魚のランチと爽やかレモンデザート③ ニワトコの実の仕込みとレモンのクッキー
外へ出て、家の壁の前の長腰掛に積んでおいた浅い籠を、井戸の横の石造りの作業台の上に置く。
ファティはお気に入りの苺色のエプロンとバンダナをしている。
丸い額がわずかに光る。
きれいな水を汲み上げて、
大きな洗い盥に少し注ぎ、黒っぽい小さなつぶつぶした実を入れる。
水の中で、ニワトコの実の濃い黒むらさきは、少し赤く艶めいている。
水はどこまでもきれいで、輝くほど透明だ。
そして、こんな時期だというのに、とても冷たい。
(カルペさっきこのお水浴びさせちゃったのよね。
本当に冷たくなかったのかしら……)
少し心配になってしまう。
だが、カルペは暑がりのほうだった。
熱いご飯は冷まさないと食べられない猫舌だし、猫じゃないけど……。
水の上澄みに軽くて細かなヘタのようなものが浮く。
そして指先が冷たさで、赤くなる。
形が良いものとそうでないものを大まかに分ける。
水を張った盥は二つあるのだ。
「ようく、きれいにしなくちゃね」
さらにレモンもきれいに洗う。
レモンは皮まで使うから。
そうっと、全部がこぼれて駄目にならないように、慎重に水をこぼす。
水が半分以下になって、ファティでも持ち上げられるくらいになったら、平たい大きめなざるに上げて水を切る。
このたくさんの実を台所まで運ぶのは、小柄なファティには一苦労だ。
「いつか外用のかまどを用意したいな……」
そうしたら、保存などのたくさんの量を作るとき便利なのに。
それに、たくさんのガラス瓶を煮沸するのも場所がいるし、手間が掛かる。
ニワトコの実をきれいな布の上に広げ、少しの間干しておく。
ジャムシロップにする分は、取り分けて部屋に持っていった。
台所の窓を大きめに開けて、干してある実の状態が見えるようにしておく。
「シロップと……秋の日用のお酒を造らないとね」
ファティは飲んだりしないのだが、お酒には大事なお役目がある。
そう、それは約束――
そんないわば森との約束は、頻繁にあるものと、
四季に合わせあるものがあった。
今日も、そんな一日――
特にこのニワトコは、彼らの好物だった。
かまどに火を入れ、
大鍋にニワトコの実と砂糖を入れ、火にかける。
(そうだ、カルペは……)
気になって隣の部屋のほうを覗き見ると、すうすうと自分の長椅子の上で寝息を立てていた。
「ふふ、さすがのカルペも疲れたんだね」
かまどの火が強くなってきた。
焦げたりしないように慎重に木べらで混ぜる。
あまい香りがふわりと外から流れてくる風に乗って、周囲に漂った。
水分が蒸発してきて、どろっとなったら、大鍋をよいしょと持ち上げ、大きな木の板の上に置いた。
粗熱を取ってから、半分を濾してシロップに、もう半分をジャムとして保存する。
「さあて、レモンさんの出番ね」
小麦粉とお砂糖、それにレモンと少量の膨らし粉。
レモンの皮をそのまま削って、中身は絞る。
ボウルに粉と砂糖を合わせて、
たまごを入れる。
少し柔らかいバターを木べらで練り、
レモンピールと汁、蜂蜜も香りづけに入れる。
ぼろぼろ、ぼろ……
へらで切るように混ぜ、
しっとりしたぼろぼろになってきたら――
「ふふふ」
小さく丸めて、
ぺたん、
少しだけつぶして、お砂糖をさっとまぶす。
ファティ特製・レモンクッキーだ。
そうして、オーブン天板に並べてゆく。
全部並べ終わったら、オーブンで焼く。
焼き上がりを待つ間、外に出て、
ニワトコの実をそっと残りの水分を拭きとって、
消毒した瓶に、詰めていく。
お砂糖と
きれきらした蜂蜜の結晶、
段々になるように、重ねてゆく。
そうして最後に、きゅっと蓋を閉めるのだ。
お庭は涼しく、森からの木々と周囲の草花の香りが涼やかだ。
家の窓から、あまく香ばしい香りが流れてきた。
「あ、時間かな」
手を途中でやめて、慌てて台所へ戻る。
ミトンを嵌め、棒をオーブンに突っ込んで天板を引っ張り出した。
「わあ……ふふ、よくできた」
甘いだけじゃなく少しさっぱりした香りに、見た目も砂糖の白が割れ大理石模様みたいになっている。
『ううーん……』
クッキーの甘い匂いに誘われたのか、カルペが声を上げた。
だが、よほど眠いのか、またぐっすりと眠りだした。
「ふふふ」
クッキーは粗熱を取るためテーブルに広げておく。
そのテーブルの上に――
<つまみ食い・禁止>と、紙に書いて載せた。
ファティは残りのニワトコ酒の仕込みを済ませに外へ出た。
全部瓶に詰めたとしても、今度はその瓶を倉庫まで運ばないといけないのだ。
かなり時間が掛かってしまった。
外はまだ明るいが、時間としてはあと少しで夕方だ。
「そうだ、そろそろもう一品。
ふふふ……暑がりカルペが、きっと喜ぶわ」
腰のリボンを揺らして、ファティは食料倉庫へと向かった。




