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聖獣と自宅、異世界に着地  作者: 冬実 なぎさ
転移した先での出会い

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13話 出会い① ーディルク視点ー

 


 初めて自宅内に俺だけが入ることを許された。だが、モカ様が目くらましの魔法をかけたためなんとか見えるのは彼女のベッドがあるであろう場所だけだ。モカ様曰く、家の中を見せるのは彼女の許可が下りてからとのこと。

 俺としても黙って女性の家に入るなんてしたくなかったからある意味これでよかったのかもしれない。


 眠ってしまった彼女をベッドに降ろしてから頬にかかる髪を払う。どうしても離れがたかった。

 出会ってから一日。

 我ながら重症だ。


 聖女召喚の儀式が行われたのは、リオレス殿下の私室の執務室で今後の予定を確認している最中のことだった。

 空間の歪みと魔力の暴走を感じ取った我々はすぐに、何かが行われたことを感知した。


 その場で王弟と副神官長含む関係者は全員捕らえられ、いまも王宮の地下牢に入れられている。

 現在の陛下とは違い、王弟は権力欲の強い問題のある人物として有名だったが、まさかここまで愚かだとは思っていなかった。


 もうひとつの問題である中庭に出現したという建築物を見に行く。その建築物から出てきたのは小さな犬を胸に抱え、こちらを見て固まっている黒髪の小柄な女性だった。


 その女性は、不安そうに辺りを見回しているが、妙に冷静に見え、真っ白な犬と頷き合っていた。その犬が彼女の腕から飛び降りると魔狼ほどのサイズになり、我々を威嚇した。この存在から放たれる神聖力は今まで感じたことのない重圧だった。跪いていなければ、倒れていた者も出ていただろう。


 聞けば、彼女は声が出ないから魔力を分けてほしいと。魔力がないというのも信じられない世界だが、そうなれば俺は除外される。だから後ろへ下がった。彼女と話せないのを少し残念に思いながら。そう思った自分に驚く。


 女という生き物が嫌いだった。

 支配欲の強い母、そして外見目当てに群がる令嬢たち。15歳の夜のことは、今でも鮮明に思い出せる。


 国が開く成人祝いの席のワインに妙な甘さを感じた時には、もう遅かった。体が言うことを聞かない。後で知ったことだが、俺が断り続けたせいで、母が婚約者の座を狙う友人の娘のためにワインに媚薬を仕込んでいた。視界が揺れる中で、その令嬢の手が俺の服に触れた瞬間、頭の中で何かが壊れる音がした。


 父と兄が駆けつけてくれなければ、俺はこの顔を焼いていただろう。激怒した父と兄がこの件を陛下に報告し、リオレス殿下の側近候補だった俺に手を出したとして、犯人たちは国外追放となった。両親はそのまま離婚し、まだ若い兄が家を継いだ。


 俺の心には女性に対する拒絶だけが深く刻まれた。事件の首謀者となった母とその女たちのことは、聞くのも嫌で、とにかく俺に二度と関わらないようにしてくれと頼んだ。

 それが最悪の出来事だったが、それ以降も外見だけを見て近付いてくる女性は後を絶たなかった。


 なぜ、騎士である俺を襲おうと考えるんだ?

 なぜ、自分ならいけると勘違いができるんだ?


 それからは極力、人の多い所にも出ず、休みでも別途許可を得た討伐で溜まった魔力を発散しているだけの日々だった。


 そんな俺が彼女に触れた瞬間、人生を変えられた。


 自ら女性に触れるなんて絶対に有り得なかった。それは、討伐中でもだ。助けようとすれば妙な勘違いをされたり、わざわざ俺を指名してくる者もいたため、すべて他の者に任せた。


 だけど、彼女にはなぜか手を差し伸べることができた。俺には女性の好みなんてないが、彼女は正直、誰が見ても普通と言うであろう容姿だ。誰もが振り返るような美貌というわけではない。


 だけど、彼女だと本能が告げている。番を見つけたと話していた獣人も同じようなことを言っていたことを思い出す。


 なによりも、俺の魔力を受け取れる者がいるなんて信じられなかった。

 この時の俺の動揺と喜びは、過去で一番かもしれない。奇跡的なことだった。

 手を振りほどこうとされるまで、手を繋いでいることさえ忘れていた。


 彼女はなかなか俺と目を合わせようとしなかった。少しでも一緒にいたかった俺はエスコートを申し出るが、それさえ彼女は戸惑った様子を見せていた。街へ行こうと誘った時の反応はとても可愛かった。街に行きたいなんて思ったことはなかったが、彼女のためなら喜んで行く。


 一度、可愛いと思えば、堕ちるのは簡単だった。


 年は、ロクたちと同じぐらいだろうか。もし、すでに結婚していたとしても——もう帰れないんだから、奪えばいい。そう思った自分を、俺は不思議と咎める気になれなかった。


 そういうことを考えると必ずモカ様がこちらを見ていた。モカ様は聖獣だ。もはや伝説上の生き物となっている。まさか、その聖獣が異世界に転移していたなんて、誰も想像すらできなかっただろう。


 きっとモカ様は、俺が彼女を欲しているのに気付いている。気付いているのに、何も言われないということは、俺で良いと解釈した。


 嘘か真かは知らないが、俺の婚約者争いはいまだ続いており他国にまで及んでいると聞いている。ちなみに、リオレス殿下も同じく、婚約者がいないからとにかく狙われる。

 俺には王家との約束があり、家との縁切りがいまだ許可がおりないが、今年でそれも終わりだ。そんな時に彼女と出会えたなんて夢のようだ。


 平民になれば、いまの貴族社会からも脱せられるし、彼女の苦労が増えることもない。いまの仕事や地位がなくなることもないから、生活面も安心させられる。夜勤のある仕事をしている人間が嫌だと言われたら騎士を辞めればいい。収入は他にもある。


 もう彼女以外、いらない。

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