白石 紬 21
「騒ぐんじゃない。どうした? なにがあった?」さほど待たずして、扉は開かれた。姿を現した柏樹さんからは親の仇のような目で見られたが、間違いなくぼくの言葉に関心を持ってくれている。手に持った銃もぼくのほうへ向いていなかったし、心配ないだろう。いまならば。
「隣の店舗内で竹山さんが殺害されました。密室殺人です。誰も室内に入っていないのに、首を絞められて殺されたんです!」念のために銃を握っている手を掴んで訴える。
「痛ッ、いたたたたた。わかった、わかったから急かすな。傷が」
撃たれた腕ではなかったのに、柏樹さんは身を捩って痛がった。大げさにいっているだけなのか、本当に痛いのか判断に迷う。
どうしたんですか、と、一階ホールから声。竹山さんだ。もちろん、殺害された竹山さんではなくて、もうひとりのほう。ぼくが大声で騒いだから、なにごとかと心配したようである。どうしよう。事実を告げるべきだろうけど、話したら収拾がつかなくなるのは確実だ。
「なにがあったんですか!」再び問う声。いまにも駆けあがってきそうな勢いだった。
掴んでいた腕を引っ張る。痛い痛いと騒がれたが、無視して〈アテナ〉店内へ柏樹さんを押し込む。
「どういうことだ?」と宍戸捜査官。
すると早速状況を把握したらしく、柏樹さんが表情を一変させて、大股で偉そうに歩きはじめた。そして命じた。ステレオタイプな名探偵そのままの、うえからの物言いで。「現場確保最優先だ。白石くん、扉に鍵をかけろ」
なにはともあれ、ようやくぼくのよく知る柏樹さんに戻ってくれた。鼻にはつくものの、嬉しい限りだ。
指示に従い、鍵をかけた。一階ホールから問い続けている竹山さんには悪いけど、そうするべきだとぼくも思ったから。




