金の切れ目が縁の切れ目
三人称視点です
一方その頃、また別の場所では“ヒーロー”と“マヨ船長”が合流を果たしていた。
「マヨ船長、お前は『セイレーン社』のプレイヤーにしては非常に丁寧な人物だと記憶しているよ」
「そう思って貰えて光栄だ。だが、突然改まってどうしたんだい?」
ヒーローは笑顔を崩さないままマヨ船長を問い詰める。
「お前は“無害なクマ”の遺物を持っているな?」
「その件か。“酒池肉林”が無害なクマをキルしちまったから心配なんだろ? 安心してくれ、ちゃんとアタシが取り返してやったさ」
「それは安心だね。そう、それは俺の仲間の大切な物なんだ。返して欲しいのだが」
それを聞いたマヨ船長は顔色を全く変えず、こう答えた。
「10万HGだ」
「………………」
確かにマヨ船長は『セイレーン社』の中では穏健派であり、彼らの中では比較的マシな部類のプレイヤーである。
それでも、彼女は『セイレーン社』のプレイヤーに違いは無い。
それ故に、自身が優位となった時には容赦が無いのだ。
「俺の聞き間違えかな? 今、お金を請求されたような気がしたんだけど」
「10万HGだ」
「いやいや、仮にも共同戦線を張った者同士じゃないか」
「……分かった。9万HGで手を打とう。お友達価格という奴だな」
「――――今、俺がここでキルしたって良いんだぞ?」
「もう『金庫』に入れちゃったけど良いのか?」
「くっ……こいつ!」
ヒーローは苦虫を嚙み潰したような表情で睨む。
それと同時に、マヨ船長はヘラヘラとした表情で――――
心無しか小馬鹿にしたような表情で見やる。
「ヒーロー、やっぱり『セイレーン社』って信用ならなかったんじゃ……」
プレイヤー“わたあめ大将軍”の召喚したゴーレム達に囲まれてもなお、マヨ船長は余裕を崩さない。
これでも『セイレーン社』の元3勢力の内の1つ『荒波海賊団』船長だったのだ。
「良く良く考えてみたまえ。やろうと思えば、このままデスポーンしてトンズラしたって良かったんだ」
死んでも、失うのは現在の遺物だけ。
彼らが喉から手が出る程欲しい"無害なクマ"の遺物は落とさない。
何故なら『金庫』に入れた遺物はキルされても保管されたままなのだ。
この無害なクマが装備していた遺物さえあれば、時間はかかるだろうが元の遺物を回収する事も出来た。
だが、それをせず、交渉に持ち込んだ。
これがマヨ船長流の譲歩である。
「だけど、私の良心が「返した方が良い」と告げ、私の悪心が「ただであげるのは癪」だと告げたんだ。だから金を取る事にした」
「ぐぬぬ……!」
「でも良いじゃないか。たった9万HGで大事な遺物が帰って来るんだから」
「――――良いだろう。9万HGくらいくれてやる」
「ヒーロー?!」
「良く言ったヒーロー。「共同戦線を張った者同士」、私もあるべき場所に返せて嬉しく思うよ」
マヨ船長は心にも無い事を言いつつも、ちゃんと取引を済ませる。
[プレイヤー マヨ船長に90000HGを送金しました]
[プレイヤー マヨ船長から遺物を譲渡されました]
「……後で覚えてろよ」
「何の話だっけ――――」
「【飛来天斬】ッ!」
「あっ――――ぶな! 何するんだい!」
ヒーローの飛ぶ斬撃をマヨ船長は間一髪で避ける。
彼女は常に不意打ちを警戒していたとは言え、もし当たれば本当に全ロスとなっていた。
その事実から、マヨ船長の心の内では心臓バクバクになっていた。
「『夢の跡地』に居る内は斬らないでいてやる。1歩でも出たら敵同士だからな」
「全く、ちょっと魔が差しただけだと言うのに厳しいねぇ」
「ちょっと?」
(口笛を吹く音)
ヒーローは溜息を吐く。
確かに彼女は戦争で大いに活躍してくれていた。
その代償がこの程度なら、まだ良い方なのかもしれない。
「あら、ここ結構プレイヤーが居るのね」
ふと、ヒーローの後方から声が聞こえる。
振り返れば、筋骨隆々の大男――――
否、オカマが立っていた。
エンジェルは天使の魔法少女の服装をキツキツで着こなしており、女性声と男性声が混ざったような、ねっとりとした声色が脳裏に張り付く。
「き、君は一体……」
「正義の味方♡」
「えっと……エンジェルさん? 顔近くないですか?」
「あらやだ、距離感見誤っちゃった」
この場には既に多くのプレイヤーが集まっているにも関わらず、ここまで個性の強いプレイヤーは何処をさがしても彼女……そう、彼女だけだった。
「私ね、エリア中を駆け回って結構情報持ってるの。せっかくだし、共有しちゃうわね」
「それは有り難い。是非とも聞かせてくれ」
改めてエンジェルは椅子に座り、出されたお茶を啜る。
「まずは大前提。ここ『夢の跡地』から脱出する為には、あの大穴の中に居る大ボスを倒さなければならない。ここまでは分かっているわね?」
「あぁ、それは皆の共通認識だ。だからこうして、プレイヤーを集めている」
周りを見渡してみれば、陣営を問わず多くのプレイヤーが集まっている。
先程まで死闘を繰り広げていた“狩人”と“漁師”は互いに談笑をしており、『彼岸会』の会長“亡霊マダム”は先んじて降伏した事で一時的に協力すると宣言してくれている。
『ボレアス社』の執政官である“雪華”と“雪だるま”も『ゆるゆるポーション屋』から取り寄せた特殊なポーションを配っている。
『アマテラス社』も“クワバラ料理人”による料理バフの提供や、“蛇者”による周囲の警護なども抜かりは無い。
皆が手を取り合い、強大な相手に向かって結束を強め、戦おうとしている。
全員が居る訳では無いだろうが、既に大部分が集まってきていると言っても良い。
「それでね、探りを入れる為に、あの大穴へと近付いてみたの。そしたら――――弾かれたわ」
「弾かれた?」
「何か条件を達成しないと、通れないようになってるわね」
エンジェル曰く、穴の上を覆い被さるように透明なバリアが張ってあるのだとか。
そして、何かしらの条件というのは――――
「その上で何だけど……ここって狂乱化ボスしか居ないじゃない? でも1体だけ、普通のボスが居たの」
「普通のボス……ちなみに風貌は?」
「頭がテレビの機兵ね」
「……っ!」
かつて1度『夢の跡地』に迷い込んだ時、ヒーロー達の前に立ち塞がったのが、あのヴァル=ムービーだった。
「名前はヴァル=ムービー、彼は英語でこのように繰り返していた。「封印を守らなければ」と」
つまり、ヴァル=ムービーを倒さなければ大穴に突入する事すら叶わないという事だ。
彼の者からすれば役割を全うしているだけだろうが、この際四の五の言ってられない。
邪魔をするなら全力を持って倒しに行くのみ。
「皆、話は聞いたか? ヴァル=ムービーを討伐しに行きたい者は俺の下へ集まってくれ」
戦いたいと願うプレイヤーは多く、各陣営からも実力者が参戦を希望してくれていた。
『ドリュアス社』からは“ヒーロー”。
『アマテラス社』からは“エンジェル”。
『ボレアス社』からは“雪だるま”。
『セイレーン社』からは”マヨ船長”がヴァル=ムービーの討伐に参加する事となった。
「待った、アタシも行くのかい?」
「お前は強制参加だ」
「9万HGくらいの働きはするかな」
ヒーローはマヨ船長の発言にイラッとしながらも、ここでは鬱憤を抑える事にした。
『セイレーン社』は蛮行上等な所あるからなぁ……
勝てば良かろうなのだぁ!
そんなんだからスカーフとバンダナに逃げられるんだよ()




