潮時
八百屋(万事屋)視点です。
朱雀がうちのギャングに入ってから、しばらく経った。
最初に戦場へ駆り出された時のことは、今でもよく覚えている。
大抵の新人は右も左も分からないまま撃たれ、悲鳴を上げ、運が良ければ生き残るような戦場さ。
だと言うのに、初陣で直ぐに数人のプレイヤーを躊躇なく敵を撃ち抜いていった。
その様子は、ギャングのメンバーを驚愕させたものだ。
まさしく、「快進撃」の一言で、若くしてギャングの幹部にまで登り詰める程の実力を発揮した。
朱雀は典型的な戦闘狂だ。
搦め手を好まず、駆け引きを嫌い、相手が正面から来るなら自分も正面から叩き潰す。
策や罠を使えばもっと楽に勝てる場面でも、あえて真正面から踏み込み、力と技量だけで敵を薙ぎ倒していく。
彼は強くて頼もしい戦友となった。
だが……それと同時に危ないな。
彼が敵となれば脅威になる。
「朱雀、今回も勝利を収めたんだって?」
戦闘帰りの彼に、僕はいつもの調子で声をかける。
「まぁな。だが、今回の敵は中々強かった……危うく倒される所だった」
「またまたご謙遜を……ほら、今日も物資を用意したんだ」
僕は笑いながら、補給用のアイテムを差し出す。
実際、彼が「危なかった」と言う時は、大抵まわりから見れば十分すぎるほど圧勝している。
本人の基準が高すぎるのだ。
朱雀は強いし便利だけど、余りにも真っ直ぐすぎる。
この前だって、結局倒したから良かったものの、あっさりと敵の罠に引っ掛かる。
誘ったは良いものの、いつか面倒を起こしそうで怖いな。
「お前が八百屋だな」
不意に、店内に見知らぬ声が響く。
振り向けば、怪しげなプレイヤーが周囲を警戒するように立っていた。
「いらっしゃい。何をお求めで?」
「“野菜”を売っていると聞いたが」
「野菜ね」
僕はいつものように、ドーピング薬をお客さんに売る。
最近ギャング間の戦争や抗争が激しいからか、ドーピング薬が飛ぶように売れるな。
需要は尽きないだろうし、もう少し在庫を増やしても良いかもしれない。
「お前な……そういう商売してるのか」
「ただの金稼ぎさ。この金はギャングの資金になるんだから、別に損な事は無いだろう?」
僕は呆れた声に対し、 肩を竦めて答える。
僕が稼いだ金は巡り巡ってギャングの装備や補給に回るんだ。
多少グレーだろうが、利益が出ている以上、文句を言われる筋合いはないね。
「危ない商売して、仲間を危険に晒す真似はするなと言っているんだが」
「まぁまぁ、そうは言っても完全に駄目な行為として世間に認識されてる訳じゃないんだ。それに、ちゃんとトラブルの種は回収してる。ギャングの迷惑にはならないよ」
こっちの商売まで口出しするとは……一体何様のつもりなんだ?
確かに君は強さでギャングを支えてるかもしれないけど、こっちはこっちでギャングを回してるんだ。
裏で必要なものを揃えている。
その為の資金集めなんだぞ?
……そう言えば、ボスにも、そろそろドーピング薬の商売から手を引けって言われてたな。
面倒になってきた。
僕はギャングの為に商売をやっているのに、何で咎められないといけないんだ。
……気に食わないな。
僕は不愉快そうに、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、去っていく朱雀の背中をただ見つめていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれから数日が経った。
前々からギャング同士の衝突は起きていたが、そろそろ大規模戦争が起きようとしている。
その気配を感じるたび、僕の胸はぞくぞくと高鳴った。
もうすぐで、戦争が来る。
またあの最高の時間が来るんだ。
怒号と裏切りと断末魔が飛び交い、莫大な物資が消費され、勝者も敗者も血まみれになって転がる祭りの時間だ。
僕は興奮を隠せないまま、商売に励んだ。
それと同時に、多くのギャングからの接触を受けた。
表向きはただの取引相談だが————
実際には、連中の狙いは一つだけ。
彼ら曰く、朱雀の情報が欲しいらしい。
今や朱雀は他のギャングからの脅威として認定されているからね。
是が非でも、僕から情報を抜き取りたいんだろう。
「————潮時かな」
ぽつりと呟く。
僕はこれまで、このギャングのために働いてきた。
危ない橋も渡ったし、汚れ仕事だって引き受けてきた。
けれど最近は、周囲の視線が妙に冷たい。
正直居心地が悪いし、朱雀との商売を巡っての衝突も増えてきた。
このままここにいて、何になる?
いずれ切り捨てられるのがオチじゃないか。
だったら、その前に動くべきだ。
ここで朱雀の情報を手土産に、他ギャングへの鞍替えする。
どうせこの世界は裏切った者勝ちだ。
最後まで義理だの忠誠だのを抱えて沈むなんて、馬鹿のすることだろう。
いずれ消されるくらいなら、早いうちに逃げた方がいい。
だったら————
朱雀を売るしかない。
朱雀を引き入れたのが、まさかこういう形で活用出来るとは思わなかった。
でも、もういい。
使えるものは使えばいい。
それが商売ってものだ。
僕の愉快な商売ライフの為に。
僕が最後まで笑っている為に。
「死んでくれ、朱雀」




