言語の壁
幕間は基本的に別視点となります。
ヒーロー視点です。
時は少し遡る――――
正確にはバージョン1.1のリリースが始まって4日目の事。
新大陸の西側、『ドリュアス社』方面ではエリアの開拓が進んでいた。
『ぽかぽか大草原』
柔らかな日光に包まれたこの大地には、見渡す限り草原が広がっていた。
空気は穏やかそのものであり、風が吹くたびに草の波がゆったりと揺れる。
その風にはどこか眠気を誘うような心地よさがあり、もし戦いや開拓の最中であっても、気を緩めてしまいそうな安らぎを感じさせていた。
そんな『ぽかぽか大草原』の中央の上空からプレイヤーが降り立った。
「またダンジョンを攻略したんだってな、ヒーロー」
そう言いながら、愉快そうに盃を片手に酒を呑んでいるのはプレイヤー“グリム”。
彼の皮膚は龍の如く紅き鱗が剥き出しになっており、角と尻尾が生えている。
まさしく、紅龍人とは彼の事である。
烈火の炎を操り、灼熱にて敵前を屠る。
「グリムの方こそ、またエリアボスを難無く撃破したようじゃないか」
「かっかっか! エリアボスなど肩慣らしにもならんわ!」
「グリムったら、いつも私の活躍を取っちゃうんだもん」
ふと草を踏み分ける複数の足音が響く。
その足音とグリムに不服を呈す声色の方へ向けば、プレイヤー“わたあめ大将軍”が居た。
彼女の操るゴーレムは並みのプレイヤーを凌駕する身体能力と硬さを誇る。
そんな存在が複数体も彼女に付き従っているのだ。
「どちらかと言えば、わたあめ大将軍はタンク寄りのビルドだろ? 攻めるには火力が不十分じゃないのかい?」
「もう、ヒーローまでそう言って……せっかく可愛いゴーレムちゃんが頑張ってるのに〜」
……可愛い?
可愛いか……?
俺の目の前には、軍隊のような筋骨隆々の強面ゴーレムがマッスルポーズを取ってる姿にしか見えないんだが……。
「わたあめ大将軍のゴーレムには、雑多な存在では打ち砕けぬ強靭な肉体があるだろう。それの何が不満なのだ」
「私もこう……凄い大技が欲しいの!」
「そればっかりは遺物の巡り合わせだな! かっかっか!」
気持ちは分からないでもない。
VRMMOをプレイする者にとっては、派手な戦闘を行うのも刺激的な体験となるからな。
でもわたあめ大将軍のビルドは硬いゴーレムを複数召喚する事自体が強みとなっている。
大技が無くても十分強いと思うんだがな……。
「クマ! クマ!」
ふと遠くから“無害なクマ”が走り込んで来た。
彼女は数少ないトーナメントの出場者であり、猛者の1人として数えられているプレイヤーだ。
凡人には届かぬ鍛え抜かれた身体能力と反射神経にて、数々のボスを屠ってきた。
「「この先に不思議なトンネルを発見した」――――分かった。教えてくれてありがとう、無害なクマ」
「いつも思うけど、なんで無害なクマの言葉分かるの?」
「クマ」
「微細な動きから読み取ってるんだよ。ほら、今だって「早く行こうよ」って言ってる」
「いや分からん。先程から「クマ」以外の言葉を喋ってはおらぬではないか」
そこまで言葉の意味を理解するの難しいのか?
その「クマ」の中に隠された意味を理解するくらい、教養ある者なら誰でも出来る。
「ほら、赤月だって無害なクマの言葉分かってたし」
「その赤月もヒーロー並の猛者じゃん。信用出来ないって」
「間違いなく、貴様らがおかしいだけだ」
「そうかな……」
そこまで変人扱いされるのは心外だな。
まさかゲームの中で言語の壁を痛感させられるなんて、思いも寄らなかったな……。
「クマッ!」
「「くだらない事話して無いで行くよ」って? 無害なクマはせっかちだな〜」
「分かるか?」
「分かんない」
俺達は無害なクマが示す遺跡へと足を進めた。
幕間はそんなに長くは続かない予定です




