第7話 vsサキュバス④ チカラへの興味
神様が去ったことで部屋に二人きりとなってしまい、イズミはベッドの方を見る。
ベッドで寝ているチヒロの姿に、変化があったことに気付く。
イズミによって脱がされたウイッグが付けられていたのだった。
「これはアイツが?」
これは、あの神様を名乗る少女の仕業と推測をした。
「でも、まあ良かったけど」
チヒロが元のメイド女装姿に戻ったことで、イズミはほっとした。
だが、それと同時に興味本位でウイッグを外してしまったことに対する罪悪感を再認識した。
「だけど」
次に全身を見回し、もう一つの変化に気付く。
「ブーツは脱がせたままで良かったのに」
苦労して脱がせた右足のブーツも履いていたのだった。
そして、再びブーツを脱がせにかかるのだった。
「ふう」
やっとの思いでイズミはブーツを再度脱がせて、一息ついた。
部屋には空調が効いているにも関わらず、その労力に一汗かいた。
しかも、今度は左右両足なので尚更である。
そして、イズミはベッドの傍に座り、寝ているチヒロの様子を伺う。
「案外、監視というのも大変ね」
イズミは率直にそう感じた。
この役目が片手間でできたら、どれだけ楽なことか。
しかし、今回はチヒロの生死に関わるので、一瞬たりとも気が抜けない。
当面のすべきことが終わってしまったイズミはチヒロを観察することにした。
いや、正確には観察しかすることがなかったという表現が正確である。
「それにしても、本当に神崎君とは信じられない」
じっくりとチヒロを見るが、どう見ても女性の丸みを帯びた体つきだった。
次にイズミの視線は一番近くにある右手に移る。
「指だって、こんなにキレイ…」
イズミは指の細さに見入ると、手を取って自分の手と合わせてみる。
「手、こんなに小さいんだ」
自分の手と比較して、長さも幅も小さいことに驚いた。
「そうだ」
そこでイズミはあることを思い付く。
「手袋外した方が、良いよね」
寝ているチヒロを少しでも楽にさせようと、二の腕まで覆っているグローブを脱がせる。
素肌が露出した指を見て、イズミはある疑問を抱く。
「さっきと指の形が違う?」
現れた指は普通の指で、先ほど見た美しさはなかった。
その疑問を解消するために、再び自分の掌とチヒロの掌を合わせてみる。
「やっぱり、手が大きくなってる」
グローブ着用時はイズミより小さかった手が、脱いだ今は長さも幅もイズミより大きい。
「これって…?」
目の前で起こった不可思議な現象について思案した。
「もしかして…」
そして一つの仮定に行き着く。
「あの手袋に何か秘密が…?」
そう思い、先ほど脱がしたグローブを手に取って、じっくりと見る。
「普通の手袋のようだけど…」
見ただけではわからないと思い、グローブをはめてみようと決意する。
だが、先ほどまで人が付けていた物を身に付けることに抵抗があった。
しばらく悩み続けたものの、結局は秘密を知りたいという欲求の方が勝った。
意を決して装着すると、自らの身に変化が起こったことを認識した。
「これが、神崎君の力の秘密?」
グローブを通じて、右手に力を感じたのだった。
力の秘密を知り、イズミは悪魔から助けられた時のことを回想する。
「たしか、あの時はこの手袋から光の剣が出てきて…」
チヒロが撃退した時のことを思い出し、右手から剣を出すイメージをする。
するとグローブに巻き付けられているアクセサリーから、あの光の剣が伸びてきた。
「きゃっ」
まさかの剣の出現にイズミは思わず驚いた。
だが、驚いたのは一瞬だけで、すぐにチヒロの力に興味を持った。
イズミの視界にはチヒロから脱がせたブーツが目に入る。
「あのブーツも…」
今度はブーツを履いてみようと考えが浮かぶ。
やはり先ほどまでチヒロが履いていたこと、そしてサイズが合うかという問題もあって戸惑った。
だが、その時間もわずかで、すぐに試してみた。
チヒロから脱がせた時と同様に、材質の問題もあって履くのにやや苦労した。
そうして左足を履き終えると、足が軽くなったような感覚がした。
「凄い…」
ある程度は想定通りのことが起こったものの、思わず感嘆の声を漏らす。
今度は右足も履いてみて、立ち上がってみる。
普通に立っている時と比べて、両足への重力が感じられなかった。
「やっぱり…」
チヒロの力の秘密、それはこの衣装だとイズミは確認した。
「この力があれば、私にも…」
イズミの中では、悪魔に襲われても逃げることさえできなかった情けなさが今も引っかかっている。
実際に力を身に付けたことで、この力ならあの情けない自分を払拭できるかもしれないと思った。
イズミは闘志を内に秘めながら、夜は更けていくのだった。
「う…ん」
ユーリアが目覚めると、そこは部屋の中だった。
詳細はわからないが、構造からして自室ではないことだけは確かだ。
「どうやら、起きたようね」
その声で慌てて起き上がる。
声の主は白石イズミだった。
「ここは?」
事態を把握できていないユーリアは質問をした。
「私の家よ。両親は旅行でいないから安心して」
ユーリアはグローブが無いことに気づいたらしく、両手を見つめていた。
「ごめんなさい。ブーツと手袋は脱がせたから」
「そうだ!あの時、僕は急に眩暈がして…」
ここで、ようやくユーリアは事態を把握した。
「びっくりしたわ。いきなり倒れるんだもの」
「ごめん。でも、ありがとう」
ユーリアは感謝の言葉を述べた。
「さて、私は徹夜だから今から寝るけど、どうする?」
と、イズミはこの後の予定を尋ねる。
「今、何時?」
「午前9時だけど…」
それを聞いてユーリアの表情が曇る。
すでに外は明るく、移動するには目立ちすぎる。
それを察知したイズミは
「良かったら、このままいてもいいけど…」
と提案した。
「え?いいの?」
「ええ。何だったらシャワー使ってもいいわ。それじゃ、おやすみ」
と言うと、イズミは眠りについた。
夕方になり、イズミは目が覚めた。
キッチンに行くと、そこに正義のヒーローがいた。
「あ、おはよう」
先に挨拶をしたのは彼だった。
「ん…、おはよう」
イズミもそれに応じて挨拶をすると、
「これは?」
イズミはテーブルにある食事について尋ねた。
「することも無いから、残り物でちょっと作ってみたんだ。余計なことしたかな?」
「いえ、せっかくだからいただくわ。ありがとう」
こうして夕食を取った後、二人で会話をして、街が闇に包まれるまでの時間を過ごした。
ただ、イズミはその会話に積極的ではなく、どこか言葉を選んでいるような雰囲気だった。
夜になり、ユーリアはイズミに別れを告げると神社へと向かった。
元の姿に戻るためである。
屋根から屋根へ空中を移動していると5階建てマンションの屋上に、巫女装束の人影が視野に入った。
神様である。
ユーリアは神様の待つ屋上に着地した。
「ずっと待たせちゃってゴメン」
と帰還が遅れたことを詫びる。
「いえいえ。白石さんがいたので、お任せしちゃいましたあ」
神様は昨晩の出来事を既に把握していた。
その表情はいつもと同じ屈託のない笑顔だった。
「それでは、先にいつもの場所で待っていますね」
そう言い残すと、ゆっくりと姿を消して神社へと戻った。
ユーリアも神社に着くと、そこで神崎チヒロの姿に戻り、神社を去った。
そのチヒロの後姿を見て、神様は
「さて、急がないといけませんねえ」
とつぶやいたのだった。




