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14.モノクロの二人

「白鳳さん、彼女びっくりしてるから一旦離れてあげて」

 微妙な空気間の二人の間に割って入る。正直、その様子をずっと眺めたい気持ちもあったが、そういうわけにもいかない。

 黒髪と白髪。乱れてボサボサの髪とサラッと整った髪。右目と左目で分割して白鳳さんと望月さんを見ると、オセロを想起する対比具合だ。

「分かりました。ちょっと距離感を間違えちゃいました」

 僕の一声で白鳳さんは一歩引く。そうして、クラスメイトの急接近に目をぐるぐるさせていた望月さんは何とか落ち着きを取り戻した。


「これでよし。……それにしても白鳳さんて人見知りするタイプじゃなかったけ?僕との初対面の時は結構、緊張してるみたいだったけど」


「それはまあ、朝霧君でしたから。推しを前にして緊張しない人はいないと思いますよ」


「なるほどね」


 自分の中の白鳳さん像がかなり明確に構築されてきた。彼女は異常な行動力や物怖じしない性格を持っているが、推しすなわちnakiriを前にすると普通に緊張するし盲目的になる。


──じゃあ僕って白鳳さんの弱点なんじゃないか?誇張抜きで、僕が彼女の人格や人間関係に悪影響を与えてないか心配になってきた。

 

 まあ結構変わった子だし、友達がいないという点はどうしても悲壮感がある。

 

 「夜月」の一件で協力してもらっている僕からすると、白鳳さんは責任感があって人を信じる優しい心があることを知っている。だからこそ、白鳳さんの良いところを知っている彼女の友達たる人ができてほしいものだが……。


 と、ここで僕の脳裏に一つのビジョンが浮かぶ。


「あーえっと、白鳳さん。友達が欲しいって思ったことはない?」


「なき様がいた頃はそんなこと一ミリも考えませんでしたけど、今はそうはいかない状況ですね。……でもでも朝霧君が友達でいてくれるので、友達で困ったことはありません」

 幸せそうな笑顔を咲かせられると、少しドキッとしてしまった。が、これはこれで嬉しいとして、白鳳さんの友達である僕には、彼女に友達ができてほしいと切実に願っている。


「白鳳さんは困らないかもしれないけど、友達は多い方が後々楽になることが多いよ。そもそも僕だけってのは人間関係は極端に矮小だ」

 僕は望月さんの方にチラリと視線を向ける。望月さんは、すぐさま僕が言わんとしていることを察したみたいでハッとした表情になった。──が、もう遅い。


「この子、望月さんは君のいい友達になると思うんだ」


「ば、馬鹿なんで勝手にそんなこと言うんだ」


「いい……友達……。女の子の友達ができたら、あんなことやこんなことができる……?」


 望月さんからは罵倒が飛び、白鳳さんは新しい友達との未来を想像に耽った表情が見れる。

 これが僕の画策するビジョン。題して、「白鳳さんと、望月さん友達にさせてやろう大作戦」だ。そのまんまと思われるかもしれないが、変に飾らない美学と捉えてほしい。


「僕の独り言というか勝手な発言で申し訳ないのは山々だけど、望月さんはどう思う?迷惑に感じるかな?」


「め、迷惑だとは言ってない。……友達は、その。欲しいけど」


 望月さんは気恥ずかしそうにもじもじしながら言う。


「それじゃあ二人は友達になるべきだ。じゃあ、僕は部活があるから後はお若い二人で楽しんで!」


「ま、待って。まさか投げやりにするつもりか?お前、どうかしてるぞ」


「新しい友達か……、そんなに望んでいたつもりじゃなかったですけど、自分で自分のこと、まるでよく分かってなかったんですね。……えへへ」


 僕はきっちり仕事を果たして保健室を出る。仕事人、朝霧瞬は若い少女二人の青春に水を差したりしないのだ。



「も、望月三月……だ、です」


「白鳳美白です。これからよろしくお願いします」


 アルコールの匂いが充満する保健室。ソファの端と端で腰掛け、二人の少女がぎこちない挨拶を交わした。


「望月さん……いえ、三月ちゃんとお呼びしてもいいでしょうか?」


「お、おう。じゃあ……白鳳でいいか?」


 望月は少し迷ったのちに苗字呼びした。臆病な望月にとっていきなりあだ名はハードルが高かった。


「是非そう呼んでください。実は友達に呼び捨てされてみたいと思っていたので!朝霧君はいつもさん付けですし、敬称を付けられることが多いんですよね。そもそも友達が少ないですし」


「そうなのか?わ、わたしはてっきり白鳳は委員長気質の陽キャで、友達なんてそこら中にいるもんだと」


「全くそんなことないですよ。……自分で言うことじゃないですけど、私結構変わり者なので、クラスとかで浮いちゃうタイプです」


「全然、イメージと違うもの、なんだな」


「はい!まあ人って話してみるまではその人の事、ちゃんと知れないわけですから。だから、私三月ちゃんといっぱい喋りたいです!」


 白鳳は望月の顔を真っすぐに覗き込みながら言った。


「で、でもわたし保健室登校だぞ。あんまりクラスには顔を出さないと思う」


「それなら毎日、保健室に伺います!お昼休みとか、一緒にお弁当食べたりしたいです。三月ちゃんは嫌ですか?」


「い、嫌ってわけじゃない。白鳳が来てくれるのは、多分嬉しい。だけど……いやなんでもない」


 望月は何か言いたげだったが、言葉を濁してしまった。もちろん白鳳がそれを追求することはない。先ほどぐいぐい行き過ぎてしまったことを反省しているのだ。

 ……友達を困らせるわけにはいきませんよね。


「それではせっかく友達になった証に色々お喋りしませんか?最初は好きな食べ物から!私はですね、ナスが好きなんですよ。味についてですけど──」


 対照的な髪色の二人の談笑が保健室に籠る。

 白鳳は幸せそうに語り、望月はそれに相づちを合わせて熱心に聞き入った。


 望月の表情を蚊帳のように包み隠していた長い前髪が揺れる。




 









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― 新着の感想 ―
友達っていうのは人生で欠かせないものですよね。 切っても切り離せない青春のワンページのような相貌と夕焼けに染まる保健室を想像しながら読ませていただきました。 二人の友達関係と絡みを今後も楽しみたいです…
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