【動乱】夢と覚醒
タイトルの前に【動乱】と付いてる話は戦争や抗争の戦闘描写が続くので、客観的な視点となります
『あまい森』
ここは『あまい森』。
『グルグル密林』の南方に位置するこの森は、果実が実る樹木が生え並んでいた。
『ドリュアス社』と『セイレーン社』は、この豊富な果実を採集する為、幾度も衝突をしてきた。
一方は果汁飲料の為に、一方はワインを製造する為に。
彼らには分け合うという発想は無く、両者果実の取り合いを常日頃から行っていたのだ。
それ故に、『ドリュアス社』と『セイレーン社』の仲は最悪である。
そして時は4月22日。
新大陸7日目にして、過去最大級の衝突が行われようとしていた。
「前進し、略奪し、侵略する。これこそ吾輩が求めた愉悦よ……そうは思わねぇか? 船長」
プレイヤー“酒池肉林”は嗤う。
瓢箪の中にある酒をグビグビと呑み、旨そうに唸る。
そうして、目の前の彼女を見据えた。
「船長? アンタの主はもうアタシじゃ無いだろ?」
酒池肉林の目の前で仁王立ちをしているのは『ドリュアス社』のプレイヤーではなく、『セイレーン社』のマヨ船長であった。
彼女は目の前の裏切り者を睨み付ける。
「そう邪険にする事ぁねぇじゃねぇか。ちゃんと吾輩は船長を尊敬してたんだぜ?」
元『荒波海賊団』のメンバーにして、『セイレーン社』随一の野心家である彼は、万事屋の誘いに乗り『黒潮組』に移籍した。
「だがマヨ船長、お前さんは真面目過ぎる。豪快さで言えば、万事屋にすら劣る」
野心家であるが故に、全てを蹴散らすと豪語する万事屋に惚れ込み、『荒波海賊団』を裏切った。
その結果、次々と『荒波海賊団』から人が出ていき、今ではもぬけの殻となってしまった。
「万事屋こそが、『セイレーン社』に栄光をもたらす者よ」
「悪いがそうはならないね。何故なら、このアタシが皆を導くからだ」
「ぬかせ。スカーフとバンダナにすら逃げられるようじゃ、とても王の器とは言えねぇな」
もしマヨ船長に皆を率いるカリスマがあれば、『セイレーン社』は異なる運命を辿っていただろう。
この世は弱肉強食であり、弱者は強者に喰われるのが常。
彼女に荒くれ共を纏める程の力は無い。
そう思ったからこそ、酒池肉林は見限ったのだ。
「マヨ船長、こちら側へ来い! 夢を見せてやる!」
「酒池肉林、戻って来い! 目を覚ましてやる!」
ガキンッッッッ!!!
『貪欲大剣』と『解放の錨』が交差する。
その衝撃は『あまい森』を揺るがし、周囲の樹木ごと吹き飛ばした。
それと同時に、木陰からプレイヤーが次々に飛び出す。
「かかれ! 全て奪い取れ!」
プレイヤー“漁師”率いる『セイレーン社』。
残存兵力106名。
「全軍突撃! 盟友を死なせるな!」
プレイヤー“狩人”率いる『ドリュアス社』。
残存兵力52名と『荒波海賊団』1名。
およそ倍にも及ぶ戦力差。
『セイレーン社』のプレイヤー達はニヤリと笑みを浮かべ各々の遺物を振る。
だが、対する『ドリュアス社』が振るったのは――――
「何だ?!」
飛来してきたのは、ポーションであった。
そのポーションが『セイレーン社』のプレイヤーに当たった瞬間、砕け散る。
そして中身が飛び散り、自身の身体へと付着した。
「移動速度が……!」
「何で腐食?!」
「あのポーションには触れるな!」
『セイレーン社』の初動が崩された。
その隙を彼らが見逃す事は無い。
「このまま叩き込め! 復帰の時間を与えるな!」
「「「了解!」」」
『ドリュアス社』プレイヤーは統制の取れた動きで『セイレーン社』を翻弄し、的確に各個撃破をしていく。
「初動を潰されたか……! このまま調子に付かせる訳には行かない!」
漁師は彼らの勢いを止めるべく、樹木を駆け登り、一気に上空へと飛び上がった。
「【大食水鯨】」
その手に持つ『大物釣り竿』の先から、巨大な水の鯨が形成されていく。
「【光矢】ッ!」
「……っ!」
その瞬間、光の矢による狙撃が漁師を襲った。
漁師は狩人によって撃ち落とされてしまう。
「隙あり!」
『ドリュアス社』プレイヤー達は勝機とばかりに木々を駆け抜け、漁師に着地狩りを仕掛けた。
「【蛮勇ノ祝福】」
「【穿ノ祝福】」
「【渾身ノ祝福】」
「【魚群水渦】ッ!」
着地する直前、漁師は周囲に水の魚群を射出する。
渦のように広がり、周囲の『ドリュアス社』プレイヤーは全員ポリゴンを散らし消え去った。
「流石に一筋縄じゃ行かないか」
多くのバフによって上乗せされた火力の反撃。
これはトーナメントのような1対1の戦いではなく、バトルロワイヤルのような乱戦でもない。
大多数対大多数の戦争だ。
例え仕留められると確信しても、傍からアシストが飛んでくる事もある。
それを常に警戒しなければならないのだ。
「面白くなって来たな! 船長!」
「随分と余裕そうじゃないか。【疾風迅雷】!」
ガキンッッッッ!!!
「お前さんがそれを言うのか? あれすら使わずに吾輩を倒そうと?」
マヨ船長はまだ【覚醒解放】を使っていない。
これは3分間のみの強化形態であるが、彼女自身は今使用しても彼を倒し切れるとは思っていなかった。
酒池肉林のタイマン性能はマヨ船長にも届きうる。
それを可能としているのは――――
「一応言っておくが、吾輩の『貪欲大剣』に込められた【紅ノ貪欲】は攻撃する度に、お前さんの体力を吸い取る効果を持つ。使わないとジリ貧だぜ?」
【紅ノ貪欲】の体力吸収効果は、相手にダメージを与える必要は無い。
トリガーは攻撃を当てるのみ。
ダメージの発生の有無など関係無いのだ。
「ほら、使えよ【覚醒解放】! 吾輩に見せてくれ! 究極の力を!」
酒池肉林の猛攻は止まらない。
マヨ船長の【覚醒解放】を使わせて、その上で勝利を収めたいのだ。
先程、自身の遺物の詳細を教えたのも、「使わないと勝てない」と思わせる為。
目の前の女傑を、かつての上司を超える為だ。
「アンタのお遊びに付き合う気は無いね」
マヨ船長は『割れやすい閃光ポーション』を放り投げた。
ピカッッッ!!!
「くっ……目が!」
「【破竹ノ勢】――――ふんっ!」
「ごばっ……!」
マヨ船長は『解放の錨』を振り上げた。
顎にグリーンヒットした攻撃により、酒池肉林は上空へと打ち上げられた。
「【鷹ノ目】【光矢】」
狩人は空中で身動きが取れなくなっている酒池肉林の腹を貫通させる。
ポリゴンを散らした酒池肉林は、そのまま地面へと転がり落ちていく。
「終わりだ」
マヨ船長はトドメを刺そうと『解放の錨』を振り上げた。
その時、少々の違和感に気が付く。
酒池肉林の身体から青の粒子が徐々に漏れ出しているのだ。
「――――【狂暴走】ッ!」
酒池肉林がそう言うと、身体から青の粒子を放出した。
そのスキルは狂乱化モンスターを倒した者にのみ贈られる奥義であり、逆転の切り札である。
「【豊穣薬】」
酒池肉林は瓢箪の中身を一気に飲む。
すると、身体な傷が忽ち癒えていった。
先程の猛攻を嘲笑うかのように、立ち上がる。
「――――さぁ、第二ラウンドと行こうか!」
「……っ!」
酒池肉林は『貪欲大剣』を振り回し、マヨ船長を遠くに吹き飛ばした。
「マヨ船長?!」
「何処見てるんだ?」
「しまっ――――」
「【大食水鯨】ッ!」
一瞬の隙を縫うように、巨大な水鯨が狩人に直撃する。
そして、狩人はポリゴンと化してしまった。
「狩人を殺ったぞ!」
「今のうちに全部奪え!」
「『ドリュアス社』など恐るるに足らず!」
その瞬間、『セイレーン社』の士気が上がる。
邪魔だった狩人が消え、マヨ船長も手負い。
誰もがこの勝負――――
「【気孔掌底】ッ!」
「がはっ……!」
突如、森の奥から空気砲が飛来した。
そして、漁師もポリゴンと化してしまった。
「あ、あれは……!」
それはトーナメント猛者にして、このゲーム随一の身体能力を誇る熊。
――――プレイヤー“無害なクマ”であった。
『ドリュアス社』vs『セイレーン社』開戦!
補足ですが、残存兵力はこの戦場での人数です
ちゃんと初心者や非戦闘員含めたら、お互いもっとプレイヤーが居ます
この戦いに来ていないだけですね




