魚のランチと爽やかレモンデザート① 新じゃがと夏の果実の収穫
お日様が、徐々に高い時期になってきた。
それでも一番高い山の天辺に浮かぶくらい。
真っ青な空に、すっとするような木々の匂い。
それに今は――
健康な土の匂いもした。
ファティは朝から家の隣の敷地で畑仕事だ。
新じゃがいもを掘り、
ころころ、ころころ――
木箱に山と入れていく。
まだ、収穫の途中であったが、
中がいっぱいになったから、一旦家の前までその箱を置きに向かう。
不意に手を見ると、
「ああ、泥だらけ」
でも、
ファティは土が嫌いではない。
だって、一族にとって、
この森の土も、水も、
体を底からしずかに落ち着かせてくれるものだから。
さあ、今度は果実の収穫だ。
一度手を洗った方がいいだろう。
玄関の前の井戸へ向かう。
そして、井戸の釣瓶を落とす。
カラァンーー
よい音が聞こえた。
桶を引き上げ、その水を隣の石桶に注ぎながら手を洗う。
「わあ、冷たい」
井戸の水は、未だ雪解け水のように清く冷たかった。
ファティはこのいつだって清らかな井戸の水も大好きだった。
井戸から、さやりと櫓を抜けて、
小さな光がひとつ、
風に乗って飛んで行った。
「ふふ……」
それもきっと、
この場所の――おかげ。
深めの軽い籠を用意して、ハーブ畑の向こうへ歩いて行く。
頭にはバンダナをきゅっと被って、
後ろの綿のような毛が、ふわふわと歩くたびに弾んでいる。
家の裏手には大きなナナカマド、
その手前隣には、
まだ若いニワトコの木が生えている。
甘くて、少し青い香りが風に流れた。
ナナカマドは白い花をまだ少し点々と残しているが、
ニワトコは赤紫がかった小さな実を、鈴なりに生らせている。
収穫の時期はちょうど良いようで、
小さいながらそれらの実は、ずっしりと重たげに小枝をしならせ垂れていた。
ニワトコの実は、しっかり熟していないと駄目なのだ。
注意深く、枝を下に引っ張って、実の状態を確かめた。
この二本の木々は二人の家の象徴とでもいうのだろうか、
この場所に帰って来たその日から、守り神のような気がしている。
花はシロップやお茶、それにお酒にもなる。
そして、このニワトコも。
ファティはお酒はお料理に使うくらいで、飲まないが。
この地に住まう者にとって、とても重要なものなのだった。
小さな枝切ばさみを、
ちょんちょんと、
やさしく入れてゆく。
少し甘くて、わずかに酸っぱい香りが、
その小さな実と細い枝の切り口から立ちのぼる。
そのさわやかな香りは、ファティの鼻先にそよいだ。
ぱーんと張り、艶のある赤黒い実がたわわに実っている。
それを丁寧に収穫してゆくのだ。
ニワトコの木はまだ然程大きくなっていないので、ファティでも楽に集めることができた。
「このくらい集まったらいいかしら。
……あ、そうだわ」
裏山の崖を籠を両手に軽々昇る。
山の端から、眩しく陽の光が差し込んだ。
そこは日当たりのよい低木が、まるで果樹園のように並んでいる。
さわやかな香りが、すっと流れてきた。
「あ、きれいに黄色くなったのがあるわ」
軽い足取りで丸く少し硬めの葉の木のもとへ駆け寄る。
そこには、
黄色く瑞々しいレモンの実が生っていた。
「ふふふ……」
お日様が空の一番高い場所に昇った。
ファティはたっぷり実が入った籠を背中と前で抱え、
ぴょん、
ぴょん、ぴょんと、
崖を下り、
あっという間にニワトコの木の前まで戻って来たのだった。
すると、ひときわ強い風がびゅうと吹き抜けた。
『ファーテーィ』
石混じりの坂を、
見慣れた赤茶色の動物が、
大きな籠を背負って昇ってくるのが見えた。
『でっかい魚、小さいのも。
いっぱい獲ってきたんだぜぇー』
乾燥させた蔦で作ったやや粗い魚籠の脇から、まだ濡れた魚の尻尾がぴょこりと突き出ていた。
「まぁ、お魚。
よかったわ。
今ね、お昼のメニュー
ちょうど何にしようかと考えていたところなの」
『わあ、なににすんだぁー』
縞々のしっぽが、ぶわっと大きく、
高らかにあがった。




