↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/30

第9話③ vsマンドラゴラ 二人だけの秘密

神様の力を宿した衣服を全て剥されたイズミには、もはや抵抗する気力は無く、無言でうつむいたままだ。

ここでイズミは、マンドラゴラの根が口元に近づいてくるのに気付く。


裸にされた恥辱のあまり、マンドラゴラが養分を吸い取るという真の目的を忘れていた。

だが、命がかかった今となっては、恥ずかしいなどと言っていられない状況である。

その生への執着心から、半開きになっていた口を慌てて真一文字に結ぶ。

口をしっかりと閉じたことで、根の侵攻は許さなかった。


ホッとしたのも束の間、マンドラゴラはもう一本根を伸ばす。

先ほどよりも細い根が、鼻の下に伸びてくると、そのまま上に方向転換をする。


(まさか…)

その根が鼻に少しずつ近づくにつれ、マンドラゴラの狙いが予想できた。

鼻の中からの侵入である。


(ひ、ひぃぃぃぃー)

イズミは心の中で悲鳴を上げ、侵入を阻止しようと体を精一杯のけぞらせる。

しかし、その必死の抵抗も空しく、根は鼻孔をくすぐるのだった。


(神様っ!助けてよっ!)

そう心の奥底から助けを求めたその時、何者かの駆け付ける足音が後方から聞こえてくる。

待ちに待った救世主の登場に、イズミは思わずその方向を見る。

その足音の主は、良く知っているメイド服の美少女だった。

いや正確には美少女ではなく、クラスメートの神崎チヒロが女装した姿だが。


(神崎君!)

チヒロの姿を見て、恐怖に支配されていたイズミの心に希望の灯がともる。




ユーリアは一直線にマンドラゴラへと向かう。

一方でマンドラゴラもイズミへの侵攻を止め、迎撃をするための根をユーリアに伸ばす。


根は顔面に向け伸びてくるも、首をすくめることで間一髪の所でかわす。

そして、マンドラゴラの幹で一番力を感じる場所を目がけて、光の剣を突き刺す。


手応えは十分あった。

すると、剣を刺した個所から波紋のように徐々にマンドラゴラは枯れていく。


「やった」

そう思ったのも束の間、上空から

「キャーーーーーッ」

という悲鳴が聞こえてくる。


慌てて声のする方向を見ると、女の子が上から落ちてくる。

とっさの判断でユーリアはお姫様抱っこをするようにキャッチする。


(白石さん!?)

ユーリアは同級生の白石イズミがなぜ空から降ってきたのか。

そもそも、なぜこの場にいるのか。


そして、イズミが裸であることに気付くと慌てて目を逸らす。

ここでピンクの服と靴、白いストッキング、そして金髪のウイッグが落ちていることに気付く。


(まさか白石さんがアリス?)

そんなことを考えていると、気が付いたイズミと目が合い、いきなり抱き着いた。


「ちょ…、ちょっと…」

想像だにしなかった事態に混乱して、ユーリアは言葉に詰まっていると、自身に異変が起こっていることに気付く。


「そんなに強く引っ張ると…」

ウイッグが外れそうになり、ユーリアは慌てた。

先ほどのマンドラゴラとの戦いで根が頭をかすめたことで、ウイッグの固定が弱まったのだ。


だが、ここで抱き着いたイズミのある様子が気になる。

(震えてる…?)

一つ間違えば死んでいたかもしれないから無理もない。

そこで、ユーリアも強く抱きしめることにした。




「大丈夫?」

イズミの震えが止まったのを見計らってユーリアは声をかける。

「うん」

その問いかけに、辛うじて聞こえるくらいの小さい声で答える。


二人が沈黙を破り始めたその時、

「到着が遅れてしまいましたあ。大丈夫でしたかあ?」

という緊張感の無い声が響き渡る。

もちろん声の主は神様である。


この声を聞いた瞬間、イズミの震えの種類が変わったことにユーリアは気付く。

それまでは小動物のようにフルフル恐怖に震えていたのに、今はワナワナと怒りに震えている。


「あなたねぇ!」

死の恐怖にあうという怒りの矛先を神様にぶつけようとすると、

「おや?お二人いい雰囲気ですね。私は邪魔なので先に神社へと戻っていますねえ」

と言って光とともに姿を消そうとする。


「待ちなさいっ!」

イズミは叫ぶも、神様の姿は徐々に光に包まれていく。

「あ、そうそう」

姿を消そうとする中で、神様はどうしても言っておきたいことがあり、イズミに声をかける。

「そこにある服は、ちゃーんと回収しておいてくださいね」


最初は神様の言っていることの意味が理解できなかった。

だが、すぐに神様が何を言っているのか理解し、

「キャーーーーーッ」

という悲鳴を上げ、両手で胸と股間を覆った。

イズミはマンドラゴラに服を脱がされ、裸だったのだ。



「あのう」

神様とイズミのやり取りが終わったのを見計らって、ユーリアが声をかける。

しかし、イズミはそれどころではなく、

「あっち向いててっ!」

と叫んだ。


たしかに、イズミにとって緊急事態である。

だが、それはユーリアにも同じことが起こっている。

「ウイッグ返して欲しいんだけど…」

そう懇願した。


イズミが神様に怒りをぶつけた拍子に、ウイッグを掴んで取ってしまったのだ。

ユーリアは顔を見られまいと両手で顔を覆っている。


それでもイズミは

「いいからっ」

と怒号を上げ、これにはユーリアもしぶしぶ従うしかなかった。




チヒロは気まずい雰囲気を感じていた。

ウィッグが外れたままメイド服姿で、イズミの着衣を待っていなければいけないからだ。


せめて話しかけられれば少しは気が紛れるが、相手は同級生である。

変身するきっかけや、依頼主があの神様なのか聞きたいことは山ほどあるが、

下手な質問は正体の暴露に繋がると思い、話しかけられなかった。


この状況を打破しようと、どう声をかけようかとチヒロが考えていると、

「ありがとう」

先に声をかけたのはイズミだった。


「また助けられちゃったね。神崎君に…」

(マズい!ばれてる)

最後の言葉を聞いた瞬間に、チヒロは凍り付いた。


「あの、こ、これは…」

チヒロは何とか弁明しようとするも、良い言い訳が思い浮かばない。


「大丈夫。知ってたから。安心して」

イズミから返ってきたのは意外な言葉だった。


「いつ?」

「サキュバスに襲われて倒れた時よ」

「なーんだ」

隠しておきたい自身の正体をイズミが知っていたことにチヒロの緊張は解けた。

そして、ヘナヘナとその場に崩れ落ちてしまった。


「それに、神崎君が嫌々その格好をさせられていることも知っているわ」

女装するに至ったいきさつもイズミが知っていることに、チヒロは安堵した。


「嫌なら女装だけでも断ればいいのに」

イズミ提案はもっともである。

だが、ヴァンパイアとの戦いの時に神様との約束でチヒロには拒否権は無い。


「それが、できないんだ」

「アイツに何か弱みでも握られているのね」

イズミは端的にではあるものの、その理由を当ててみせた。

まるでチヒロの事を誰かに聞いたかのように。


たしかにイズミの言っていることは事実である。

しかし肯定する訳にもいかず、チヒロは沈黙してしまった。


一方のイズミも、チヒロの様子から推測が当たったことを確信した。

そんなチヒロのためにイズミはある行動を決意する。

「今度、アイツが神崎君に悪魔退治を依頼してきたら、私にも連絡するのよ。いい?」

「え?それって…」

「そうね。神崎君にできるだけ協力するわ」

イズミの意外な申し出にチヒロは驚いた。

「でも、危ないよ…」

チヒロは悪魔退治の危険性を心配した。

「計算高いアイツだったら、そんなに危ない依頼はしてこないでしょ」

チヒロのその危惧をイズミは否定すると、

「そうだね」

とチヒロは納得した。


「それと、もう一つ神崎君には謝らないといけないといけないことがあるわ」

「何?」

イズミの謝罪に身に覚えのないチヒロは思わず問い返す。

「どこか出かけていたのでしょう?」

「うん。海外にいる両親の所に行っていたんだ」

「そう。それは悪いことをしたわね」

「帰って来て駅に神様がいたのにはビックリしたけど、無事で良かったよ」

チヒロのその飾らない言葉に、イズミは救われた気持ちになった。


「さ、行きましょ」

イズミはそう声をかけながら、手にしていたウイッグを再びチヒロの頭に置いた。

チヒロが振り向くと、そこには金髪ウイッグを含めてアリスへの着衣が完了したイズミの姿があった。

「うん」

チヒロもユーリアの姿へと戻り、共に植物園を後にしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。