白石 紬 15
顔を撫でる風の中に混じった、濃い火薬の臭いを嗅ぎ取った。誰かが怒鳴り、誰かが悲鳴をあげた。二発目の轟音が鳴り響くと、間髪をいれずに応射の音が轟いた。
建物の壁が粉塵を散らし、ガラスが砕け散り、空気を裂く音がぼくを取り囲む。
「やめろ! 撃つなッ! 銃を撃つ――」両手をあげて激しく振り、訴えるように表へと飛びだした長友さんの服が裂けた。直後、長友さんは千鳥足で後退して、受け身も取らず仰向けに倒れた。竹山兄弟の片方が慌てて駆け寄り、長友さんを抱えて建物の中へ戻る。その間、耳を劈くほどの銃声は休みなく轟いていた。
「さがれッ、さがれ! 陰に隠れろッ!」誰かの声。
わかっている。いわれなくてもわかっている。床を這う。立ちあがろうと足を踏ん張った靴の中の異物が気になって、気になって、異物ばかりが、足の裏のことがどうにも気になってしまって、「こい、こっちだ!」いつの間にかぼくは竹山兄弟の片方に腕を掴まれて、エレベーターホールの隅へと引っ張られていて、
「ちくしょうッ、車を」エンジン音を響かせたSUVに向けて宍戸捜査官が発砲する。嫌というほど聞かされた銃弾が、空気を裂く音が、いっそう大きく聞こえた。
「やめろ! 撃つな、撃つなッ!」
「さがれ!」
「撃つなっていってんだろうが」
言い争っているのは宍戸捜査官と荒江さんだ。二人は出入り口の近くに立っているので、いつ撃たれても不思議ではないというのに。
「荒江くん!」
「おい、呼んでるぞ」
「荒江くんッ!」
「お仲間が呼んでるぞ、お前のことだろうが」と宍戸捜査官。
「くそッ」荒江さんは振り返って、睨みつけるようにぼくを見た。名前を呼んだのはぼくではなくて、竹山兄弟の片方なんだけど。
「荒江くん、こっち、こっちだ! 長友さんを運ぶのを手伝ってくれ! 僕が腕を持つ。君は足を頼む!」
「あぁあ? なんだって?」耳が聞こえ辛いのか、みんな声が馬鹿でかい。
「流地さんのところまで運ぶんだよ。早く。急いで!」
ゼエゼエと乱れた息を吐く長友さんを、竹山兄弟の片方と、不服そうな顔で駆けつけた荒江さんが抱えて移動させる。通路奥の非常階段から二階に運び、医師である流地さんに診てもらうのだろう。
「ちくしょうッ! おい、青年! 俺の鞄を取ってこい」
「は、はい?」
次はぼくが呼ばれた。宍戸捜査官から指差されている。
「非常階段に置いている緑色の鞄だ。急げ、ほら、早く行け!」
どうしてぼくが、と思ったけれども、最悪の場から離れる口実ができたので反論せずに、大急ぎで床を這った。
明かりのもれている非常階段の扉を開ける。
鞄はすぐに見つかった。埃っぽくてベタベタするケーブルのうえに載せられた緑色のリュックサック。そばに置かれた小さな充電器が黄色いランプを灯していた。
リュックサックを手に取り、戻りたくない戦場へ顔を向ける。
「大丈夫ですか? 長友さんッ?」二階のほうから聞こえてくる流地さんの声。長友さんは問題なく運ばれたようだが――そういえば、この建物内にもまだ誰かが潜んでいるかもしれないんだった。
危険極まりないのは表だけじゃない。




