第五話 初めての依頼
ようこそ、『黒彼岸花』の世界へ。
今日もショコの物語を、どうぞお楽しみください。
ショコは村の北にある森へ向かって歩いていた。
手には、少しくしゃくしゃになった依頼書が握られている。
村から離れるにつれ、人々の話し声は少しずつ遠ざかり、代わりに鳥のさえずりと風が木々を揺らす音だけが耳に届いた。
ショコは嬉しそうに小さくつぶやく。
「ふふふ……」
「甘いもの、食べるぞ……。」
そのまま歩き続ける。
しばらくすると、森は次第に深くなっていった。
高い木々、茂った低木、そして様々な毒草が辺り一面を覆っている。
木々の隙間から差し込む日の光もわずかだった。
ショコは辺りを見回した。
「おぉ……。」
「ここかな。」
依頼書を開く。
「さて……薬草を探さないと。」
描かれた絵をしばらく見つめる。
そして困ったようにため息をついた。
「全部同じに見えるんだけど……。」
ショコは森の中を歩きながら探し始めた。
しばらくすると、大きな木の根元に見覚えのある植物を見つける。
依頼書の絵と見比べる。
「これだ。」
慎重に摘み取り、袋へしまった。
自然と笑みが浮かぶ。
「あと二つ。」
「全部見つければ終わり。」
「待っててね、甘いもの。」
ショコは再び歩き始めた。
一、二時間ほど探し続けると、大きな崖の前へたどり着く。
思わず立ち止まった。
「おぉ……。」
「すごく大きい……。」
辺りを見渡すが、目的の植物は見当たらない。
ショコはもう一度依頼書を開いた。
今度は植物ではなく、背景をじっと見つめる。
そこで気づいた。
植物は地面ではなく、切り立った崖の岩肌に生えていたのだ。
ショコはゆっくりと崖を見上げた。
岩肌のあちこちに、小さな紫色の葉が見える。
目が輝いた。
「見つけた!」
慎重に崖へ近づき、植物を摘み取って袋へ入れる。
額の汗を拭きながら、小さく息をついた。
「やっと……。」
「二つ目も見つけた。」
辺りを見回す。
「さて……。」
「次はどこだろう。」
その時、遠くにそびえる高い岩山の頂上が目に入った。
依頼書の絵と見比べる。
「もしかして……。」
「あそこかな。」
小さくうなずく。
「最後の一つは、あそこだ。」
ショコはすぐに岩山へ向かった。
二、三時間後、ようやく岩山の麓へ到着する。
見上げる。
「おぉ……。」
「どうやって登るんだろう……。」
周囲を探したが、登れそうな道はどこにも見当たらない。
少し考えたあと、肩をすくめた。
「……仕方ないか。」
「よじ登るしかないね。」
岩に手をかけ、突き出た岩場をしっかりつかみながら、一歩ずつ登り始めた。
崖の中腹まで登った頃、疲れた様子でつぶやく。
「今度からは……。」
「毒草がどこに生えているか、ちゃんと調べてから来よう……。」
そして少し大きな声で叫んだ。
「疲れたよぉ!」
それでも諦めず、登り続ける。
しばらくして、ようやく頂上へたどり着いた。
ショコは深呼吸をし、依頼書をもう一度開く。
植物の絵を見直し、頂上を見渡した。
「もしここにもなかったら……。」
その瞬間――
崖の端に一本だけ咲く、濃い紫色の花が目に入った。
クロツユだった。
ショコの目が輝く。
「見つけた!」
ショコは慎重にクロツユを摘み取り、袋へしまった。
その後、山を下り、村へ戻る。
数時間後――
ショコは再び冒険者ギルドへ戻ってきた。
受付にいた狼族の少女は、薬草を一つずつ確認する。
やがて優しく微笑み、うなずいた。
「依頼達成です。」
彼女は木箱から銀貨三十枚を取り出し、ショコへ差し出した。
ショコは軽く頭を下げる。
「ありがとうございます。」
銀貨を大切に握りしめ、そのままギルドを後にした。
嬉しそうに目を輝かせながら、小さくつぶやく。
「ふふふ……。」
「やっと甘いものが買える!」
ショコはまだ知らない。
この小さな依頼で手にした初めての報酬が、新しい人生の第一歩になることを。
第五話 完
お読みいただきありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。




