森のベリーのタルト③ ふしぎな同居人カルペとファティの魔法
カルぺ――
ふしぎな動物。
いつの間にかやってきて、
気づいたら、ここに居ついていた。
はじめは図鑑で見たタヌキだと思って、そう聞いたら、
ひどく怒られた。
本人が言うには、❝レッサーパンダの妖精❞だって。
なんだそれは……。
レッサーパンダ、
図鑑にも載っていないが、動物だろう。
太い尻尾は縞々模様、明るい太陽みたいな色の被毛と、
顔に面白い白の模様がある。とぼけた眉毛みたいな……。
でも、――妖精。
(……形は……絵で見たタヌキそっくりなんだけど。
でも、タヌキはもう少し小さそうだったし……)
家に悠々と入ってきたカルぺは、今は居間の小さな二人掛けソファでごろんとくつろいでいる。
体長が長いからと言って、いつも大きなほうのソファを使うカルペ。
(想像と違い過ぎる……)
四足歩行だから動物には違いない。
ある時、後ろ足二本で立っていたことがあったが……
見られたことに気づいたカルペはひたすら取り繕って、猫みたいに前足を舐めていた。
(おかしな動物なんだよね)
でも、一人よりいい。
ペットと呼んだら、怒るから――同居人。
(『狩りをするのが得意だからここに置け』って、言われたんだよね)
実際、納屋の食糧庫にはカルぺが捕ってきた肉を燻製にしたものが吊るしてある。
ファティの目の前に出すときは、捌いて持ってきてくれるので、助かるのだが、
どうなっているのだろうと、ファティはいつも不思議に思った。
にいっと笑った口の中に似合わないほど大きな犬歯を見せながら、
『見てみるか』って、聞いてきたが、全力でぶんぶんと首を振った。
ファティは基本、草食だから、気づくと野菜ばかり。
肉の代わりなら、豆でもいいじゃない。
カルぺは肉料理が好き。
でも、主食は違うんだって。この辺りでは手に入らない植物だって。
(なら、草食なんじゃないの……)
『おまえ。肉食べないから、魔法が弱いんだぞ』そんな風に意地悪を言う。
小さいのに、狩りが上手。
でも、狩ってきたお肉のほとんどは本人が食べる。
見かけによらず、すごい食欲だ。
でも、甘いものも好きみたい。
果物、林檎は特に好きみたい。
甘いお菓子も――ときどきこうして強請るのだ。
(そうだ、燻製肉の様子と氷室の氷、見に行かなきゃ)
勝手口から納屋に向かう。
日の当たらない北側の木が茂って、陰になっているところに氷室がある。
扉を開けると階段になっていて、少し下がった奥のところにもう一つ金属板のついたの扉。
これで冷気が逃げないようにする。
手前側にも棚が両方にあって、加工肉や野菜など涼しい方が良いものを保管する場所にしている。
あまり広くないが便利だ。
吊るしてある燻製肉のチェックも忘れずにする。
(……うん、まだ十分あるわね。でも……)
カルペが急に気を変えて、狩り(遊び)に行かなければ。
うれしいことだが、ときどき二人で食べきれないほどの獲物を狩ってくる。
ちなみに、魚獲りも得意なのだ。
一度も見たことがないのだが……。
行きついて、扉を開ける。
ひょうっと冷気があふれる。
でも、ファティは寒いのは得意なほうだから、
というか、うだるような暑さの方が苦手だ。
ゆで卵の気分になってしまう。
(人間はどうしてあんな暑い気温の方が好きなんだろう……)
白い、氷柱の混じる小さな世界。
氷柱からぴちゃんと水滴が垂れた。
(ああっ、しまった)
入れているものの上にも細かく霜が積もっている。
(ああ、いけない。溶けてきちゃってた)
両手を前に掲げて、静かに息を整える。
(ふぅう、集中、集中……)
巻き毛に埋もれた角の先から、淡く輝いた。
『ーコンジェイロー』
ぱあっと飛沫が一斉に舞い上がる。
まるで時間が止まったように、そのまま水滴が宙に留まった。
きらきらと霜の光が反射し――周囲を白く曇らせてゆく。
ちらちらと氷の結晶が踊るようにきらめいた。
「ふぅ、今度は横着しないで、早めに呪文をかけよう」
先ほどかかなかった汗が滲み出る。
(ちょっと最近暖かかったからな……)
簡単な冷却魔法が使えるファティ。
そうでなかったら、氷室を維持できなかった。
冬は要らないときもあるけど、あれば便利な氷室。
使えるほうの魔法が、氷の魔法でよかったなあと、ファティは思っていた。
息を吹くより少しだけ強い風魔法と、
種火だけの火魔法、
指の先だけ光る光魔法、
でも、土と岩とは仲良し。
ほんのちょっぴり、ちょっぴりずつ魔法が使えるファティは、
本当はどれもうまくはできないのだ。
「さあ、早くタルトを作らなくちゃ」
慌てて台所に戻るファティだった。




