第四話 冒険者ギルド
ようこそ、『黒彼岸花』の世界へ。
今日もショコの物語を、どうぞお楽しみください。
ショコは村の通りを歩き、ギルドへ向かった。
やがて大きな木製の看板が見えてくる。
そこには黒い文字でこう書かれていた。
「闇の森冒険者ギルド」
ショコは小さな声でつぶやいた。
「……これが、ギルドっていうものかな。」
彼女はゆっくりと扉を押した。
ギィ……
扉が開くと、暖かな灯りと人々の賑やかな声が耳に入る。
中では狼族、狐族、猫族の冒険者たちが低い机を囲み、笑いながら話をしていた。
ある者は地図を広げ、
ある者は剣を研ぎ、
またある者は依頼を終えたばかりなのか、酒を飲みながら休んでいた。
壁一面には数え切れないほどの依頼書が貼られている。
薬草採取
魔物討伐
護衛依頼
依頼は難易度ごとに分けられていた。
依頼は難易度ごとに分けられていた。
Eランク――最も簡単な依頼。
Dランク――初級戦闘依頼。
Cランク――ある程度の実力が必要な依頼。
Bランク――経験豊富な冒険者向けの危険な依頼。
Aランク――精鋭冒険者だけが受けられる特別な依頼。
Sランク――国の命運を左右する超高難度依頼。
SSランク――限られた者だけに許される極秘依頼。
ショコは感心したように辺りを見回した。
「おぉ……」
その時、受付に立つ一人の少女が目に入った。
灰色の狼耳と長い尻尾。
肩まで伸びた黒髪を綺麗にまとめている。
少女は冒険者から受け取った書類を確認し、木の板に何かを書き込んでいた。
一人の狼族の青年が近づく。
「依頼、終わった。」
少女は静かにうなずく。
「報酬は銀貨三百枚です。」
そう言って銀貨を差し出した。
無駄のない、正確な動きだった。
ショコは周囲を興味深そうに眺めており、その様子に気づいていない。
やがて受付の少女が顔を上げた。
その視線はまっすぐショコへ向けられる。
まず黒い狐耳。
そして、ゆっくりと揺れる九本の尻尾。
ギルド内の喧騒が少しずつ静まっていった。
狼族の青年は酒杯を持ったまま固まる。
猫族の少女は目を大きく見開いた。
「九本……。」
狐族の年配冒険者が小さくつぶやく。
「王族……。」
しかしショコは何も気づかず、依頼掲示板を見つめながら小さくつぶやいた。
「うーん……。」
「まずは簡単な依頼から始めよう。」
ショコはEランクの依頼書を一枚手に取り、受付へ向かった。
受付の少女は丁寧に頭を下げる。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
少女は依頼書を見た後、ショコへ視線を向けた。
一瞬だけ九本の尻尾を見る。
だが何も言わなかった。
「新規登録ですか?」
「はい。」
少女は受付の下から分厚い帳簿を取り出した。
「では、最初にギルド登録を行います。」
ショコは小さくうなずく。
「分かりました。」
少女は羽ペンを手に取った。
「こちらへどうぞ。」
ショコは受付横の小さな部屋へ案内された。
部屋には木の机とインク壺、そして分厚い登録帳が置かれていた。
少女は椅子を示す。
「どうぞ、お掛けください。」
ショコは静かに腰を下ろした。
少女は羽ペンをインクに浸し、質問を始める。
「お名前は?」
ショコは少し考えて答えた。
「ショコです。」
少女は帳簿に書き込む。
「ショコ……ですね。」
「はい。」
「年齢は?」
「十八歳です。」
少女は再び書き込んだ。
「パーティーには所属していますか?」
「いいえ。」
「承知しました。」
部屋の中が一瞬静かになる。
少女は次の質問をした。
「魔物と戦った経験はありますか?」
ショコは少し驚いた。
「魔物……?」
少し考えた後、小さく首を振る。
「ありません。」
少女は穏やかに続ける。
「戦闘スタイルは?」
「魔法使い、剣士、弓使い……それとも別の戦い方ですか?」
ショコはしばらく黙った。
「……分かりません。」
少女は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、何も言わなかった。
引き出しから白い金属製のギルドカードを取り出し、素早く文字を書き込む。
書き終えると、それをショコへ差し出した。
そこにはこう記されていた。
名前:ショコ
年齢:十八歳
職業:不明
ランク:E
カードの下にはギルドの紋章が刻まれている。
少女は微笑んだ。
「これで正式に『闇の森冒険者ギルド』の一員です。」
ショコはカードを大切に服の内ポケットへしまった。
「ありがとうございます。」
少女はうなずく。
「それでは、ご自身に合った依頼をお選びください。」
ショコは再びホールへ戻った。
Eランクの依頼書の中に一枚の紙が目に留まる。
『毒草採取』
ショコは静かに依頼書を手に取った。
周囲の冒険者たちは今も彼女を見つめながら小声で話している。
「九本尻尾なのに……。」
「本当にEランクから始めるのか……。」
ショコは気にする様子もなく受付へ戻った。
少女は依頼書にギルドの印を押す。
「依頼を受理しました。」
「毒草は村の北にある森で採取できます。」
「日が暮れる前に戻ってきてください。」
ショコは静かにうなずいた。
「分かりました。」
依頼書を丁寧に畳み、服の中へしまう。
そしてギルドの扉へ向かって歩き出した。
ギィ……
木の扉がゆっくりと開く。
冷たい風が頬をなでる。
ショコは一度だけ空を見上げた。
その口元には小さな笑みが浮かぶ。
「……これが。」
「私の最初の依頼。」
ショコは森へ向かって歩き始めた。
――まだ彼女は知らない。
この何気ない依頼が、自分の運命を大きく変えることになるとは。
お読みいただきありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。




