終わらぬ夢、ノイズ混じりの悪夢
ヒーロー視点です
テレビが宙を舞う。
その数は1つや2つなどでなく、無数にも等しい量が羽虫のように飛び回っている。
3つのテレビが並列へと並び、ふと光る。
画面の中から飛び出るは自動車そのものであった。
「…………」
俺は目蓋を閉じ、精神を統一する。
地面のコンクリートと回転するタイヤが擦れる音。
それが鼓膜へと入り込む度、危機が迫ってきている事が分かる。
一拍を置いた後、『神霊聖剣』を振り下ろした。
スパッ。
豆腐を切るかの如く、突撃する自動車を両断する。
爆発はせず、断面が通り過ぎるのを感じる。
次々と自動車が生成され、奔流が生まれるも、冷静に斬る。
斬る、斬る、斬る――――
この程度の障害は障害にたり得ない。
俺は車の激流を逆らうように、前へ前へと駆け抜けていく。
「流石、初代優勝者だな」
「君こそ対処出来てるじゃないか」
横を見やれば、雪だるまは地面を隆起させて自動車を逸らしていた。
彼も猛者に匹敵するプレイヤーなのだろう。
「よくこの猛攻をどうにかできるよな」
「お前に言われたくないな。どうにかする必要すら無いなんて」
マヨ船長に至っては、強靭な肉体によって自動車を弾いていた。
被弾しているのにも関わらず、汗粒1つ流さず受け流している。
あんな芸当、俺の仲間にも出来る者は居ない。
「3分間限定だけどね……アンタも知ってるだろ?」
「――――【覚醒解放】の影響だね」
確か一時的にステータスを増加出来るスキルだったはずだ。
3分間だけとは言え、これを真正面から受けられる程なのか。
凄まじい増加量だ。
「To outdo this……and yet, your movements have slowed.(これを凌ぐとは……ですが、動きが鈍っていますね)」
ヴァル=ムービーが指を鳴らすと、12個のテレビが浮かび上がる。
円形にして並んだテレビ達は、次第にグルグルと回転を開始した。
「――――させません! 【閃光脚】ッ!」
ガキンッ!
ふとヴァル=ムービーの真下に【亜空鏡】が出現する。
鏡の中からノブレスが射出され、強烈な蹴りを顎に喰らわせた。
それと同時に、放たれる寸前の大技はキャンセルされる。
「What……?! My vision……! (何だ……! 視界が……!)」
【閃光脚】と共に与えたのは閃光の状態異常である。
蹴りを当てるだけで、視界不良を与える。
「――――【亜空鏡】」
そんな大きな隙を見逃すはずもなく、突如として出現した【亜空鏡】の中から、1人のオカマが飛び出した。
「【愛死天流】」
かつて死闘を繰り広げたトライソウル=ドールすら葬るスキル――――
エンジェル最大の一撃をヴァル=ムービーの腹を穿つ。
あり得ぬ程膨れ上がった乙女パワーを、愛を知らぬ者へと叩き込むのだ。
「【純愛正拳】ッ!」
酔いが、醒めていく。
夢が、覚めていく。
映画が、終わっていく。
栄華が、終わっていく。
「――――まだだ。警戒を緩めるな」
ふとマヨ船長が呟く。
本来ならば、ここで撃破ログが流れるはずだ。
ヴァル=ムービーの身体は無く、残るは巨大なテレビのみ。
そのはずなのに、違和感が拭えない。
「何か知ってるのか」
「アタシの予想が正しければ――――」
マヨ船長は、以前同じ状況に出会った時があった。
赤月と『やみ森』にて出会った時、アニマ=ドミナとの戦闘中――――
青い水晶が突然生えてきた事を。
「青い……粒子?」
「Stop……(やめろ……)」
ノイズ混じりの声をあげるも、最早朽ちていくのみ。
抵抗は出来ない。
「■■■■■■■■■■■■■■■■」
「RAAAAAAAARGH!!!!」
突然、ヴァル=ムービーが叫ぶ。
すると、テレビの中から黒いコードのようなものが網目状に出現した。
蜘蛛のように、毛玉のように、絡まった配線のように、細い繊維が広がっていく。
バチバチッ!
身体から青き火花を散らす。
巨大なテレビに画面が付いたかと思えば、砂嵐しか映らなかった。
「何だ……?」
ふと、視界に何かが見えた。
ノイズだ。
画面のような砂嵐のようなノイズが、絶え間なく視界を覆い尽くす。
微かに前方が見えるだけで、歩くのがやっとの視界不良。
まるで常に閃光の状態異常を喰らっているかのようで、ヴァル=ムービーの正確な姿すら把握出来ない。
「RAAAAAAAARGH!!!! RAAAAAAAARGH!!!!」
ヴァル=ムービーの叫び声だけが響き渡る。
悶え苦しむ声だけが木霊する。
もう、何もかも正気で居られないのだ。
[クエストボスが狂乱化しました]
[栄華機兵 ヴァル=ムービー【狂乱】]
[第三形態へ移行]
まさかの第三形態?!
そう簡単に突破させる訳無いのだ()
ちなみに第三形態持ちのボスは三魂縫合体トライソウル=ドール以来ですね




