白石 紬 19
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やはり発砲現場は一ブロックほど離れた場所だったようだ。正面出入り口からおそるおそる顔をだしてみると、不法上陸者のひとりが通りに立ち、警戒心ゼロで北の方角を見ていた。動揺しているらしい。ぼくらと同様に。
「チャンスだ。行くぞ、青年」宍戸捜査官が表に飛びだそうとしたので慌てて腕を掴んだ。銃は柏樹さんに渡してしまったので援護は無理。そう告げて詫びを入れている最中に狙撃されたけど、幸いにも弾は当たらなかった。ただし宍戸捜査官からは頭を小突かれた。
そんなわけでぼくらは〈NTプラザ〉の1階ホールで待機中。
出入り口付近に宍戸捜査官と竹山さんの片方が立ち、非常階段へ続く通路寄りで、ぼくは様子を窺っている。
「さきほどの銃声は?」ややあって流地さんが非常階段を下りてきた。
長友さんを診るのをやめてホールに駆けつけたってことは――いや、やめよう。いまは考えないことに。
「表にいる人が撃ってきたんです。直後に宍戸捜査官が出鱈目に応射しました」おかげでまだ耳の聞こえが悪い。
「応射ですか」復唱する流地さんの声は、怒りと落胆とが入りまじっていた。「さがっていなさい、安全な位置まで」ぼくの肩を軽く叩き、出入り口へ向けて歩きはじめる。
「なんだ、結局お前も下りてきたのか」
「学習しない人ですね。捜査官、あなたはそこに留まっていてください」
「あ? 待て。なにをするつもりだ」
「話をしてきます」歩調を緩めずに前進する流地さんは、宍戸捜査官の横を通り過ぎてホールドアップの姿勢をとった。
「おい、なにやってんだ!」
「表にいる人たちと話をするんですよ」
「馬鹿野郎ッ、撃たれるぞ!」襟首を掴んで強引に引っ張る宍戸捜査官。
流地さんは強く言い返す。「放せ。もうあなたのやりかたにはうんざりだ。外にいる者たちと話すことこそが最善の策だ」
「話してわかるような相手じゃねぇだろ!」
「やめてくださいッ」竹山さんの片方が間に入ろうとしたが、突然鳴り響いた銃声に腰を抜かしてその場に尻餅をついた。表からの狙撃だ。ホールの壁が削れて粉を散らした。
「わかったか! 死にたくなきゃ、大人しくしてろ!」
突き飛ばされた流地さんもまた尻餅をついた。交渉をしに表へでていくなんて狂気の沙汰だ。
悪いけどぼくも宍戸捜査官の意見に賛成する。少し前に聞こえた銃声は援軍によるものではなかったし、誰がなにを目的とした発砲だったのか判明していないのだから。
「だ、大丈夫ですか、ドクター」床を這って竹山さんの片方が近づく。
流地さんは胸を押さえて咳き込んでいた。
「医者なら医者らしく、怪我人の手当だけしてな。他人の領域にまでしゃしゃりでるんじゃねぇ」乱れた袖と襟を正したのちに、宍戸捜査官は薄い笑みを浮かべた。「それでもまだ連中と話しあいたいってんなら、手紙でも書くんだな。切手を貼り忘れるなよ」
愚弄された流地さんが、床に拳を叩きつけるようにして立ちあがる。怒りを爆発させたのかと思いきや、不思議とその顔は晴れ晴れとしていた。
「なるほど。手紙ですか」
「なにかいったか?」
「いいアイデアをいただきましたよ。手紙、ね」
「あァあ? ははは。本気でいってんのか」
「竹山くん、捜査官らと一緒にここで様子を見ていてくれ」
「は、はい」困惑した顔をみせるも、竹山さんの片方は頷いて返す。「あの、ドクターは」
「心配しなくていい。すぐに戻る」
状況的に避けたほうがいいワードを口にして微笑むと、流地さんは背を向けた。ぼくの前を通り過ぎて非常階段へ続く通路を進む。しかし中ほどで踵を返した。眉をひそめてこちらの様子を窺っている宍戸捜査官に注意を払いながら、ぼくにしか聞こえない小さな声で流地さんはいった。
「できるだけ離れて行動するようにしてください」宍戸捜査官のことを指して、いっているのだろうか。問い質すよりも早く、流地さんは言葉を継いだ。「君には訊きたいことがたくさんある」
白い歯が見えた。
流地さんはぼくの肩をぽんと叩いて再び歩きだす。
「トチ狂ったか」
宍戸捜査官が吐いた暴言が届く前に、流地さんは非常階段の扉の中へと姿を消した。




