助太刀
一方、西側の防衛線では、多くの『ドリュアス社』プレイヤーが複製体と戦闘を繰り広げていた。
相手は“蟹クラブ”、“フォビア”、“猫仙人”、“税金徴収者”の複製体達である。
「厄介な複製体が多いわね……【棘薔薇】ッ!」
プレイヤー“ローズ”は地面から鋭利に尖った棘が生え並ぶ薔薇の枝を生成する。
それが、猫仙人の複製体へと伸び――――
「――――消えた?」
薔薇の枝が消えた。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
「【鷹ノ目】【光矢】ッ!」
プレイヤー“狩人”は光の矢を税金徴収者へと飛ばす。
――――それすらも、搔き消えてしまった。
「……こいつだ、税金徴収者を狙え! このスキルにも、限度があるに違い無い。削り殺すぞ!」
税金徴収者の複製体は心無しか小馬鹿にするような笑みを浮かべながら、フィールド中を駆け回る。
そして、『ドリュアス社』プレイヤーの1人に狙いを定め手刀を行った。
それも1回だけでなく、すれ違い様に手刀を何度も行っているのが見える。
「……無い?!」
「どうした」
「狩人さん……お金が無くなってます!」
狩人は少々思考に耽る。
税金徴収者は何の為に金を盗んだか。
狩人自身は、攻撃を無効化するこのスキルには限度があると見抜いていた。
つまり、使えば使う程何かを消費するという事だ。
消費するのは……魔力?
否、それなら盗むのはお金ではなく魔力のはずだ。
であれば、消費するものはお金そのもののはずだ。
「狩人!」
少しの間考え事をしている隙に、狩人自身が狙われてる事に気が付くのが遅れる。
猫仙人の獣のような突撃が狩人を襲う。
「【波李威】ッ!」
その攻撃に合わせるように、何者かが金属バットで弾き返した。
「お前は……?」
「『ボレアス社』星5構成員だ。夜露死苦」
プレイヤー“夜露死苦”。
その者は『鉄塊打者』を片手に振り回す。
彼を一言で表すなら――――
番長。
まるで不良漫画に出てきそうな風貌をしており、頭には立派なリーゼントがあった。
「……助太刀感謝する」
以前の狩人なら大いに警戒をしていたのだろう。
だが、赤月との交流を経て人を疑い過ぎるのも良くない事だと、彼は学んでいたのだ。
「【傀儡糸】」
ふと糸が猫仙人の複製体へと突き刺され、突然挙動不審な行動をした。
すると、突然少し離れた所で戦闘中のプレイヤー“わたあめ大将軍”、プレイヤー”賢者牧師”の方へと突撃した。
「大丈夫ですよ」
いつの間にか、プレイヤー“あやとり”が狩人の隣に立っていた。
武道祭で見せたオドオドとした様子は全く無く、実に冷静に落ち着いた様子で糸を伸ばしていた。
「……えっ?」
わたあめ大将軍はこの出来事に困惑していた。
何故なら複製体である猫仙人が、同じ複製体である蟹クラブに向かって突撃をかましたからだ。
「さて――――【傀儡糸】【切断糸】」
あやとりは【傀儡糸】を税金徴収者の複製体に伸ばす。
当然、【傀儡糸】は何も無かったかのように消滅する。
――――だが、少しだけ後ろへと後退していた。
それは別にスキルの反動という訳ではない。
単なる反射行動によるもので、ただの癖のようなものだ。
たったそれだけの行動により、税金徴収者の足首が切断された。
足元には、【切断糸】が設置されてあったのだ。
税金徴収者の複製体は態勢を崩し、地へと這いつくばる。
そして、設置した【切断糸】に自ら首を落とし――――
頭を差し出したのだ。
「……恐ろしいお方ですね」
ふと賢者牧師が呟く。
同時に、心の中では「敵対しなくて良かった」とため息を吐いていた。
フォビアの複製体は、次々と奇怪な行動をするあやとりを狙って投げナイフを投擲する。
そして、その投げナイフは――――
巨大化した。
本来であれば、避ける事すら困難な質量による攻撃。
「【守護糸】」
あやとりは、それを難無く防いだ。
守護糸の硬度は、あのBANの『星断の光子剣』すら防ぐ程の強固さを誇る。
並大抵の攻撃すら通さない守りであり、投げナイフを巨大化した程度で太刀打ち出来る代物ではない。
「【傀儡糸】」
「【光刃】」
お返しとばかりにあやとりはフォビアの複製体に糸を突き刺し、行動を封じる。
狩人は合わせて光の矢を飛ばし、脳天に直撃させた。
残りは蟹クラブと操られ済みな猫仙人の複製体のみ。
――――いや、もう用済みとばかりに猫仙人の複製体は自らの首を搔き斬って散っていった。
蟹クラブの複製体は一旦あやとりを後回しにして、出来る限りの損害を与える事に切り替える。
見えない刃が、狩人に向かって襲いかかるも――――
「【波李威】ッ! 誰も殺やらせねぇぞ」
夜露死苦が攻撃を防ぐ。
最後の悪足掻きすら、容易に防がれてしまった。
ふと蟹クラブの下から魔法陣が展開されていく。
「【傀儡糸】」
あやとりは逃げ場を封じる為に【傀儡糸】を蟹クラブの複製体へと刺す。
そして――――
「【昇天光】!」
魔法陣から光の柱が出現し、蟹クラブも消えていった。
これにて、西側は戦闘終了となる。
「凄い、何が起きたのかさっぱり……」
わたあめ大将軍の溢した呟きに、『ドリュアス社』のプレイヤーは心の中で同意していた。
流石猛者ですね(白目)




