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6.鵜呑みにするな

 大阪府吹田市ららぽーとエキスポシティ。日本最大と言っても過言じゃないほど、大型のショッピングモールで、「夜月」とのエンカに選ばれた戦場だ。

 開店間もない店内には、既に多くの人が越しかけていた。

 遠くから見ても目立つ白髪がベンチで何かを咀嚼しているのを見て、僕は慌てて駆け寄る。


「ごめん待った?」


「あ、朝霧君。おはようございます。今日もまた一段秀麗な相貌であられて、もごもご。全然時間通りなので心配しないでください。私はこれが食べたかっただけなので」

 そう言って白鳳さんは丸いカップを差し出してくる。

 ──紫色のじゃがりこ?


「カルビープラス期間限定、ナス味のじゃがりこです!揚げたてのじゃがりこらしい、ホカホカで香り高い逸品です。一緒に食べませんか?」


「ああ……うん。一本もらうよ」


 白鳳さんの熱烈なレビューに負けて、好意を受け取る。

 ……あ、結構ナス。ちなみにできたてじゃがりこを食べたのは初めてだ。次は是非普通のを食べたい。


「で、「夜月」の方はどんな感じ?」


「ん~。それが、さっきから連絡を送ってるんですけど、全然返信が来ないんですよね」


 なすじゃがりこを咥えながら、白鳳さんは困ったように眉を下げた。

 トーク画面を見せてもらうと、確かに白鳳さんが来ているかどうかの確認に対しての返事がない。未読スルーの状態で一時間ほど経っている。


 僕とnakiriの秘密を知る「夜月」の素性を探り、口止めをする計画は白鳳さんの手によって、まさかのリアルで会うという局面を迎えていた。

 白鳳さん一人では心細いということ。そして、『夜月』の正体が冥原ではないかと密かに疑っている僕は、今日のエンカをこっそり尾行する手筈になっている。

 ──しかし。

「……これ、本当に来ているのか?」

 

 一抹の焦り、嫌な予感が冷や汗として背中を伝う。


「私もドタキャンされたんじゃないかって思ってます」


「そうなると今の想定が全部狂うんだが……」

 現実の「夜月」がどんな人物なのは全く掴めない。だからあらゆる状況を予想して会話デッキの構築と、万が一の対処法を考えている。

 だけど、そもそも「夜月」が来ないとなれば、この努力は全て水の泡になってしまう。

 それにnakiri騒動のピリオドも自ずと遠くになる。


「大丈夫です!「夜月」さんが実際は純然なファンだってこと、私が保証しますので」

 緊張に水を飲む手が止まらない僕に、白鳳さんはじゃがりこを差し出す。

 ……僕の口元に向かって直接に。

「これは……?」


「あーんってやつです。クラスで友達同士がやっていたのを見て少し憧れていたんです」

 なるほど、そういうことなら甘んじて受け入れよう。憧れを叶えるのは大事だ。

 ぎこちなく差し出されたじゃがりこを齧る。サクッとスーパーで売ってるじゃがりことは少し違うじゃがいも本来の柔らかさが残る触感だ。

 と、じゃがりこを摘まむ白鳳さんの手が微かに震えていることに気づき、視線を上げると、熱でもありそうなぐらいに白鳳さんは顔を真っ赤にしていた。


「……これ、恥ずかしいですね」


「ちょ、冷静にならないで。恥ずかしさは伝染病だからうつるよ」


 近くなりすぎた距離感を急いで取り戻す。

 ……こうしてみると白鳳さんは普通の少女だ。それも目鼻顔立ちが整っていて、白い髪には散ってしまう前の花の美しさみたいなものがある。

 彼女がnakiriのファンでなければ、僕は普通に彼女に惹かれてしまうのかもしれない。

 nakiriの件がなければ彼女との縁はそもそもない、と言うのが現実だけれども。


「それにしてもまだ連絡は来ない感じ?一応集合時刻五分前だよね?」


「うーん、おかしいですね。着く前に一報くださいと、伝えたはずなんですけど」


 「夜月」が連絡のできない状況にあるのか、ただ単に連絡を取る手筈を忘れているのか、はたまた最初から釣りだったのか。

 どうにか前者であってほしいものだが……。

 ……なんだか「夜月」が来ないような予感はずっと前からしていた。

 

「夜月」からエンカができなくなった旨を伝えられたのは程なくしての事だった。


 ☆


「これからどうする?」

 

 懐からビー玉を取り出しながら、白鳳さんに問う。

 ……曰く「夜月」は風邪を引いてしまったらしいが、かなり怪しい。


「どうしましょうか……。愚かに「夜月」さんの言葉を信じた自分が悪かったです」


「しょうがないよ。一筋縄ではいかない相手って分かっただけで十分だよ」

 言ったと同時にビー玉を袖に落とす。

 

「……さっきから気になってたんですけど、ビー玉を出したり消したり何してるんですか?」


「マジックの練習だよ。戦力外は嫌だから、個人技を磨こうと思って」


「なるほど……?」

 何やら怪訝そうな視線を向けられるのだけど、僕変なことしてるかな?國城曰く、マジックは息をするものであるべきだそうが、もしかして変な理念を植え付けられてしまっていたのか。


 それとさっきからやけに子供が立ち止まって見てくるんだけど、見世物ではないぞ。

 特に「あそこのお姉さんたち何してるの?」と地雷を踏みぬいた少年よ、お姉さんとお兄さんだ。そこのところの線引きしっかりした方がいい。


「で、どうする?」

 出かかった少年への憤りを吹き飛ばすみたいに咳払いしてから聞く。


「このまま帰る、という寂しい思いはしたくないです。なので私から提案があります」

 言いつつ白鳳さんは頬を赤らめながら、何やらもじもじ。

 背中を丸めて縮こまりながら、続けた。


「私と……デート、しませんか?」

現実の地名が出ました。朝霧君たちが暮らし、学校に通っているのは関西のどこかだと思ってください。

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― 新着の感想 ―
サブタイトルを見た瞬間、前回の自分に冷水をかけられた気分になりました。なかなかの高等テク。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
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