【別視点】狂乱
スカーフ視点と???視点です。
「――――それで、ここに『瘴気茸』の群生地がある」
スカーフは飴雨と永年労働者に採集場所を教えていた。
こういう採集場所はランダムに生えるものではなく、固有の場所に一定時間後また生えてくるシステムである。
「ここら辺、本当に茸多いよね〜」
「お陰で資源も豊富だな」
「そうだね、僕もここは茸系の穴場だと思うよ」
新大陸中の茸が集まっていると思うくらいには、『のこ丘』で採れる茸は多い。
『光茸』や『瘴気茸』は勿論、『火炎茸』に『冷茸』、そして『毒茸』『麻痺茸』『紅茸』『蒼茸』――――
採集出来る茸も多岐に渡り、採集量も多い。
少なくとも、調薬素材が不足する事は無い。
「ここの群生地一帯の『瘴気茸』は大体18個くらいかな」
「18個も採れるの?!」
「それは凄いな……ずっとここでファームしていたい気分になる」
「今の在庫と合わせると……これで500行ったかな?」
「ごひゃっ?!」
在庫数500はあくまで『瘴気茸』の話。
他の茸も合わせた総量は4桁を優に超える。
これまでコツコツ採集を続けたスカーフの採集者の熟練度は脅威の8。
スカーフが新大陸一の採集者と呼び声高くなるのは、また別の話である。
「さっき連れてきた所を含めて、ここまでがルート1だね」
「……待って、これでルート1? その口振りだとルート2やルート3とかありそうなんだけど……」
「うん、勿論」
「勿論?!」
採集のルートは全部で8個存在しており、東西南北は勿論の事、北東、南東、南西、北西のルートも存在する。
「ちなみに、僕はこれを日課でやってるよ。君達はルートを覚える所からだし……まずは週課かな?」
「あわわわ……この人ヤバいよ永年労働者!」
「ここまで採集を極めてるのか……!」
「そんなビビる?」
2人はスカーフのヤバさを察知するのと同時に、将来彼と同じ事をしなければならないという事実が、彼らを震撼させていた。
「慣れたら脳死だよ脳死」
「採集ガチ勢舐めてた……これを脳死……そうなんだ……」
「俺達も部長と同じ事をやれば、採集者の熟練度相当上がりそうだな」
「あっ私も付いていきます部長!」
「……よく分からないけど、やる気がある事は良い事だね」
スカーフは感覚のズレに困惑しながらも、次のルートの場所向かう為に歩き出した。
2人には長く大変なルートでも、彼にとっては通勤と然程変わらない作業なのだ。
――――そのはずだった。
「……何だ?」
「どうしたの?」
それはここ『のこ丘』のエリアボス、胞子菌王マイセラ=ファガスのように見えた。
スカーフの歩いたルートは、エリアボスとの戦闘を避けるように出来ていた。
戦闘を行うロスを限りなく減らす事で、効率良く採集を行えるように考えられている。
だが、そのルート上にエリアボスが居る。
本来それだけでも異質であるのに、マイセラ=ファガスの身体から青色の水晶のような物質が生えていた。
明らかに、普通のボスじゃない。
「グガァァァァァ!!!」
[エリアボスを発見しました]
[胞子菌王 マイセラ=ファガス【狂乱】]
「2人共、時間稼ぎに注力して。赤月を呼ぶ」
「わ、分かった!」
「了解」
マイセラ=ファガス【狂乱】は、その獰猛な牙をこちらに向けていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方その頃、あるプレイヤーが『そよかぜ山』を練り歩いていた。
「ふふん、この僕様にかかれば、財宝の在処など余裕で暴けるのだよ!」
プレイヤー“まおう”は『宝の地図』を読み進めながら、遂に財宝の場所を判明したと息巻いていた。
他にプレイヤーは居ない。
たった1人で抜け駆けしようとしているのだ。
「くっくっく……この下だな?」
まおうは『採掘スコップ』片手に地面を掘る。
ザク、ザク、ザク――――
カンッ!
「何か当たったぞ!」
まおうは宝箱か何かだと思い掘り返した。
埋まっていたそれは、立方体の金庫だった。
「宝箱……というより金庫だな! 思ってたんと違うが、まぁ良し!」
表面は黒ずんだ金属で出来ているようにも見える。
日光を当てても全く輝かず、更には所々に滲んだような染みがある。
まるで何かを拒み続けているような感覚が背筋を伝う。
そして中央には鍵穴がある。
「ふっふっふ……この僕様を舐めるでないわ! ちゃんとキーアイテムらしき鍵を持っているぞ!」
そう呟きながら、懐から既に見つけていた鍵を取り出す。
土埃を払ったその鍵は、金庫と同じく不吉な鈍い光を宿していた。
「待たせたな、我が財宝よ……!」
鍵先が鍵穴へ近づくにつれ、まおうは周囲の空気が一瞬冷えた気がした。
不自然にも風が止み、無音が辺りを支配する。
そして――――
カチリ!
まおうは鍵を、その不気味な鍵穴へと差し込んだ。
まるで最初からそれ以外ありえなかったかのように、鍵は寸分違わず、ぴたりと収まった。
「何だ……?」
金庫の中に収められていたのは、壮大な財宝でも強大な遺物でもなかった。
それは、一通の手紙。
長い年月を経ても尚破れていない紙。
そこに記された筆圧から、何かを伝えようとする意思が感じ取れる。
「手紙……なんだ、また何かのヒントか〜もう良いってこのパターン」
まおうがため息を吐きながらそれを開く。
すると、そこに記されていたのは――――
『後続の発見者へ』
この記録を読んでいる者が居るなら、我々は既に失敗したのだろう。
読者の諸君、どうかこれを、ただの遭難記録として片づけないで欲しい。
我々宇宙調査隊は、この星を未開の地として調査していた。
だが実際には違った。
ここは一度、文明が滅びた後の世界だ。
この星の旧文明は、我々の想像を遥かに超えていた。
彼らは魔力を使って獣や異形を生み出し、従えて労働力や兵器として使役されていた。
きっと、我々の惑星で言うクローンや人工知能に近いものだったのだろう。
だが、魔力は本来この星の人類のものではなかった。
魔力の源泉は、魔神と呼ばれる存在にあった。
旧文明の人類はその力を流用した。
奪ったのか、借りたのか、あるいは触れてはならないものに手を伸ばしたのか、そこまでは分からない。
ただ1つ確かな事実として、その行いが破滅を招いたという事だ。
怒れる魔神は、この星の文明そのものを滅ぼした。
人類の築いた都市は崩れ、制御されていたはずのモンスター達は狂い出し、世界を蹂躙した。
多くは死に絶えたが、それでも全てが終わった訳ではない。
一部の人類は星外へ脱出し、また一部はこの地に潜み、細々と生き延びた。
そして長い年月が流れる。
星を脱出した者達の末裔は、再び文明を築いた。
あまりにも長い時を経たせいで、自らがこの星から逃れた歴史すら、神話か伝承のように薄れていたのだろう。
我々宇宙調査隊もまた、そんな忘却の時代にこの地へ降り立ったのだ。
愚かだった。
我々は遺跡を調べ、痕跡を辿り、眠ったままの災厄へ近づきすぎた。
魔神は、完全には死んでいなかった。
眠っていたのだ。
そして我々の調査によって、その意識に触れてしまった。
それから異変が始まった。
この地に棲むモンスター達が突如として凶暴化し、猛獣のように暴れ始めたのだ。
狂乱した個体には共通点があった。
肉体の各所に、青色の水晶のような物質が生えていた。
骨を突き破り、皮膚を裂き、なお結晶は輝き続けていた。
あれは間違いなく侵食だ。
魔力が、モンスターを媒介にして現実へ滲み出している。
我々は襲撃を受け、部隊は分断された。
通信は途絶え、避難経路は潰され、仲間は一人、また一人と消えた。
生き残った者も、合流は叶わなかった。
この記録を残している今も、誰がまだ生きているのか分からない。
もし後続が来るなら、覚えておいてほしい。
この星の脅威は、モンスターだけではない。
奥底には、文明を一度終わらせた青の災厄が眠っている。
青い結晶を宿した個体を見たなら、それは前兆だ。
既に何かが目を覚ましつつある証拠だと思え。
どうか深入りするな。
調べるな。
起こすな。
我々の失敗を、繰り返してはならない。
宇宙調査隊 生存者記録より
これにて、第五章終了でございます!
ここまでご覧下さった読者様、本当にありがとうございました!
ここからは幕間に入ります〜
幕間は基本的に他プレイヤー視点となります
宜しくお願いします!




