【別視点】変わりゆく赤
ヌルハート(祐介)視点です。
ヌルハートは社長室の椅子を堪能していた。
バンダナが作成した家具であるが、ここまで精巧に作られているとなると、仮面の裏で表情が緩む。
赤月曰く「バンダナが3時間で建てたらしい」と宣って耳を疑ったが……状況証拠から本当の事なのだろう。
「総督……いえ、社長と呼ぶべきでしょうか?」
「総督で構わん。君だって、最高財務責任者と呼ばれるより、執政官と呼ばれる方が響きが良いだろう?」
「……では、総督とお呼びしますね」
雪華は会社の財政を管理及び統括する役職に就いた。
フォビアは物流と営業メインの役職に就いている故に、金銭に造詣の深いプレイヤーが雪華の他に居なかったのだ。
「しかし意外でした。私はてっきり、赤月が社長になるものとばかり思っていましたが……」
「赤月曰く、「現場で動くタイプ」なのだそうだ。まぁ、単純に支配欲が無いだけだろう」
「赤月の狙いは何だったのでしょうか」
「私が思うに単なる思い付きだな。「特殊なポーションが出来たから北に売り付けてやろう」そう思っただけだろう」
それを聞いた雪華は少々困惑しているようだった。
例えアイデアが浮かんだからと言って、本当に特殊ポーションが売れるかなんて誰にも分からないからだ。
もし雪華であれば、特殊ポーションを「自分で使う」という選択をしたはずだ。
「以前、彼に私が『スノー街』から始まったと話した事がある。そこから私は北に要ると予測を立て、私ならば請け負ってくれるだろうと足を運んだ」
「……決断するには不確定要素が大き過ぎますね」
私からは彼に対して、プレイヤーネームは一度たりとも話してなど居ない。
ただ彼が「きっとそうだ」と予測を立てて、実際に行動を移しただけだ。
きっと祐介はヌルハートだろう。
きっと祐介は北に居るだろう。
きっと祐介ならば話に乗ってくれるだろう。
確証など何もない。
そのはずなのに、さも当然のように行動するのが彼だ。
「彼は理屈で行動するような奴ではない。彼自身が「こうしたい」と思ったから、それをするだけだ」
「感覚的に行動する人は理解出来ません。彼は自分自身のネームバリューについて、何も思っていないのでしょうか?」
「そうだろうな。だからこそ、彼は台風の目だ」
自分とその周囲の気遣いは出来る男だ。
だが、その更に外の影響など考えていない。
彼は今日も自分の「やりたい」ように突き進んでいるのだろうな。
「ここ最近は彼が身近に居るからこそ、多少のコントロールが出来ている状態だった。だが、もし我々から離れれば暴風の影響を受けるだろう」
「――――遺物ポーションですね」
遺物ポーションは新大陸を揺るがす代物であり、下手に扱うと世界のインフレが進む。
特殊ポーションだけしか存在を公開していないのは、そういった理由もある。
「いつもそうだが、赤月は変な爆弾置いていくんだ。そして爆発した頃には、社会現象になって荒れたはずだ」
もし、こうして爆弾処理に成功しなければ、爆心地となる『コールド街』も只では済まなかっただろう。
街中が遺物ポーションの虜となって、インフレなど考えず遺物ポーションを求めるようになるんだ。
「何とか隠蔽出来て良かったですね。ですが……尚更彼を処理した方が良くないですか?」
一瞬、ヌルハートは動きを止める。
それを見た雪華は「失言でした。申し訳ございません」と言うと、手を顎に当て考える素振りをした。
「彼は少ししたら、興味を失って別の事をし始めるはずだ。それに……言っただろ? 彼は台風の目なんだ。もし下手に攻撃したら、それこそ秩序が崩れて我々の負けだ」
ヌルハートは秩序を重んじるプレイヤーである。
部下の結束を崩されるのは彼にとっても本意ではない。
例えどんな手段を用いようとも、秩序は維持されなければならない。
必要があれば反乱分子を家畜のように嬲り殺すし、必要があれば怪物と仲良くする。
それが秩序に繋がるのなら、手段を選ぶ必要性すら無い。
「彼は混沌の申し子だ。興味深く、厄介。彼が味方で心底安心するよ。これからも、適度な距離を保ちながら関係を築いていきたい所だ」
秩序と混沌。
一見真逆にも思える基質同士が友人関係を築けている事自体が奇跡のようなものだ。
ヌルハートの信念には合わないプレイヤーだが、人付き合いを誤らなければ、少なくとも敵対はしないだろう。
むしろ基質が真逆だからこそ、2人は惹かれ合ったのかもしれない。
「だが……彼は確実に変わったな」
「変わった?」
「……いや、こちらの話だ」
赤月は『Relics Online』をやる前はもっと冷酷な奴だったとヌルハートは記憶している。
基本的にはソロプレイヤーであり続け、他プレイヤーとの交流は最小限に抑えている。
しかし『Relics Online』での彼は、他プレイヤーを連れてやって来た。
――――他会社プレイヤーを連れてやって来た。
これは従来ではあり得ない行動だ。
やはり、このゲームが彼を変えている。
ならば、その変化を特等席で眺めるとしよう。
さて、赤月。
――――お前はどう踊るんだ?




