戦場のブレイクタイム
ヌルハート視点です。
一方、北側の戦場では『ボレアス社』が多くの複製体を抑え込んでいた。
複製体の相手は“玩具戦士”、“夜風”、“マヨ船長”、“スパッツ”――――
そして、“無害なクマ”。
「ちょっと、敵強くない?!」
飴雨が苦言を呈すのも当然の事、明らかに複製体の質が高く、苦戦を強いられている。
だがこれを見越して、既に1人の猛者を呼び寄せていた。
「クマッ!」
プレイヤー“無害なクマ”である。
「やはり、無害なクマだけ別世界の住人なのでは?」
「同意します。あの方だけ高速戦闘を繰り広げてるの何なんですかね……」
ヌルハートと雪華が思わず軽口を言い合う程に、無害なクマ同士の戦いは苛烈を極めていた。
一般構成員では目で追えぬ速度で気砲の応酬を繰り広げられている。
あれに追い付ける者は、猛者かそれに匹敵する強者のみ。
「ハーハッハッハッハ! 私が2人居るぞ! まるで鏡で自分自身を見ているかのようだ!」
また他の所では、スパッツ同士の戦いが繰り広げられており、地面や廃ビルを海パン姿で泳ぎ回っている。
彼の海パン『自由自在の遊泳下着』に込められたスキル【水泳選手】は、水の中だろうが、地面だろうが、建物だろうが、何処でも自由に泳ぐ事が可能となるもの。
つまり、海パンの変態があらゆる場所で泳ぎ回る地獄絵図を見せる事が可能であり、2人居れば2倍の嫌悪感を他者に与える事が出来るだろう。
「彼はあのままにしておきましょう」
「異論はない」
一旦無害なクマとスパッツは置いておくとして、問題なのは玩具戦士、夜風、マヨ船長の複製体であった。
玩具戦士の複製体はこのゲームでは極めて珍しき全身装甲の『鋼鉄機構鎧』を着用している。
相当な火力を持つ者が欲しい所だが、現状有効打を与える人材は持ち合わせていない。
夜風は重力を操る複製体であり、単純に重力を重くする拘束や重力変更による吹き飛ばしが脅威だ。
彼女に対抗するには、こちらも特殊なスキルを持つプレイヤーが欲しい所だ。
マヨ船長は単純にステータスが強固な複製体だ。
自己バフにより、全ての攻撃が有効打に成り得る。
そして、全ての攻撃を最小限に抑えれるだろう。
正直フィジカルでゴリ押しする奴が一番厄介だ。
「【極寒凍結】」
雪華はマヨ船長の複製体に攻撃を仕掛ける。
そして、即座に氷漬けとなる。【極寒凍結】は凍結の状態異常の蓄積が速く、少し触れるだけでも凍結状態となる。
「【氷魔剣】」
それを見越して雪華は接近する。
同時に氷で構成した剣で思いっ切り斬りつけた。
「――――なんて硬さなの!」
【氷魔剣】も決して火力が低いという訳ではない。
むしろ、マトモに当たれば致命傷となるスキルのはずだ。
それでも、マヨ船長の複製体は涼しい顔で正面から受け切ったのだ。
「元通りになったら評価を書き換えなければな」
『セイレーン社』の元『荒波海賊団』船長。
決して侮ってはいないが、執政官相手にここまで優位に立ち回れるとは。
知能の低い複製体でこれならば、本体が相手であれば更に脅威と成り得るに違い無い。
例え相手が猛者でなかろうと、猛者に匹敵する者は必ず存在するのだ。
――――目の前のマヨ船長のように。
「総督〜こいつ硬すぎるよ!」
「現状は時間稼ぎに専念だ。私の予想が正しければ――――丁度、来たみたいだ」
少し遠くの方から、あるプレイヤー達が接近して来るのを確認出来た。
地上には我らが執政官の1人、プレイヤー”雪だるま”。
そして上空には、生産開発部長兼特別客人のプレイヤー”バンダナ”、そしてプレイヤー”グリム”。
雪だるまは言うまでもなく、現状を鑑みるに、これ以上のない素晴らしい人材だ。
バンダナの強さは未知数なものの、高火力のブレスを放てる事で有名なグリムと似たような遺物を装備している。
派遣されるだけの実力も十分備わっているのだろう。
「貴殿があのグリムかな?」
「そう言う貴様は……ヌルハートだな。我々は貴様達に加勢しに来た。障害は焼き払ってやる故、安心すると良い」
「では、お手並み拝見といこうか」
『ドリュアス社』の紅き龍人。
噂程のものか、試させて貰おうか。
「ヌルハート、私は誰倒せば良い?」
「バンダナ殿は……玩具戦士の複製体を仕留めて欲しい」
「分かった〜!」
「であれば、我はマヨ船長の複製体を始末するとしよう」
バンダナは玩具戦士の複製体、グリムはマヨ船長の複製体と交戦する事となった。
どちらもタンクタイプであり、火力が欲しいと思っていた所なんだ。
もし彼らでも削りきれず苦戦を強いられるようであれば、協力して倒せば良い。
実に効率的な采配だろう。
「……あの〜総督、俺は誰と戦えば?」
「夜風の複製体だ。何をぼさっとしている?」
「俺だけ当たり強くないか?!」
雪だるまに至っては執政官の1人だ。
ここで戦果を上げなければ2人に示しが付かないだろう?
「さて雪華、珈琲はどうかね?」
「ご一緒します」
「このタイミングで珈琲飲みだした?!」
「……何を見ている?」
「あっ行きます」
「分かれば宜しい」
雪だるまは実に不服そうに夜風の複製体を倒しに行った。
夜風の複製体は星の低い構成員への被害が大きい。
だが雪だるまならば余裕で対処出来るはずだ。
――――はずだよな?
「凄い悪寒が……仕方ない、やるか。【地盤粘土】」
雪だるまは『地母神大鋤』を地面に差した。
次の瞬間、夜風の複製体の居る地面が隆起した。
上空に打ち上げられた夜風は重力操作により、雪だるまの真下へと移動する。
そして、突然急速に落下する。
「そんな攻撃当たるかよ」
雪だるまは咄嗟に後方に飛び退くと、その隙を狙って雪だるま自身に重力操作の影響が及ぶ。
現在、雪だるまは空中に浮かんでる状態であり、普通ならば抵抗せずに吹き飛ばされてしまう。
――――普通ならな。
「【地盤粘土】」
雪だるまは『地母神大鋤』を投擲して地面へと突き刺す。
すると、地面から壁が上がってきた。
ドゴンッ!
「【地盤粘土】【地盤粘土】ッ!」
壁に着地した雪だるまは【地盤粘土】を2回発動する。
夜風の複製体の背後にも同じ壁を生成させ、その横から岩の柱が飛び出した。
突然、夜風は横に吹き飛ばされる。
そして、その先には雪だるまが居る。
雪だるまは遺物を出し入れして『地母神大鋤』を瞬時に手元に戻した。
「これは、あんまり使わんスキルだが――――」
突如として、雪だるまの『地母神大鋤』に青き魔力が収束していく。
その上、魔力の塊をドリルの形状へと変化させた。
「【掘削螺旋】ッ!」
超近距離の【掘削螺旋】が夜風の複製体の身体を穿つ。
高威力スキルに耐えきれず、ポリゴンと化した。
「――――っと、ざっとこんなもんかな」
「よくやった。褒めて遣わす」
「総督! 俺にも一杯くれ!」
「構わんよ……ほら、ご褒美だ」
「やっぱカフェインだよな……!」
「飴と鞭……餌付けされてるワンチャンみたいね」
「何か言ったか? ん?」
「いえ別に」




