8.手品部顧問
「精力的な部活動ってどんな部活動かな?では副部長、答えを」
「うーん。……熱気があるとか?」
僕が必死に捻り出した答えを國城は手をバッテンにして容易に打ち砕いた。
……結構真面目に考えたんだけどなあ。
落胆する僕に微笑しながら國城は言う。
「熱気や俺達頑張ってる!みたいな雰囲気って結局内輪にしか伝わんないよ。傍から見て、精力的だと思わせるにはやっぱり──結果だね」
國城は懐から一枚の紙を取り出し、机の上で広げる。
『第十三回高校生マジック選手権』中心にでかでかと書かれたタイトルは、それが何を競う大会なのかが一瞬で分かる。
そして國城がこれを見せてきたということは、多分そういうことなんだと察した。
「手品部の今年度の年間目標はこの大会に出て賞を取るということさ」
「目標は分かりやすくていいけどさ……。そんな簡単に賞を取れるものなのか?」
訝しむ僕の視線を受けて、國城はチッチッチと指を振る。
茶髪と耳のリングピアスが相まってとてつもなくチャラく見えたことは言うまでもない。
「志は大きい方がいいだろ?それに最近、俺達手品部を補助してくれる凄腕のマジシャンを見つけたんだよね」
示し合わせたみたいに部室のドアが開かれ、白衣を身に着けた女性が入ってくる。
化粧が薄く、目の下に深いクマのできた不健康そうな女性。寝癖が放置されていて、特に頭頂部のアホ毛は大きなウェーブを描いていた。
その女性は部室に入ってくるなり、よろめき壁にもたれかかる。
「え……な……」
「えな?」
「エナドリを……飲まないと」
女性は小刻みに震える腕を何とか白衣のポケットに伸ばし、そして電源マークの書かれた缶を取り出した。
そしてゴクゴクと喉を鳴らしながらエナドリを流し込む。
「ぷはあ……。あぶねー、死ぬところだったわ。ん?何見てんだお前ら?」
「見たというか見せられた感じですけど……」
「瞬、警戒しなくていいよ。この人が凄腕のマジシャン件手品部の顧問を勤める夜原井先生だ」
「うむ夜原井先生と呼ぶがいい」
國城の紹介を受けて夜原井先生は腕を組み鼻を鳴らす。
「喜べお前ら!マジックのマの字も分からねえようなお前らのために、私が直々に鍛えてやる!好きなものはエナドリで、私は水の代わりにエナドリを飲む」
意気揚々とカフェイン中毒宣言をし、夜原井先生はがぶがぶエナドリを飲む。
……なんかまた頭のおかしい人が現れたな。
「國城、この先生大丈夫なのか?」
「大丈夫、安心して。先生のマジックの腕はホンモノだからね。学生時代はマジックで学校を支配したという逸話があるよ」
「マジックに関しては、まあ國城が言うから信用するけどさ……。僕が言いたいのは人間性の話なんだけど」
……あと、マジックで支配される学校は脆弱すぎないか?国立マジック学園かなんかに通ってたのかよ。
「おいそこイチャイチャするな。男女二人で部活だなんて羨ましいじゃないか。先生は婚期を逃しそうだと言うのに……」
「先生、僕は男です」
「え、そうなのか?すまん」
「まあ瞬はかっこいいより可愛い系の顔だからね。間違えるのも仕方ないと思いますよ」
「だよな!仕方ない仕方ない。おっと、先生は今からエナドリの補充という重大任務があるからこの辺でお別れだ。自己紹介は済んだしいいよな?じゃあな」
豪快な捨て台詞を残して夜原井先生は踵を返した。
登場のままならない足取りとは、正反対の軽いステップを踏むような足取りで。
「嵐なんて比にならないぐらいの暴風だったんだが……。ほんとに大丈夫なのか?あの先生」
「自由人みたいなところはあるからね。でもその方が返って融通を聞かせてくれると思うよ。それに……」
國城は選手権の概要祇とは別に一枚の紙を差し出した。受け取って内容を見ると、それは初心者向けのマジックとその練習法が書かれた手書きの指南書だった。
「夜原井先生が俺たちのために用意してくれたのさ。あの感じで結構生徒思いなんだよね」
内容はマーカーペンで色分けされていて、お勧めの動画のURLや、成功へのマインドなど綿密に書かれたプリントを見ると、生徒思いの先生の心根が垣間見える。
こんなものを見せられては、納得せざるを得ないな。
夜原井先生の認識を改めなくては。
「お……い。お前……ら。エナドリが、……きれた。かって、きて……くれ」
……できる限りの範疇でだけど。
「だってさ、瞬。どっちが買いにいく?」
「ここは公平にジャンケンでいこう」
最初はグーの掛け声と共に、僕がパーで國城がチョキ。これは男気や大阪じゃなくて純粋なジャンケンなのでこの場合、僕が買いに行かなければならない。
「じゃあ行ってくるよ。……死んでる夜原井先生の介抱は國城に任せたから」
財布を手に取り地面へ横たわった夜原井先生のため、僕は部室を後にした。




