22.nakiri
しばらく更新が止まります。期末テストとは大変憤ろしいものです。3週間以上は待たせることになりそうです
「好きって僕のことを?弥生が?それって友達としてみたいなことかな?」
「なに鈍感発揮してるの……。言葉通りの意味だよ。恋愛対象の好きだから」
しどろもどろになる僕を、弥生は恥ずかしそうに見つめる。頬を真っ赤に染めつつも、決して目を逸らしたりしない。
「何かの罰ゲームだったり……」
「するわけないよ。私は一世一代の告白を今この場所でしたんだから。そろそろ往生際が悪いよ」
頬を膨らませながら、人差し指を鼻先に突きつけられる。
僕にはその人差し指がナイフのように見え、現実を受け止めろという脅しに見えた。
……弥生が僕のことを好き?
僕にとって弥生は家族同然の友達という印象でしかなかった。だから異性として意識したことはないし、想定外の告白だった。
何なら告白される、というのも僕にとっては初めての機会だ。この告白に何を返して、弥生にどう接したらいいのか分からない。
「……別に返事は今じゃなくていいから。私が伝えたいのは瞬は特別だよってことだし」
僕が困っていることに気付いたのだろう。弥生がそう気遣ってくれたため、少し緊張が緩和した。
「不甲斐なくてごめん……。弥生の気持ち、しっかり答えるから」
「よ、よろしい。弥生ちゃんはできる幼馴染だから、しっかり待つ」
告白の時は散々、視線を外さなかったくせに、途端に弥生は顔を逸らすようになった。
ぶすぶすと頭から蒸気のようなものが上がっているように見えるし、弥生も相当無理をしたのだろう。
「それと同時に、瞬を好きな幼馴染として伝えたいことがある、ます。」
弥生はコホンと咳払いをして気を取り直し告げる。
「瞬は──もう一度nakiriになるべきだと思う」
「それは何で?」
「可愛い瞬が好きだから。瞬には自分が可愛いことを否定してほしくないし」
俯いたせいで垂れ下がった前髪を弥生は苦し紛れにネジネジといじる。
nakiriは僕の黒歴史。男の娘なんて世間一般の目から見れば、異質で奇怪で羞恥に満ちた存在だ。
「僕はもうnakiriじゃないし、二度とそうならないと思う」
だから僕は弥生の言葉を真正面に跳ねのけた。これが正しいと本気で思ったからだ。
「……瞬はさ、私が中学校を不登校になった時のこと覚えてる?」
「ちゃんと覚えてるよ。あれは確か一年生の夏のことだよね」
中学生になってほやほやの時期。まだ小学生の名残が捨てきれない、そんな中途半端な時期に弥生は不登校になった。
原因はなんとも明瞭で、それでいて許しがたいものだ。
「クラスで浮いていた私に対するいじめ。あの時は流石の私もちょっときつかったかな」
中学生という称号が付けられ、先行きの見えない将来をぼんやりと考えさせられた。そんな時期はとにかく安心を求めたがるもので、共通の敵というのは安心を容易にもたらす。
ゆえに弥生はその敵に選ばれいじめられた。きっかけは些細な事の積み重ねだったと、弥生は言っていた。
「結局それっきり私は不登校だったけれど。でもいじめ問題はきっちり清算したよね。あの人──生徒会長の如月さんのおかげで」
はっきり覚えている。当時の生徒会長、如月椿姫。彼は髪を腰まで伸ばした少女のような見た目をしていた。
声はハスキーで、如月会長が話をするときはいつも、目と耳の情報は不一致で困惑したものだ。
いじめられ不登校になったとはいえ、弥生は弥生だ。相変わらずゲームが好きで、休日は僕を強制的に家に連れ込みゲームに明け暮れた。
いつかの休日に如月会長は僕と弥生の前に現れた。
『生徒会長としての義務を果たすために訪ねた。生徒会長の如月だ』
如月会長は自身の長い髪をバサっとなびかせながら、僕らの相談に乗ってくれた。
大筋はいじめのことだった気がするけど、なんかゲームの攻略を聞いてたような気がしないでもない。
如月会長はとにかく誠実な人で、僕らを執拗に気にかかていた気がする。
いじめられているのは弥生だから、弥生だけを構っていればいいのに『友人の君も気に病んでいるだろう』と、僕にまでも。
その習慣は如月会長が卒業するまで続いた。
「清算したのはあくまで私達の中で根本は解決しなかったけどね。でも、とっても救われたのを覚えてるなあ。それで瞬は会長に憧れてnakiriになったし」
『私がなぜこの格好なのか、と?』
何がきっかけで僕が何を思ったかは覚えてないけど、そんな質問をしたことがある。
如月会長は細い指で眉間をつまみ、長らく考えた後にこう答えた。
『理由はない!私はこれが私だからな』
何の捻りもない真っ直ぐの答え。僕はこれにただただ憧れたのだ。
僕も僕を隠す必要はないだろうと。むしろ本来の自分の良さを引き立てて、誇示してやろうと思った。
だからnakiriが生まれた。
まあきっかけはきっかけに過ぎず、nakiriは黒歴史になってしまったのだけれど。
「瞬は今困ってるわけでしょ?ならなおさら瞬はnakiriを取り戻さないと!」
「でも……」
「でもじゃない!自分で自分を包み隠そうとしたって苦しいだけだからね。瞬はnakiriになって、私はそんな瞬をもっと好きになるから」
僕にとってnakiriは何を意味するのか。
そんな疑問が脳裏を過った。
──多分、憧れの象徴であり、僕らしい僕であり、個性の脚色で黒歴史だ。
数え切れない意味を持っている複雑な存在。
「ねえ、瞬。もっかいnakiriしようよ!」
幼馴染の期待と激励の声。
……僕はまだ優柔不断だ。
僕が何かしら返答しなければならない時間。
それはこの場に似つかない腑抜けた通知音に妨害された。
白鳳ns『「夜月」が消えました!』
「は……?」




