【騒乱】獰猛な乱入者
「クマっ!」
無害なクマ、襲来。
一瞬にして漁師を消し飛ばした威力を見て、『セイレーン社』のプレイヤー達は戦慄する。
「【気孔掌底】」
ふと腹を抉る感覚が過ぎる。
1人のプレイヤーが下を見やると、そこには大穴が開いた身体がポリゴンを散らしていた。
「【気孔掌底】【気孔掌底】【気孔掌底】」
一撃でも喰らえば只では済まない空気砲。
それが、目にも留まらぬ速さで飛来する。
尋常ではない攻撃速度、これを避けられる者の方が希少である。
「猛者が相手か……名を挙げるチャンスじゃねぇか!」
ただ1人、酒池肉林が無害なクマに飛び掛かる。
彼は無害なクマが攻撃力と素早さに極振りしているステータスだと見抜いていた。
当然、トーナメントも観ている。
準々決勝第二試合、無害なクマと赤月の戦闘。
確かに彼女の身体能力は目を見張る程の物だ。
だが守りを削っているが故に、攻撃を当てさえすれば容易に倒せる事を酒池肉林は知っていた。
「【倍速】」
この近距離、無害なクマは【超速連撃】を選択するに違い無いと酒池肉林は読んでいた。
例え高速移動をしているからと言って、攻撃の最中は無防備になるものだ。
酒池肉林は【超速連撃】を耐え、反撃として『貪欲大剣』を叩き込む。
これは賭けだ。
自身の耐久力であれば、耐えられる。
否、耐えなければ勝ちは無い。
――――使え、【超速連撃】を!
「【狂暴走】」
「なっ――――」
実際、【超速連撃】を喰らおうが酒池肉林は耐えていた。
現在、酒池肉林は【狂暴走】の状態中であり、被ダメージが50%も減少しているのだ。
それ程までの耐久力は、彼にはあった。
ただそれは――――
相手も【狂暴走】を使って来ないであろう想定である。
「【超速連撃】ッ!」
【狂暴走】による底上げされた火力、その連打が――――
「キィーッ!!!」
次の瞬間、突如として何者かの影が介入する。
それは、隼であった。
巨大な鳥が、横から猛スピードで突撃してきたのだ。
「クマっ……!」
「がはっ……!」
その衝撃により、2人はそれぞれの樹木に衝突する。
[エリアボスが出現しました]
[煌翼蜜喰 ファル=ガルダ【狂乱】]
「こんな時にボスの乱入?!」
「しかも……おい、あれ狂乱化じゃねぇか……?」
身体のあちこちに青い水晶が生えていた。
戦場に投下された、一滴の変数。
狂乱化ボスの乱入により、更に混沌を極めていく。
「おいデカブツ! こっちだ!」
復帰したマヨ船長はファル=ガルダの足を攻撃する。
「キィーッ!!!」
ヘイトが向けられたマヨ船長は戦場を駆け抜ける。
そして、その道中には勿論『セイレーン社』プレイヤーが跋扈していた。
「ちょ、こっち来るんじゃ――――」
1人、狂乱化ボスの攻撃に巻き込まれて潰される。
「キィーッ!!!」
「どうした阿呆鳥! アタシが見えないのかい?」
「あいつ……ボスで轢き殺す気か!」
更に1人、プレイヤーが翼に切り刻まれる。
マヨ船長の狙いは至極単純、ファル=ガルダの攻撃で『セイレーン社』プレイヤー達を殲滅する。
「そんな見え見えの攻撃、引っ掛かる訳――――」
ピカッッッ!!!
「なっ目が――――」
「キィーッ!!!」
また1人、ファル=ガルダに轢かれる。
狂乱化ボスの攻撃力は非常に高く、耐久力を上げなければ一発喰らうだけでも大ダメージを負ってしまうのだ。
「ふざけやがって糞鳥が!」
ファル=ガルダの顔面に衝撃が走る。
『貪欲大剣』の一撃によって、大きく吹き飛ばされた。
「その様子、【狂乱化】の効果は切れたようだな」
「ぜぇ……ぜぇ……お陰様でな!」
酒池肉林の【狂乱化】は終わりを迎えた。
一度魔力が枯渇したが、既に上級魔力回復ポーションによって回復済みである。
「【気孔掌底】ッ!」
「――――っと、油断も隙もあったもんじゃねぇ」
間一髪で酒池肉林は空気砲を躱す。
そして、その一撃は――――
「キィーッ!!!」
ファル=ガルダへと直撃した。
余りの威力に悲鳴を上げ悶える。
だがそれと同時に、彼の者の身体が徐々に青く煌めく。
「クマ……!」
「様子がおかしいな」
地面に倒れ伏したと思った途端――――
「キィィィィィィッッッッ!!!」
突然上空に飛び上がって雄叫びを上げる。
ファル=ガルダは周囲のプレイヤーに見せ付けるように翼を大きく広げ、羽ばたく。
それはまるで空の王者のようであり、見る者全てを威圧するような、重厚な覇気を放っていた。
[第二形態へ移行]
バサリ。
バサリ。
ファル=ガルダは羽ばたき、舞い降りる。
ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと。
天使のように、王者のように、天のように。
「――――【覚醒解放】!」
ファル=ガルダの姿が搔き消える。
音すら聞こえず、ただ消える。
次の瞬間――――
ガキンッッッッッ!!!
ファル=ガルダは剛翼を『解放の錨』に押し当て、轟音を鳴らす。
その直後、爆音が戦場を支配した。
音すら置き去りにする一撃。
それでもマヨ船長は1歩も動かず、耐える。
「ふんっ!」
攻撃を弾き返したと思った刹那、重い攻撃が1つ2つ3つ。
マヨ船長が反撃を試みる瞬間、姿が消えて、残るは衝撃が伝わる感触のみ。
「ぐわっ!」
「くそ……速ぇ!」
「畜生、何なん――――」
ついでとばかりに、周囲の『セイレーン社』プレイヤー達が鏖殺されていく。
目にも留まらぬ速さで森の中を飛び回り、剛翼で轢いて回っているのだ。
無作為に、無差別に攻撃する様はまさに暴君。
「クマ……!」
今度は無害なクマをも襲う。
彼女に向かって突撃をかました。
「クマ!」
突撃と同刻、無害なクマの蹴りがファル=ガルダの顔面を捉えた。
反撃したのも束の間、ファル=ガルダは即座に復帰して天高く飛び上がり――――
ドゴーンッ!
そのまま地面に向かって急降下する。
無害なクマが後方へと飛び退くと、元居た場所にクレーターが形成されていた。
「【天下無双】、【疾風迅雷】、【破竹ノ勢】」
マヨ船長は今持つバフのスキルを全て積み、目の前の怪物へと飛び上がった。
そして、『解放の錨』を振り下ろす。
ファル=ガルダは思わず怯み、大きく仰け反った。
「とことんムカつく畜生だ。まさか船長が、吾輩ではなく、お前に【覚醒解放】を使わせるとはな!」
その隙を縫うように、草むらから酒池肉林が飛び出す。
彼はファル=ガルダの顔面を思いっきり叩き斬った。
「クマッ!」
無害なクマの【狂暴走】も既に効果終了している。
現状、自身の魔力は枯渇しており、スキルは使用不可となっていた。
それでも、その着ぐるみに内包された攻撃力は尋常でない程に高い。
彼女のボディブローが、吹き飛ばされている最中のファル=ガルダの胴体を抉った。
ボコンッッッ!!!!
「はっ!」
「クマ!」
「喰らえ!」
三者三様、それぞれの共同攻撃により乱入者は塵と化した。
[エリアボスを撃破しました]
[煌翼蜜喰 ファル=ガルダ【狂乱】を倒しました]
[『蛇王の装束』を入手しました]
[『石化の眼球』を入手しました]
[『魔水晶』を入手しました]
[20000HGを入手しました]
既に辺りは静寂に包まれていた。
あれだけ居たプレイヤー達も、ファル=ガルダによって一掃された。
もしくは、恐れをなして逃げ出したプレイヤーも居るのだろう。
だが今、そんな情報など必要無い。
重要なのは――――
「「「【狂暴走】」」」
立っていた3人のプレイヤーが、『魔水晶』を手に入れたという事実のみ。
「【倍速】【気孔掌底】【気孔掌底】【気孔掌底】」
無害なクマは酒池肉林に向かって空気砲を連打する。
酒池肉林は煩わしく『貪欲大剣』を振り回し、相殺した。
「邪魔だ! 猛獣!」
「【超速連撃】ッ!」
無数の拳が酒池肉林を襲う。
だが――――
「――――【起死回生】!」
【起死回生】――――
それは酒池肉林が誇る真の切り札。
自身を0.01秒間のみ完全反撃の状態とする。
喰らったダメージを無効化し、そのままそっくり相手に返す効果を持つ。
刹那の誤差も許さぬ土壇場で発揮される山勘。
それが無害なクマを破壊するに至る。
「がはは……残るは船長、お前さんだけだ!」
「アンタだけは絶対に仕留める。これは、船長としての意地だ」
「やってみろよぉ!」
酒池肉林が無害なクマを下した後、間髪入れずにマヨ船長へと襲い掛かる。
ここでも彼は賭けに出る。
マヨ船長を【起死回生】で反撃し、怯んだ所を『貪欲大剣』で叩き込む。
「はぁっ!」
「【起死回生】ッ!」
酒池肉林は勝ちを確信する。
このままマヨ船長が攻撃すれば――――
「なっ?!」
ふとマヨ船長の攻撃がピタリと止んだ。
「寸止――――」
「ふんっ!」
『解放の錨』で、酒池肉林の脳天をカチ割った。
一体いつから乱入者が1匹と錯覚していた?




