【準々決勝】第三試合
「か、勝てた……」
あのクマ、尋常じゃない身体能力してたな。
マジでバグみたいな挙動だった。
このゲームにあんな猛者が居たとはな……。
一瞬、普通に負けそうになったぞ。
「……勝てたから結果オーライだな!」
準決勝戦の進出が決まった事で少しばかりの緊張が解かれる。
――――やっぱ紅茶だな。
これが無いとやってらんねぇよなぁ~?
俺は再度カップに紅茶を注いだ。
「第三試合は……」
第三試合はBANとあやとりが戦うようだ。
あのBANが負けるとは思えないが、あやとりだってトーナメントまで上がれるだけの実力がある。
「BANか……あいつ、絶対男女関係なくパンチするタイプの人間だからな」
爆弾愛好家じゃあるまいし、相手が女性だからって理由で加減するとは思えない。
正直、対戦相手に同情するよ。
もしその戦略のまま来るなら……の話だが。
[第三試合 開始準備]
『トーナメント 星空の湖』
戦場は広大な星空の下だった。
下には水溜り程の浅い深さの湖が地平線の向こうまで続いている。
神秘的な星々が水面に写っており、まるで宇宙空間に居るかのような錯覚を覚える。
そこには2人の影が立っていた。
「うぅ……遂に来ちゃったんですね……」
一人はオドオドとしていた。
その少女は、どこか緊張しているような、どこか不安に思ってそうな、そんな様子を見せる。
プレイヤーネーム"あやとり"。
「えぇ、いよいよこの時が来てしまいましたねぇ」
もう一人はやけに自然体だった。
その男性は飄々としており、どこか楽しそうに思ってそうな、そんな様子を見せる。
プレイヤーネーム"BAN"。
「それで……いつまで、それを続けはるおつもりで?」
「……流石に分かっちゃいますか」
「流石に分かりますよ。隠せてると思うてはるんですか?」
一瞬、沈黙が流れる。
どうやら、その子は迷っているみたいだった。
「先に言わせてもらいましょか。表向きのやり方を続けては、私相手では逆立ちしても勝たれへん」
あやとりの指がピクリと震える。
徐々にオドオドとした様子が収まっていく。
「裏の顔を見せたくないのであれば、速やかに降参なさる、というのも1つの手。それが、プレイヤーとしての『健全な判断』いうやつですわ」
「……いいえ、私はここに勝ちに来たんです」
次の瞬間、その少女はもう少女の顔付きではなくなった。
先程のオドオドとした様子が噓のように、凛とした顔付きとなった。
「始めましょうか」
[プレイヤー あやとりは準備完了しました]
あやとりは最早気弱さなど微塵も感じさせない。
相手を強者と認めた者のみ見せる裏の顔であった。
「ふふっ、宜しい顔付きにならはりましたねぇ。えぇ、私はそっちの方がお好きですよ。とっても」
[プレイヤー BANは準備完了しました]
[第三試合 開始まで]
[3]
お互い、武器遺物を構える。
[2]
BANは一見すれば、刀身の無い剣のような武器遺物を持っていた。
非常に楽しそうにあやとりを見つめ、捉える。
[1]
対するあやとりは両手を示し合せ、その中に毛玉を生成する。
その毛玉は心臓のように鼓動しており、それが震える毎に糸が震えた気がした。
「――――先、言うときますけど」
BANが静かに口を開く。
「私も勝ちに来ていますので」
[0]
[第三試合 開始]
「【光刃】」
「【守護糸】ッ!」
次の瞬間、夜の空間に光が灯った。
それは暗闇を両断する光であり、不可避の斬撃である。
ジリジリジリッ!
だが、あやとりはその光の斬撃を糸を幾重にも交差させる事で受け止めていた。
「……なるほど、糸ですか。存外、強度があるんやねぇ……地道な努力の跡が見える、ええ遺物してます」
『常在の白繭絶域』はあやとりの周囲を常に守護しているようで、ドーム状の結界のようであった。
「【傀儡糸】」
突如として、『常在の白繭絶域』から無数の糸を上から放出する。
ブォンッ!
ブォンッ!
ブォンッ!
「おっと……危ない、危ない。無作法な真似をしはる」
それをBANは難無く撃ち落とし続ける。
だが、一向に量が減らない。
「【切断糸】」
更に周囲には糸を罠のように張り巡らせている。
その糸は鋼のワイヤーように硬い。
「中々えげつない事しはるやないですか。逃げ惑う事すら許さない、ですか。徹底してはりますねぇ……嫌いちゃいますよ、その陰湿な設計」
もし【傀儡糸】を回避する為に、下手に動いてしまえば身体を切断されてしまうだろう。
攻撃を回避する者にとっては、これ以上の無い程の悪辣な罠だった。
「【光刃】」
ブォンッ!
ブォンッ!
ブォンッ!
「えっ……!」
「やけど、それは相手が回避する前提のスキル。こうして正面から叩き潰せる者が相手なら、何の脅威にもなり得ませんわ」
BANは【傀儡糸】を捌きながら、周囲の【切断糸】を瞬時に【光刃】で焼き切った。
【傀儡糸】も【切断糸】も「相手がそうするであろう」を逆手に取った戦い方であった。
ある意味でのメタ戦術であり、刺さる者であれば非常に刺さる戦術である。
「確かに私以外が相手なら詰んでたんやろなぁ……せやけど、使う相手を間違えてはりますわ。相性が悪かった、というやつですわ」
ブォンッ!
ブォンッ!
ブォンッ!
例え何重にも糸で攻撃したとして、強度が足りなければ正面から対策されて終わりなのだ。
それこそ、【守護糸】並みの強度を他の糸が持つデフォルトの強度であれば、もっと苦戦を喫したのだろう。
「……これ以上は、時間の無駄やね」
だがBANは高火力の射程無限。
そもそも、移動する必要性が無い。
ここから1歩も動かさずに糸を切っていれば余裕で対応可能なのだ。
「こ……んな……こんな簡単に……有り得ない!」
「これ以上面白い手札も見せてくれへんようやし……ここらでトドメ、刺させてもらいましょか」
「……どうやって? まさか、【守護糸】も?」
「本当は正面から粉砕してあげたいんやけど、流石にこの強度の糸を物理で抜くのは非効率。せやから――――」
ふと、BANは武器遺物を切り替える。
その武器遺物は杖の形をしていた。
BANは、その杖先で地面を叩く。
「【遅延行為】」
「な……に……」
その瞬間、あやとりと糸の動きがゆっくりになった。
突然、周囲がスローモーションになったかのようで、身体が重い。
「【光刃】」
BANはスローとなった糸の間を縫うように、【光刃】を伸ばす。
――――そして、身体に【光刃】が突き刺さった。
[プレイヤーネーム BANが第三試合に勝利しました]
[プレイヤーネーム BANは準決勝に進出しました]




