第六話 初めての餅
ようこそ、『黒彼岸花』の世界へ。
今日もショコの物語を、どうぞお楽しみください。
第六話 初めての餅
ショコは三十枚の銀貨を大事そうに握りしめながら、村の通りを嬉しそうに歩いていた。
その顔には優しい笑みが浮かんでいる。
「甘いものが食べられる!」
少しだけ足取りが速くなった。
しばらく歩くと、朝に甘い香りだけを感じて通り過ぎた菓子屋が再び目に入った。
店先には餅や団子など、さまざまな和菓子が綺麗に並べられている。
焼きたての甘い香りが風に乗って辺りへ広がっていた。
ショコの目がぱっと輝く。
「見つけた……」
迷うことなく店へ向かった。
店主はショコを見ると、優しく微笑んだ。
「こんにちは。」
ショコも丁寧に頭を下げる。
「こんにちは。」
並べられた餅をじっと見つめながら、小さな声で尋ねた。
「これは、いくらですか?」
店主は一つの餅を指差した。
「一つ、銀貨十枚ですよ。」
ショコは手の中の銀貨を見つめる。
銀貨三十枚……
迷うことなく十枚を取り出し、店主へ差し出した。
「じゃあ……一つください。」
店主は餅を紙で丁寧に包み、ショコへ渡した。
「どうぞ。」
ショコは両手で大切そうに受け取る。
そして、小さく頭を下げた。
「ありがとうございます。」
餅を見つめながら、小さく呟く。
「家に帰ってから食べよう。」
そう言って歩き始めた。
しかし――
視線は餅から離れず、思わずよだれがこぼれそうになる。
数歩歩いたところで、小さく呟いた。
「一口だけなら……大丈夫だよね。」
ショコはそっと餅を一口かじった。
「ん〜……」
その瞬間、目がぱっと輝く。
「おいしい!」
甘い味が口いっぱいに広がる。
もう止められなかった。
もう一口。
さらにもう一口。
気が付けば、餅は全部なくなっていた。
ショコは満足そうに微笑む。
「ふふふふ……」
「すごくおいしかった!」
だが、その次の瞬間。
笑顔がぴたりと止まる。
「……あ。」
目を丸くした。
「食べちゃった……」
「家で食べるって言ったのに……」
少しだけ肩を落とす。
「まあ、いいか……」
「どうせ食べるつもりだったし。」
小さくため息をつきながら、家へ向かって歩き出した。
しばらくすると家へ着いた。
中へ入ると、そのまま自分の部屋へ向かう。
布団に横になり、静かに目を閉じた。
「今日は疲れたな……」
まもなく眠りに落ちた。
……
ショコは前世の記憶を見ていた。
血の匂いが漂う戦場――
手には刀。
地面には無数の亡骸。
それでもショコの顔には、いつもの明るい笑みが浮かんでいた。
「ワハハハ!」
「最高の戦いだった!」
ショコは昔から、自分より強い相手と戦うことが大好きだった。
命を懸けた戦いが始まるたびに、胸は高鳴る。
相手が強ければ強いほど、心が躍った。
戦いは恐怖ではない。
彼女にとって、それは何よりも胸が躍る時間だった。
やがて戦場は静寂に包まれる。
聞こえるのは風の音と、刀から滴り落ちる血の音だけ。
ショコは笑みを浮かべたまま、戦場の真ん中に立っていた。
……
その時――
ショコは勢いよく目を開けた。
すでに朝になっていた。
窓から差し込む柔らかな朝日が部屋を照らしている。
ショコはしばらく天井を見つめる。
「……夢か。」
そう呟くと、ゆっくりと起き上がった。
新しい一日が、静かに始まろうとしていた。
第六話 終わり
次回もよろしくお願いいたします。




