【準々決勝】第四試合
「……合掌でもしとくか」
ここまで奮闘した、あやとりに敬意を表す。
あまりにもBANが倒されるビジョンが思い浮かばなかった。
彼女も彼女で、俺相手であれば全然刺さっていた戦法だったろう。
でも悲しいかな、相手はあの腹黒狸のBANだ。
相性負けしてしまえば一気に勝負が付いてしまう。
……あいつ初見殺し性能が高すぎるんよな。
「そんで、第四試合は……」
第四試合はヒーローと蛇者が戦うようだ。
ここに至っては、俺視点未知数同士の戦いだ。
蛇者のPSや素早さは目を見張る物があるが……どうなるんだろ。
勝負がどうなるか全く予想が付かないな。
[第四試合 開始準備]
『トーナメント 牧歌高原』
戦場は長閑な高原だった。
芝生がそよ風に揺られ、太陽が大地を照らしている。
まさしく平和的であり、牧歌的な光景だ。
「全く、僕達が準々決勝戦の大取りだなんてね」
一方のプレイヤーはまるで騎士のような鎧に身を包む男性だった。
彼は爽やかな表情で、感慨深そうに手を顎に当てる。
プレイヤーネームは"ヒーロー"。
「緊張しているのかい?」
もう一方のプレイヤーは目隠しをしており、非常に身軽そうなライダースーツを着こなしている。
彼はヒーローを興味深そうに見やる。
プレイヤーネームは"蛇者"。
「そうだね……「していない」と言えば噓になってしまうかな」
「うーん、俺は緊張をほぐす方法が分からないな」
「……気を遣ってくれてありがとう。でも、大丈夫だ」
ヒーローは気持ちを落ち着かせ、改めて蛇者に身体を向けた。
[プレイヤー ヒーローは準備完了しました]
「対戦よろしく」
「……こちらこそ!」
[プレイヤー 蛇者は準備完了しました]
もう、言葉を交わす必要なんて無い。
お互いに敬意ある戦闘を望み、向き合った。
[第四試合 開始まで]
[3]
お互い、武器遺物を構える。
[2]
ヒーローは直剣を構える。
それは、これまで見たどの武器遺物よりも王道である。
正々堂々、正面の蛇者を捉える。
[1]
対する蛇者は双剣を取り出した。
それは刃先が曲がっている特徴的な短剣であり、身軽な体勢を取る。
[0]
[第四試合 開始]
ガキンッ!
次の瞬間、刃と刃が交わった。
その剣筋、1つ1つが常人には追い付けぬ程に素早く互いを迫っている。
「……やるね!」
たった数秒の猛攻だけで四十の攻撃を交わす。
あまりの速さに、この光景を眺める観客でさえ息を吞んだ。
「【飛来天斬】」
ヒーローは目にも留まらぬ速さで無数の飛ぶ斬撃を放つ。
蛇者は最小限の動きで躱しつつ、連撃は止まらない。
「【已己巳己】」
ふと、蛇者はニヤリと笑みを浮かべる。
次の瞬間、蛇者が増えた。
「分身か!」
多くの蛇者はフィールド中を動き回り、無数の刃がヒーローに襲い掛かる。
蛇者の防具遺物『深霧幻界の外装』に付属された【已己巳己】の分身には実体が無い。
高速に動き回る霧の分身により、ヒーローの目を眩ませようとする。
ガキンッ!
だがヒーローはその分身の中から本物の刃を見抜き受け止めた。
「他の分身は幻のような物だろう?」
「……正解!」
ヒーローは既に、この一瞬の攻防で蛇者の動きを読み取りつつある。
それにより、多くの分身から違和感のある実体を引き当てる事に成功した。
ここまでの攻防、第四試合が開始して僅か十秒と八つ。
たったそれだけの時間で、自身を攻略しつつある事実に、蛇者は武者震いを起こした。
「【超速化】」
蛇者は確信する。
この者に時間を与えてはいけない。
蛇者は音速を超えた速度で駆け回り、ヒーローへと喰らいつく。
無数の斬撃による攻防により――――
やっと1つの攻撃を穿つ事に成功するに至る。
「……っ!」
それによって生れた刹那の隙。
これを見逃すはずもなく、更なる追撃を加え――――
「――――気が付いたか」
蛇者は追撃を加えず、咄嗟に離れる。
これは確信だ。
もしあそこで攻撃していたら、強烈なカウンターが飛んできていた。
「【神霊顕現】」
突如として、ヒーローの背後には幽霊――――
いや、神霊が憑りついていた。
その神霊は本人を守護するように付いてまわっている。
「流石トーナメントだ。一筋縄ではいかない」
ヒーローは再度直剣構える。
それと同時に後ろに居る神霊も剣を構えていた。
更に神霊の腕は複数本伸びており、その1本1本に剣が握られている。
空気が揺れる。
先程までは、ほんの小手調べ。
ここからが、ヒーローの本領発揮だった。
「本当はここで使うつもりは無かったんだ。だけど、認めるよ。お前は強い。だから、せめてもの敬意を表し――――全力で仕留める」
「ははっ……!」
いつの間にか、蛇者は笑みが零れていた。
これまで味わった事の無い、死の圧力。
それが神々しくも、蛇者の身体を伝っていた。
「なら……俺も全力を出さないとね! 【轟雷化】ッ!」
【轟雷化】――――
それは現地点で出せる、蛇者の奥義である。
装飾遺物『万雷の化身』は身体に雷の力宿し、自身の速度を疑似的な雷速とする。
本来であれば雷速を制御出来ず、壁に衝突して即死する等の欠陥を抱えたスキルだった。
だが、蛇者が深く集中し、己のPSを最大限のパフォーマンスを発揮出来れば、短期間の雷速攻撃を可能としていた。
「【超速化】」
蛇者、ここで一世一代の賭けに出る。
ただでさえ制御の難しい【轟雷化】。
その上に更に【超速化】の速度を重ね掛けする。
「……っ!」
雷速を超える無数の斬撃が、ヒーローへと向かう。
ヒーローは全霊を持って、その斬撃全てに対応する。
人間離れした反射神経をフル稼働し、捌く。
「【已己巳己】」
それに加え、更に更にと、対応を妨害する為、分身を発生して翻弄をしようとする。
――――が、最早ヒーローには、そんな小細工など既に見破られていた。
的確に実体のみを弾き飛ばす。
「【飛来天斬】ッ!」
ヒーローの飛ぶ斬撃が、ただ1人の蛇者を捉えた。
蛇者は思わず、弾き返そうとするが――――
大きく仰け反ってしまった。
「良い戦いだった!」
――――蛇者、一刀両断される。
「がはっ……!」
[プレイヤーネーム ヒーローが第四試合に勝利しました]
[プレイヤーネーム ヒーローは準決勝に進出しました]




