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森のベリーのタルト④ タルトとジュースを作りましょう


 かまどに火を入れる。


 ちっぽけな火魔法だが、便利なものだ。

 指先を消し炭に向けて、



『ーフラムゥラ・イグニー』



 こうして一人暮らしができるのは、ちょっとずついろいろ魔法が使えるからだ。



 さらに、指先から、



『ーヴェントゥスー』



 風で小さな火が徐々に燃えていった。


 今度は炭を幾つか周囲に火を消さないように並べる。



 苺色の縁のエプロンをきゅっと絞めた。



 大きな両手鍋に、タライいっぱいのビルベリーを入れる。

 まだ水分が残っている搾りかすも、同量の砂糖を数回に分けて、混ぜ入れていく。


 少しずつ木べらでしっかり、焦がさないように混ぜる。

 香りづけに、カルダモンを軽く振りかける。

 これにはかなり根気がいる。


 じっくり、じっくり、

 ふつ、ふつふつ……


 甘い匂いが周囲に広がる。


 しっかりとかき混ぜて、水分を飛ばしてゆく。

 今回は完全にジャムにする、一歩手前で緩めに作ろう。



 カルぺが尻尾を膨らまし、鼻をひくひくさせた。



 台所の窓から、森の松の薫りがすっと入ってきた。



 ちょうどよい固さになったら、火から外して粗熱を取る。

 木べらの先はきれいな紅色に染まっている。


 四角い瓶の入れ物から、数日前に作ったクッキーを取り出す。

 ボウルに入れ、乳棒で砕いて、溶かしバターを混ぜ入れ、パイ皿に敷き詰める。


 ふわっとバターの香りが漂う。


 端の方までしっかり、同じ厚みで注意してくっつける。

 フォークの先でぷつぷつ底を差す。

 重りを入れてしばらく置いて、オーブンでから焼きをする。


 中に入れるフィリングはアーモンドのクリーム。

 ヨーグルトチーズ(ヨーグルトの乳清を絞ったもの)に、

 アーモンド粉、

 砂糖に溶き卵をそっと数回に分けて入れながらかきまぜる。


 そこに、少しだけ、色が変わらない程度に、先ほど作ったジャムも混ぜれた。


 タルト生地の上にフィリングを入れ、その上にジャムを掛ける。



 暖かいオーブンに入れて、焼く。



 その間に、シロップ作りだ。

 ゆるいジャムと溶かしたゼラチンを軽く混ぜ温める。

 きれいな艶が出てきた。

 すぐに火から外し、粗熱を取っておく。


 そして、

 ファティのお気に入りのバンダナに包んでおいた――“ビルの女王”を取り出した。



「……わぁ」


 大きくきれいな果実。

 苺色のバンダナから甘酸っぱい匂いが香った。


 そっと熱くなくなったシロップにくぐらせた。



 そろそろ焼き上がる頃合いだ。

 オーブンをのぞき込む。


「うん、よし」


 オーブンに平たい板のついた棒を差し込んで、取り出した。



『できたの』


 カルぺが跳び起きて駆けつけそうになった。


「待って待って、危ないから。できあがりはあと少しね」


『えー、まだなのぉ』


「ふふ、これをやらなかったら、後悔するよ」


『えー、じゃあ、待ってる』




 片づけをしながら熱を取る。


 甘い匂いが家中に充満する。


(ふぅ、いいにおいだなあ……でも、ちょっと甘ったるい)


 そう、作っている本人が作り上がる前に、もういっぱいと感じてしまうのが難点だ。


(今日の夕飯は……簡単なものしよう。

 お野菜いっぱいの塩っけの利いた燻製肉のサンドイッチがいいかな……)



 ふと帰り道で崖の上から人里の景色を思い出した。


 もう、どれくらい経っただろうか。


 人里から離れ、一人で暮らし始めてから。


 甘い匂いが、あの日の記憶を呼び覚ましたのだろうか。


 ファティはすうっと息を吐きだした。



 ようやく帰ってきた村は、誰一人いなくなっていた。


 家々すらなくなっていた。


 この小さな建物を除いて――



 カラン……


 ぽちゃん……


 釣瓶が、井戸に落ちた音がした。



 ファティは冷たく濡れた手で、ぱんと両頬を打った。


(……ここには、カルぺもいるもん)



 全部洗い終えて、戻ってくると、


「ああっ、つまみ食いしたでしょ」


 タルトの端が少し抉れて欠けていた。


『……しらないよ』


「カルぺぇ」


『……だって、暖かいうちに……味見したかったんだ』


「……もう」


(確かに、暖かいのもおいしいけどね……)


 ファティはため息をつくと、「もうしないでね」と、言った。


『……うう、ごめんよぅ』


「はいはい……」


 ファティは欠けたタルトを見つめた。


(ふふ、ちょっと強く言いすぎちゃったかな。

 ……このくらいなら、どうにかなりそうね)


 ちらりとシロップの入ったボウルを見つめる。


(ふふ、どうにかなるどころか……)


 ――“ビルの女王”、


を、タルトの上に、丁寧に飾ってゆく。


 いっぱいに敷き詰められるほどに、収穫できてよかった。



 皿の上には、フルーツ山盛りタルト、


 シロップの艶をきらめかせた、

 宝石のような、“女王”さまがうるわしい姿を現していた。





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