表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/22

9.自販機に手が届かない

 唐風高校体育館裏。校内に自販機があるのはありがたいけど、買いに行くには教室から離れすぎているのが大きな欠点だ。

 おそらく運動部の活動場の兼ね合いでこの場所になったのだろう。しかし、普段使いするには使い勝手が悪すぎる。

 まあ体育館裏で人目に付きづらく、また日陰になっていて涼しいのは利点とも呼べる。


 体育館の真横を抜け、自販機が見えてくるところに差し掛かると、先着がいることに気付いた。

 ──背丈の小さい女子生徒が懸命に飛び跳ねている。頭の両端のツインテールがその存在をピコピコ主張している。


 「って、ロリ先輩じゃん」

 

 近づきにつれてなんだか見覚えがあるなあ、なんて思ってたら実際に顔見知りだった。

 ロリ先輩──図書委員長、三倉美桜先輩の双子の姉、三倉澄海は振り返って僕の顔を見るなり、顔をしかめる。


「げっ、女男のお兄さんじゃん。一体何の用なわけ?」


「いや用があるのは自販機の方だよ。早く退いてくれないかな」


「それは無理な話」


「理由を聞いても?」


 僕の問いかけにロリ先輩は無言で返す。

 だが、僕は何となく事情を察している。おそらく身長が足りなくて、欲しい飲み物のボタンが届かないのだろう。

 だから必死に背伸びしてみたり、ジャンプしてみたりしていたわけだ。


「君、手を貸してほしいなら貸してあげるよ。僕は懐が深いからね」


「なにその言い方?別にお兄さんの助けなんて要らないわ。私一人っ……で、何とかっ……できるはずなのにっ!」

 めげずに何度もトライするがかすりもしない。

 ……低身長って大変なんだなあ。僕も男子の中だと低い方に当たるが、自分の身長で困ったことは体育の授業で少し不利だと感じる時ぐらいだ。

 っとそろそろロリ先輩が不憫で良心が痛まれるので助けてやろう。

 

 「……これが欲しいの?はい」


 ボタンを押せば、ガタンと飲み物が叩きつけられる音がした。


「お兄さんのことは癪に障るけど、感謝はする。あんがと」

 素直じゃない善寄りの悪役が最大限言葉を選んで感謝したみたいだった。

 

 ロリ先輩は受け取り口からカフェオレを取り出し、ベーと舌を出して立ち去っていく。

 僕はそのたくましい背中を見送って、自販機の近くに石でも積んでおこうかなと思った。


「と、そんな場合じゃなかった。エナドリ、エナドリ」


 自販機のサンプルを流し目で一望し、隅の方にあった缶のボタンを押し、購入。

 缶なだけあって、排出時の衝突音はさっきよりも鈍かった気がした。


 ☆


「ぷはあ……、ああ生き返った。砂漠で三時間練り歩いたあとに飲む水の味って感じだな。十数年は水飲んでないけど」

 一本丸々完飲した夜原井先生は夢見心地でエナドリの缶に頬ずりをする。

 ……カフェイン中毒ってこんなに怖いのか。僕も気を付けよう。


「夜原井先生、この指南書についてなんですけど」


「おお、早速見てくれたか。私は言葉で伝えるよりも文字で伝える方が得意なんだ。これからも紙で指導するからな。……別に部活に出るのがめんどくさいわけじゃないぞ」

 なんか最後の言葉が本心にも聞こえるけど、プリントの出来は確かだ。

 これから夜原井先生には幾度となく頼ることになるのだろう。


 と、会話の隙を縫うようにシャッター音が切られる。


「あ、気にしないでくれ瞬。手品部のポスターに使う写真を撮ってるだけだから」


「じゃあ手品をしている様子を取るべきでは?」


「日常の風景。顧問に教えを乞う精力的な部員。どうだい?絵にはなるだろう」


「まあ確かに」

 まだそんなに活動しているわけでもないから日常とは言い難いけど、絵になるなら仕方ない。

 國城の不敵な笑みの裏には何か隠されていそうで怖いけど。


「そういえばさっき美白ちゃんが来たよ。瞬に用があるって」


「そうなのか?当の白鳳さんはもうどっかに行っちゃった感じか」


「感じだね。入部を勧めたんだけどフラれちゃったよ」

 結構いい感じだと思ったんだけど、と國城は肩を落とす。彼女曰く、僕と部活するのは解釈違いだそうだから、僕が抜ければ入ってくれるのではないだろうか。

 元の話が部員数の問題だし、僕が抜けて白鳳さんが入るのはプラマイゼロなのが問題だ。


「まだ一切諦めたつもりはないけどね。もしも白鳳さんを追っかけるなら、図書室にいるらしいよ」


「そっか。じゃあちょっと様子見てくるよ。いい?」


「もちろん」

 國城は白い歯を見せて快く親指を上げる。


「じゃあ先生も帰らせてもらおうかな。エナドリの新フレーバーの考察をしないとダメだからな」

 僕が部室を退出するのに乗じてメロン先生も立ち上がる。よれよれの白衣がフラッと揺れて亡霊みたいだ。

 けれど両の足がしっかり地面についているのを見るにエナドリパワーは図りしれない。


「國城はどうする?」


「俺は残ってポスターの作成、部活紹介の動画編集をするつもりだよ。……ああ、これは部長としての責務だから、瞬が気にすることはないよ。むしろ俺は個人で作業するほうが集中できるし、瞬がいない方が助かる」

 そう言って園城はノートパソコンを立ち上げる。

 ……國城はそう言うけど、なんでも一人で背負い込んでいる気がしてならない。

 まあ僕は僕で『夜月』の件が解決してなく、自分の問題も片付いていないのに人助けできるような立場にないけど。


「それじゃあ各自解散さ。お疲れ様、瞬、先生」

 

 こうして今日の手品部の部活動は幕を下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
日常回と言っていい回でした。こういう平和なの見ていると僕の今書いてる小説、なんか、暗い、ってなってしまいました。 ほのぼのできるもの一生書いてください!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ