白石 紬 06
「はじめまして。流地と申します」
五分後に、五人の男性が姿を現した。先頭に立つ三〇代半ばの男性が丁寧に名乗り、満面に笑みをたたえてくれたので、ぼくも微笑んで返した。
よかった。
感じのいい人で。
「白石です。はじめまして」三メートルを超える高さのフェンスがなければ握手を交わしたいところだけど、無理なので謝辞。「大勢でお出迎えくださいましてありがとうございます」
いいえ、と流地さん。囁くような小さな声ではあったが、公共放送のアナウンサーを連想させる独特の響きが備わった気持ちのいい声だった。背筋がぴんと伸びていて、つられてぼくも姿勢がよくなる。
流地さんの背後に立つ、ダウンジャケットを着た若い男性二人は、両者ともに黒縁の眼鏡をかけていた。髪型が似ていて、顔のつくりもどことなく似ている。きっと兄弟だろう。歳はおそらく二〇代前半。流地さんと同じく、感じのいい笑顔を浮かべていて、革製の鞄を大事そうに抱えていた。
少し距離を置いて立つ残りの二人は、上着のポケットに手を突っ込み、険しい表情をしていた。二人とも同じ方向を見ていたので、その視線を追う。
宍戸捜査官が目にとまる。
あぁ。そうか。そうだよな。ライフルを持った相手を訝るのも当然だ。
「ご一緒のかたは?」
流地さんが尋ねた。ぼくが宍戸捜査官へ目を向けたから尋ねたのだろうが、険しい表情の二人の思いを代弁したかのようでもあった。
「広域捜査官の宍戸捜査官です。ここまでぼくらを護衛してくださったんです。一緒に来た柏樹さんは安全のために車に——」といいながら乗ってきた車へ目を向けると、SUVは徐行で前進をはじめていた。
「三名でお越しになられたのですか。宍戸さんに、柏樹さんに、白石さん」それぞれへ目を向けながら名前を口にする。ぼくもよく使う手だ。口にだしていうことによって記憶定着が強まると同時に、呼ばれた相手は心の距離を縮めてくれる。「申しわけありませんが、どういったご用でしょう?」
「え? あれ、あの」どういった?「あの、電話やメールで、真綿代表とは何度か話をさせていただきまして……えぇっと」
「真綿と、ですか」
「数分前にも電話したんですが、でてもらえなくて。それで、あの――」
五人の中で一番うしろに立っていた男性が咳払いして足を踏みだす。その行動を制するように、流地さんが変わらぬ穏やかなトーンで言葉を継いだ。
「真綿は昨夜から臥せているので、電話にでられなかったのでしょう。実は、二日ほど前から、NICでは高熱で臥せるものが相次いでいましてね」
「高熱? それって、もしかして」
「ご心配なく。例の疫病ではなく、インフルエンザです」
「あ。はぁ――」なんだ。いや、なんだじゃない。インフルエンザも大変だ。どうやらインフルエンザ流行のせいで、肝心な話が伝わっていないようだ。仕方なく一から説明する。真綿代表に今日の約束を取りつけていたこと。約束の内容はクリスタルレイク広場での撮影。それともうひとつ――「遺品を受け取りたいのですが」これはぼくが望んでお願いしたことだ。
「遺品を?」
流地さんは驚いた顔をみせた。そりゃあそうだろう。NICで保管されている遺品は多数の手続きを踏んだうえで遺族の元へ送付されるのが通例なのに、直接受け取りを望んだ者など、過去にいなかったはずだ。
「お手間はかけません。真綿代表から、遺品を保管している場所はケースB3の二〇〇番台であると聞いていますので、すぐに探しだせると思います」
「ケース……B3」
判断に迷っているのか、流地さんは黒縁眼鏡の二人を交互に見て口の端を歪めた。
世間からはお役所仕事の典型といわれているNICである。遺品の受け渡しが決まっても、遺族は到着まで一年以上待たされることがざらにあると聞く。そのような機関に属する者に、『話はついていますから保管室へ案内してください』といっても簡単に首を縦には振らないだろう。必要書類が、手続きが、と、なんだかんだいわれて時間稼ぎされるんじゃないかって危惧したが、
「わかりました。写真撮影と遺品のお渡しですね」了承してくれた。「遺品については、のちほど詳しく聞きましょう。竹山くん、開門を」竹山と呼ばれた黒縁眼鏡の片方が浅く頷いて門へと向け移動する。「門を開けますので、車を入れてください」語りかける流地さんの顔には笑みが戻っていた。
微笑み返し、深々と頭を下げる。
よかった。
ぼくは〝役割〟を果たせそうだ。




