10話 寿命
それから聞いたのは、平均寿命のこと。これはあまり日本と大差なく100歳前後。魔力の影響で他国より少し長いのだとか。
そういえばみんな何歳なんだろう。壁際に立っているロキ君に小さく手招きしてみる。
「ロキ君とロク君て何歳なの?」
「オレたちは21歳です」
「若っ。下の妹と同じ年だ」
「私も同じく21歳です」
「あれ、そうなんだ。もっと若いのかと思ってたわ。それじゃ、3人は同期なの?」
「オレたちは騎士科だったので科は違いますが、同期ですよ」
「へぇ、騎士科なんてあるのね。殿下はおいくつなの?」
「殿下は22歳ですね。1つしか違わないのに殿下は本当にすごいお方ですよ」
なんでも殿下は国民に大人気の存在らしい。街の衛生問題や孤児院の設立、問題があれば遠方にも自ら足を運ぶこともある身軽さ、なによりあの外見。なのに婚約者はいないんだとか。異世界小説だと大抵婚約者がいる年齢で、真実の愛とか言い出して破滅するのよね。
「団長も婚約者どころか恋人すらいませんよ」
なぜか強調するように言いながら、ロキ君がこちらをニヤニヤと見てくる。もしかして私が気があると思われているのか?
「2人とも優良人物だろうからその気になればすぐに決まるんじゃない? あの人はいくつなの?」
「25歳です。クィンさんと同い年で同級生ですよ」
「へぇ、同じ学校にいるなんて女子は大変だったろうね」
「学園行事は本来一般公開されるものなのですが、招待客以外は誰も入れなかったそうですよ」
「思ってた以上に大変だったのね。寿命が一番長い国がここなの?」
「いえ、ドワーフがだいたい250歳ぐらいです。一番長いエルフは500歳越えが普通です」
「ほぇ~……もう想像できなさすぎて言葉にならなくなってきたわ」
「トワさんのいたところは違うのですか?」
「男女差があるけど、平均寿命が確か80〜90歳前後だったはず」
ロキ君がふむと顎に手をあて、首を傾げる。
「こっちへ来たことによって寿命が延びてるとかないんですか?」
「そういえばそういう可能性もあるのか。モカが起きたら聞いてみるわ」
「ぜひそうしてください。長くこの国で過ごしていただけるとオレたちも嬉しいですから」
この人たらしめ。なんて良い笑顔で言うんだ。私が苦笑いしていると、控えていたアナが静かに一歩前に出た。
「トワ様。ちょうどきりも良いですし、本日はここまでにしましょうか」
「午前中だけで良いの?」
「はい。殿下から、慣れない環境で詰め込み過ぎるのは良くないから当分は午前中だけにするよう言われております。明日は大神官長様が来られます」
「そうなんだ、いろいろ気遣ってくれてるんだね。お礼伝えておいてね」
「昼食はどうされますか? 別宮の食堂もご利用いただけますよ」
「モカもいるし、自宅で食べようかな」
「では、オレが送っていきますね」
「アナとはここでお別れってことね。またいつなのかわからないけど、後日でいいのかな」
「侍女は本来常にお側にいるべき存在ですので、そういったことにも慣れていっていただけると私も嬉しく思います」
「そっか、わかった。いまはまだこうやって護衛されたり、誰かに側にいてもらうのは慣れないからごめんね。徐々に慣れるとは思うから」
「はい、待っていますね」
美少女のほほ笑み、プライスレス。
「モカ、起きて。家に帰ってお昼ご飯にしよう」
モカを優しくゆすりながら起こす。ふわあと大きなあくびをしながら起き上がるがまだ寝ぼけまなこだ。
「オレが抱っこしていきましょうか?」
「ううん、大丈夫だよ。ありがとう。モカ、起きないとお昼ごはんなくなっちゃうよ?」
その途端、ぱっと目を開け、シャキッとしだす。
「ボクのごはん!」
「よし、いいコね。ね、こう言うといつも起きるのよ」
「なるほど。オレたちも困ったら使いますね」
笑いながら部屋を出ると、外にいた騎士さんたちと目がばっちり合ってしまう。あ、初めて見た普通の人だ。失礼とは思いつつ、全員が全員美形ではないと知って少し安心する。
目が合ってしまった以上、話すなとは言われているけれど、無視も感じ悪いだろうから会釈だけしておく。騎士さんたちは驚いた顔をしてから慌てたように頭を下げた。えぇ、こっちは会釈だけなのに申し訳なくなるわ。これは早く出てあげたほうが良いんだろうなと足早に自宅へ戻ることにした。
ロキ君が家前まで送ってくれたときに聞いたのだけど、この中庭は今日だけでなく別宮に勤めている人も入れないから遊び場として使って良いと許可が出ているそうだ。この中庭なら大きくなったモカでも遊べるから助かる。腹黒そうだと思っていたけど、気遣いの細かさは本物だな、あの殿下。
自宅でお昼ご飯を食べながら、さっきロキ君から聞いた話を思い返していた。
「ねぇ、モカ。この世界って寿命が日本より少し長いみたいなんだけど、ママはどうなるの?」
「神様がママの寿命も延びてるって言ってたよ」
「そうなの!?」
「そうしないとママだけすぐいなくなっちゃうから嫌だし、お願いしたの」
「そっか、そういう事になるのか。モカの寿命は?」
「ボクはママが消えたら神様のところに行こうかなって考えているよ」
「……そう」
「ダメ?」
「ううん、そうじゃなくて……日本では寿命で考えると私よりモカのほうが早く儚くなっちゃうからモカがいなくなったら寂しいなっていつも思ってたの。それが逆になるんだと思うとそれはそれでモカを置いていくのもつらいなって」
「でもここではその時までずっと一緒だよ!」
モカがそう言ってくれるのは嬉しい。でも本当にそれでいいのだろうか。
「ダメなの?」
「ダメじゃないよ。でもモカにもいつか家族ができるかもしれないでしょう? そうなったときにどうしたいかもう一度あらためて一緒に考えようね」
「えー、ボクはママがいればいいよ。あ、パパはいてもいいよ。ママをとびっきり大事にしてくれる人なら!」
「ママはモカを大事にしてくれる人じゃないと論外よ」
「じゃあ、ボクとママを大事にしてくれる人だね!」
「そんな人がいればいいけどねぇ」
私にはどうしても、その人に与えられないものがある。あの時、病気で体の一部と引き換えに命が助かった私には、もう子どもは望めない。だから、子どもが欲しいと思う人には、私は最初から選択肢に入れてもらえない。
仕事を退職してから、趣味のアクセサリーや小物作りで少しずつ売上があがり、楽しく過ごしていた。
お一人様計画のひとつとして次は副業可なところで働こうと就活をしていた矢先、こんなことになってしまった。
人生、どこでどう転がるか分からないものだ。
膝の上に頭だけを乗せているモカの頭を撫でながら、私はそっと息を吐き出した。




