17話 創造神様との面談①
最初はディルク視点、途中からトワ視点に戻ります。
「長いですね……」
そうつぶやいたのは大神官長様かクィンかのどちらかだろう。待っている間、俺はモカ様から言われたことをずっと考えていた。
あの時、もしトワの手を離していたら、もう二度と触れることができないような気がした。
理由など分からない。ただ、そう思った。
『本当に、帰ってこないよ』
後半部分は俺にだけ念話のような形で脳内に聞こえるように言ったのはなぜだろう。モカ様は帰れる方法を知っていて、それをトワが知らないのか。それとも二人とも知っていて、なにか事情があって帰らないのか。
聖女召喚の儀式は一方通行で知られている。この国や他国で行われた儀式について殿下と調べてみたが、帰らせる方法はなかった。それならなんとかお二人が過ごしやすい環境を整えるべきだと、殿下や宰相の間でも決まっている。トワと殿下の婚約を勧めた宰相は許せないが。
「クィンはあの中のことは知っているのか」
「僕が入ったことがあるのは、大神官長様の護衛任務初日だけだな」
「そもそも最高権力者の私ですら滅多に入れませんよ」
「そう、ですか」
「そんなに心配しなくても、どの生き物より最強と言われている聖獣と一緒なんだぞ? きっともうすぐ出てくるって」
そんなこと言われなくても分かっている。俺が怖いのは、彼女が突然来たように、突然消える可能性があるということに気付いてしまったからだ。
早く出てきて、またあのころころ変わる表情を見せて俺を安心させてくれ。
扉から目を離せないまま、ただ待ち続けた。
◇◇◇◇
「お、ようやく来たね。会いたかったよ、2人とも」
小部屋に入ると、そこは真っ白で空気の揺れも感じられない時が止まったような空間だった。その空間の真ん中にテーブルセットがあり、手招きされる。
実際に目にした創造神様は、綺麗という言葉だけでは足りないほど整った姿をしていた。まとう空気そのものが、この世のものとは思えないほど澄んでいる。
けれど、不思議と近寄りがたい感じはない。それでもしばらく、呼吸すら忘れて見つめてしまう。
「ママ、呆けてたらだめだよ」
「ご、ごめん。あまりにも美し過ぎて……」
「ハハッ、どうもありがとう。君たちも可愛いよ」
神様というから、もっと厳かな存在を想像していた。けれど目の前の人物は、あまりにも気さくだった。
いや、気さくというより軽い?
「挨拶はいいよ。全て見ていたしね」
「全て?」
「うん、君がディルクと良い感じなのもバッチリ」
「えっ」
「大丈夫。彼なら安心して君を任せられるよ。なにせ君の運命の相手だからね」
「運命の相手?」
「ディルクとのことは魔力のこともあるけど、それ以上に、君はこれまでの恋愛は長く続かなかっただろう? 最後は浮気されたんだっけ」
なぜ知っている? 地球の神様じゃないのに! てかいきなりその話!?
「神だよ? 地球での運命の相手は彼だったんだろうけど、本来はこちら側が君にとっては縁深いんだ」
「あの浮気男のことは置いておいて。なぜ縁深いのでしょうか。家系でも異世界転移した人間なんて聞いたことありません」
「それがそうでもないんだよ。君の父方のご両親、君にとっては祖父母だね」
「その2人がどうかしたんですか」
祖父母はすごく優しい人たちで私も大好きだったけど、ある日突然、事故で帰らぬ人となったのだ。
「その2人は事故に巻き込まれた時に、別の異世界に転移しているんだよ。君たちのように召喚されたわけではないけれど」
「えっ」
転移にも驚きだし、他にも異世界があるなんて知らなかった。地球以外にも生命体があると言われているのと同じだろうか。向こうから見たらこっちが宇宙人みたいな。それともパラレルワールドとか並行世界?
「君も地球しか知らなかったでしょ? それと同じだよ」
「それはそうですけど……じゃあ、2人は亡くなったわけではなくそこでそのまま生きていたんですか?」
「うん、良い人たちに恵まれて幸せに人生を全うしたようだよ」
「そっか……それなら、良かった」
せめて同じ異世界なら会えたかもしれないのに。亡くなったときは、子ども心にすごく寂しかったけど、二人が最後まで一緒にいられて幸せだったならなによりだ。きっとうちの家族もそれを知ったら喜ぶはず。
「そして、そこへ君とモカの繋がり。君たちも運命の出会いだからね」
「ボクは、ボクのママだってすぐにわかったよ!」
「あら、ママだってこの子だって思ったわよ?」
「それなのに、ディルクに対してはわからないのかい?」
「え、いえ、まだ会って数日ですし……」
「モカのことはすぐわかったんでしょう?」
「それは……そうなんですけど」
あの人が運命の相手ってなにかの間違いじゃ? だってあのよりどりみどりできるあの美貌にあの地位だよ!? 私を選ぶメリットがわからない。
「好かれてるのはわかるでしょう?」
声に出したつもりはなかったのに。さすが神様、筒抜けらしい。
「好かれてるかどうかはわかりませんが、まぁ、そうですね、嫌われてはいないと思います」
だんだんと声が小さくなってしまうのは仕方ないと思う。というかなぜそんなに彼を気にするのか。
「それはね、彼は君が現れなければ魔王になりえる可能性があったんだよ」
「――はい!?」
突然出てきた魔王という単語に、思わず声が裏返る。そうだ、アナがこの世界には魔物がいてそれをまとめるのが魔王だと話していた。でもいま魔王はいないって言っていたはず……
「彼には、昔この世界を脅かした魔王の魂の一部が残っている」
魔王の魂? いや、たしかにロキ君とロク君によく魔王とか悪魔とか言われているみたいだけど、そういうことではないだろう。本物の魔王のことだ。でも、騎士団では厳しいかも知れないけれど、私にとっては優しい人だ。
「人格まで完全に引き継いでいるわけではないよ。問題なのは、その魔力量なんだ。それは本来人間が持つべきものじゃない。それを抑えているのは偏に彼の努力の賜物だよ。でも歳が進むにつれ、年々魔力は増加し、いつ暴走してもおかしくない状態なんだよ」
「それはこう、なにかアイテムとかで抑えられないものなんですか」
「普通はそれで治まるんだけどねぇ」
なるほど、彼は普通ではないということね。じゃあ、私が来てなかったら彼もこの国は危なかったということ?
「もし私が、彼の手を取らなければ彼はどうなりますか」
「君が彼を拒絶した場合は、魔力に飲まれる可能性は高くなる。かの魔王は愛に飢えていたんだ。一度知ってしまったそれを否定すればどうなるかは一目瞭然。私としてはどんな可能性があっても魔王への可能性だけは絶たないといけない。だから君にはぜひ彼の手を取ってほしいと思っている」
「もちろん嫌いではありませんけど、こちらでの生活に慣れる必要があるこの状況でですか」
本当に恋愛とかしてる場合じゃないと思うのに、翻弄されすぎなのよ、自分……
「うん、君はそうでも彼は君を逃すことはないだろうね」
神様に断言されるとますます彼が怖いんですけど?
「私はこの国ではなく、モカと瘴気の土地へ行かないといけません。彼はこの国の騎士です。いまもし付き合ったとしてもすぐ別れることになりますよ」
「それは君の選択だろう。彼には彼の選択がある。けれど、私としては彼のことは前向きに考えて見てほしい。これは、他の神からのお願いでもあるからね」
「圧が強すぎません?」
「神様だからね、仕方ないよね」
そう言って肩をすくめる創造神様はまったく悪いなんて思ってもいなさそうだ。しかも実質命令じゃないか。
「モカは? モカは、以前パパがいてもいいってハルカちゃんに言っていたでしょ」
「そんなところまで見られてたんですか! え、てかいまハルカって……」
「たまたまだよ、毎日ずっと見られるほど神は暇じゃないんだよ。それからここは神域だからね、本名で呼んでも何の問題もないよ」
ここ数日は全く呼ばれることのなかった自分の本名が呼ばれたことに感動するなんて、どうかしている気がする。でもどうしても涙が溜まってくる。ダメ、また泣くわけにはいかない。
「泣いてもいいんだよ? ここじゃ誰も見ていないんだから」
「っ、いえっ、泣きません!」
鼻を思いっきりすすってから、マジックバッグからティッシュを取り出して鼻を噛んで涙も拭く。きっと神様の前でやることじゃないけど、いまは許してほしい。
「泣きたくなったらいつでも神殿においで。君たちならいつでも歓迎するよ」
「ありがとうございます」
「うん。それで、モカは?」
「ボクのパパは、ディルクならいいと思うよ。魔力のこともあるし」
「ほら、君の大事な息子もそう言っているんだから。そもそも彼のなにが不満なの」
「不満とかではなくて、私には綺麗すぎるというか、似合っていないですし。かといって、あの猛攻に耐えられるかと言われれば、自信がないのも事実で。……だって仕方なくない!? あの顔であのハイスペックさですよ!? 彼こそファンタジーでしょ!」
思わずテーブルに手をつき身を乗り出してしまう。
ふぅ、神様の前よ、落ち着くのよ。
「ふふっ、ファンタジー。確かにそうかもね。でもそれならいっそ早く堕ちてね?」
神様からの圧が強すぎるし、身内の異世界転移に魔王って……情報量が多すぎてどっと疲れが出たわ。




