」
モカは優しいわね、どこかの神様と違って。モカを撫でると気持ちよさそうに目を閉じる。
「えー、特別仕様で色々あげたでしょう」
「それに関しては、本当に心から感謝しています。ありがとうございます。でもそれとこれとは別です!」
「神にも厳しいねぇ」
「ところで、この国を出てからのことで気になっていたんですけど、自宅をどこにでも出せることや開拓も自由と説明受けましたが、土地の権利関係などは問題にならないのでしょうか」
勝手に人様の土地を荒らすわけにはいかない。いますでに不法占拠しているから説得力に欠けるけど。
「その点は問題ないよ。あの土地は言わば神の土地だ」
「神様の? それなのに瘴気の土地なのですか?」
「うん、矛盾しているよね」
あの土地の隣国は人間の国と獣人の国で、大昔は仲が悪く、よく揉めていたらしい。そこへ魔族がチャンスとばかりに瘴気溜まりを作り、魔物を発生させた。それがきっかけで、さすがに二国も争っている場合ではないと協力しだしたものの、死傷者は数万を超えた。魔力の残滓がさらに土地を汚し続け、時すでに遅し。
それを見かねた当時の担当神様が魔族を別次元へ追いやり、二国に互いへの侵略を禁じる誓いを立てさせた。だが、瘴気溜まり自体はそのまま残った。神様でも止められず、いまも魔物は発生し広がり続けているんだとか。
いや、神様、遅すぎない?
「本当にねぇ。その別次元に瘴気溜まりも運べば良かったのにね」
困ったものだよと創造神様は呆れたように言うけど、部下の失態はトップの責任では?
「だから、モカを呼んだんだよ」
「いえ、自分たちでなんとかするとかあるじゃないですか」
「その神は別次元なんて勝手に作っちゃったせいで降格してそこの担当になったし、他の神も手一杯なんだ。神も忙しいんだからね?」
「聞けば聞くほど、神様の自業自得で、モカに尻ぬぐいさせようとしているとしか思えない……」
呆れてしまったけれど、それでも放置できない状況なのは理解した。
「ボクだけじゃなくて、ママのスキルも必要だよ」
「ん? なにか使えるものあった? 現代通販のこと?」
建築物なんかはタブレットにあったけれど、それ以外に役立ちそうなものなんてあっただろうか。考えてみても思い当たるものがない。
「ママのスキルに浄化があったでしょ? それがボクの力と一緒に必要なんだよ」
浄化スキルで瘴気を土地ごと綺麗にできるということか。なるほど、そのためのスキルだったのね。
「瘴気溜まりとその土地を浄化するということね」
「正解! だから君にはそのスキルをつけたんだよ。モカは魔物退治もしてもらわないといけないからね」
「えぇっ、モカ、大丈夫なの! 怪我とかしないよね」
モカが戦わないといけないと聞いたら途端に心配になる。いくら強くてもいつ何があるかなんて誰にも分からないんだから。モカの顔を挟むように撫でるが、モカはなに言ってるんだという目をしてこちらを見ていた。
「大丈夫だよ、本気のモカが行くだけで消滅するモノもいるから」
「そんなに凄いんですか、うちの子」
「それはもう。君は家族として彼をもっと信頼して協力し合えばいいよ。その瘴気の土地にいる魔物はなにも悪意や敵意のあるモノばかりではないから、君たちがその土地を管理するようになればうまく付き合うことをおすすめするよ」
「どんなところなのかも全く想像つきませんが。もしその土地を浄化した際には、そこが私たちのものだと書面に残すとか各国に通達することは可能でしょうか」
「しっかりしているね。うん、そこは私が約束しよう」
「ありがとうございます。お願いいたします」
瘴気の土地がどういったところなのかもわからないけれど、自分たちの土地だと思えれば愛着も沸くだろう。
「私とは手紙のやり取りはいつでも出来るし、どこの国でも神殿に来てくれればいつでも会えるようにしておくから困ったことがあれば連絡してほしい」
「はい。なるべくお手を煩わせないように過ごします」
「君は私たちの愛し子なんだから、迷惑なんてどんどんかけていいんだよ」
「あ、その愛し子って具体的になにかあるんですか?」
「そうだね、簡単に言うと特別に選ばれた子だとか寵愛を受ける者として知られている。君の場合は、浄化が使えるけどそれはあまり言わないほうがいいし、あまり使わないほうがいい」
浄化を使って土地を綺麗にするのに、どういうことだろう。矛盾しているのでは。
「なぜ使ってはいけないんですか?」
「浄化を使えるものは、酷使されやすい傾向にある。嫌でしょう? 国に縛られ搾り取られるの」
「絶対に嫌ですね!」
「うん。だから君の場合は、薬草とかポーションとかそういうのでうまく誤魔化せば良いよ。それだって効果は何倍もあるからうまく活用してね」
「わかりました、ありがとうございます」
その後は車のことやお金のことも確認した。お金足りなかったよねごめんね足すよと真剣に言い出した創造神様を、必死にとめるひと幕もあった。
「じゃあ、そろそろ彼も我慢の限界で待っているようだから今日はここまでかな」
彼って彼よね。会って数日の距離感ではないことにかなりの動揺があるけど、創造神様の言うことは聞いたほうがいいみたいだし、魔王を誕生させるかどうかは私にかかってるなんて……
「ふふ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。もちろん私としては従って欲しいとは思うけれど、君の心が一番大事だ。どうしても無理ならまずは私に相談しにおいで」
「わかりました。前向きに検討して、前向きに異世界生活楽しみます!」
「いよっ、その意気!」
「ボクも一緒に頑張るからね!」
「モカ!」
ギュッとモカを抱きしめれば、白い空間だった部屋にだんだんと霞がかかる。
「そろそろお別れだ、またね」
あっさりと消えていった創造神様の前に先ほど入ってきたであろう扉が現れた。さっきと位置が違うような気がするけれど、創造神様が出してくれたんだから大丈夫よね。
モカと頷きあってから、扉を開いた。




