14話 出会い② ーディルク視点ー
「良い香りがした」
彼女がさっき言った言葉を思い出す。
魔力が温かいと感じるだけでも相性が良いとされるのに、その魔力の香りまで感じ取れるのは、神が定めた相手だけと言われている。
彼女はもちろんそんなことは知らないからなにも考えずにそう言ったのだろうけど、自分でもよく耐えたと褒めてやりたい。
あれがもし、彼女が俺と同じ気持ちで二人きりで部屋の中にいたのなら確実に押し倒していた。数日は部屋から出してやれなくなるが、それは彼女がそんな可愛いことを言うから悪いのでは?
眠っている彼女から離れがたく見つめていると、モカ様が近付いてきた。
「ママ、すっかり寝ちゃったね」
モカ様がベッドに軽く飛び乗り、横に寝転ぶ。
くっ、羨ましい……!
「いろいろあり、お疲れだったのでしょう。ここへ運ぶまでの間に魔力を譲渡してみたのですが……」
「ああ、それでだね。ママと君の魔力は相性良さそうだからね」
月を見てから、彼女の様子が変わった。このままでは、彼女が消えてしまうと思った俺は思わず彼女を抱き上げ、魔力を多く流してしまった。
俺の魔力は膨大なうえに濃度が濃く、誰かが魔力切れを起こしても反発されて受け入れられない。逆も然りだ。
一度、同じく魔力が膨大なリオレス殿下と、魔法使いだけが集まる第三騎士団の団長とも実験してみたが、うまくいかなかった。
なのに、彼女だけは違った。
「ママなら大丈夫だよ、お互いに。だから、もしママが倒れることがあれば魔力譲渡をお願いするかも」
「倒れる、ですか?」
「言ったでしょ、魔力のない世界から来たって。だから今、ママの中で魔力が生まれて、体を巡りだしてる最中なんだ。ママはしんどいとか言わないから心配なんだよ」
「……私がその譲渡役になることをお認めになってくださるということでしょうか」
それは男女間では基本、パートナーだけで行うものだ。相性が良ければ、少ない魔力だけで済む。相性が良くないと言っても俺のように反発されることなどはまずない。
女性騎士や女性魔術師は、そういう時は我こそはと俺に寄ってくるが、もちろんすることはないし、俺がダメでもここぞとばかりに見目の良い男を狙う。被害によく遭ってるのは、部下の双子もだ。
「相性良い方がママへの負担も少ないしね。その代わり、ちゃんとママの希望を叶えて、守ってよ。結界があるから攻撃は当たらないけど、怖いものは怖いだろうから」
「もちろんです」
「ボクは、ママの安全と幸せが一番だから、もし妨害する者がいれば遠慮なく叩き潰すから気をつけてね?」
モカ様の言葉に、息を呑む。
その時のモカ様のお顔は彼女には決して見せない顔だろうし、オーラが完全に覇者のそれだった。
「魔力譲渡は喜んでお引き受けしますが、その前にひとつ確認しておきたいことがあります」
「なあに?」
「彼女は……既婚者ですか」
「ううん、恋人も長くいないって」
良かった。過去に恋人がいたことも、おそらくデート以上のこともしていただろうことも気に食わないがそこはもうどうしようもない。過去の男はすべて、俺が上書きすればいい。
腹は立つが。
「そうだ、ディルクはお酒飲む人?」
「いえ、私は基本的には飲みませんね。どうしても必要な時は一口つけるぐらいです」
「それなら良かった。ママはお酒飲まないし、もし君がお酒飲んでいる状態の時に、ママが調子悪くなっちゃったら他の人に魔力譲渡を頼まないといけないからね」
「今後一口すら付けませんので、ご安心ください」
他の男の手を借りるなど、想像しただけで、胸の奥が焼けるようだった。
モカ様は満足げに頷いてから今日はもう護衛は良いと命じた。
名残惜しいが、ベッド脇から揺れないように立ち上がり、部屋を出ていった。
部屋を出た瞬間、第三団長ですら破れぬであろう強固な結界が敷かれる。
外で待っていたロキとロクは、休暇を喜び軽い足取りだ。反対に俺は重い足取りで、殿下へ報告に向かった。
許されるなら、今すぐあの結界の中へ戻りたい。
……ハァ。




