第7話 vsサキュバス① 淫夢
チヒロが教室に入ると、まず最初に本を読んでいる白石イズミが目に入った。
というよりも今は彼女しか教室にいないので当然である。
他に誰も教室にいないのを不思議に思いつつも自席に着こうとしたその時、
「ねえ、神崎君」
と呼びかけられ、彼女の方を見た。
「神崎君って、私の事どう思っているのかしら?」
「『どう?』って言われても・・・。何で?」
いきなりの要領を得ない質問に困惑し、逆に質問をした。
「私、避けられている気がして・・・」
その答えはチヒロの心を直撃した。
なぜなら事実だからである。
彼女は正義のヒロインが、実は女装男子であることを知っている。
だから、チヒロはその人物であることを悟られまいと極力接触は避けてきた。
「そ、そんなことないよ」
チヒロの返事は明らかに上ずっていたのが自分でもわかった。
余計に怪しまれないかドキドキしていると、
「良かった」
チヒロにとっては意外な反応が返ってきた。
そして読んだいた本を閉じて立ち上がると、
「私、神崎君に興味があるんだけど」
と迫った。
「えーと、どういう意味かな?」
逆に迫られたチヒロは後退をしながら答えた。
「どういう意味も何もそのままよ」
なおもイズミは迫り、チヒロは後退を続ける。
「成績は学年トップ。それに、あの川本君を手なずけているし」
「アイツのことは悪く言わないで欲しいな。ああ見えてけっこう良いヤツだし」
そうこうしている内に、チヒロは背中に壁を感じ、追い込まれたことを悟った。
気が付くと、イズミが目を閉じた状態で顔を近づけている。
「ダ、ダメだよ。そんなこと」
何をしようとしているのか理解したチヒロは、両掌を顔の前に出して壁を作って抵抗する。
すると、イズミはその両手を掴み、チヒロの頭上で壁に付けて磔状態にする。
160cmのチヒロに対し、イズミは10cmほど高いため上から見下ろす格好となった。
「何でダメなの?私のこと嫌いなの?」
「いや、こういうのは好きとか嫌いの問題じゃなくて・・・」
当然ではあるがチヒロの方が力は上である。
強引に抵抗すれば、イズミのことを拒絶できるはずであるが、
「私は神崎君のこと好きよ」
というイズミの致命的な言葉に、チヒロは体および思考が停止してしまう。
そして、ついに為すがままに唇を許してしまったその時、
「うわあああああーっ」
とチヒロは絶叫し、起き上がった。
辺りを見回すと、自分が家のベッドにいることに気付いた。
ここで初めて
「何だ、夢か」
と自覚した。
だが、同級生とキスをする夢を見たことに恥ずかしさを感じるのだった。
「うー。だるい」
翌朝、チヒロは体の不調を感じていた。
昨晩の夢のせいで睡眠が足りないせいかとも最初は思っていた。
ただ、どちらかと言うと睡眠不足というよりも、疲労の蓄積という感覚の方に近い。
「風邪でも引いたかな」
そう思い、体温を測ってはみたが異常は無いため、そのまま登校することにした。
終始、頭がボーっとした状態で自席に着くと、
「・・よう。・・・きくん」
誰かが声をかけるが、チヒロは気付かない。
「おはよう。神崎君」
顔を覗き込むようにして姿を見せたことで、チヒロはようやく声の主が隣席のイズミであることがわかった。
「うわわわわわーっ」
完全に不意をつかれたチヒロは尻餅をついた。
「ウ~っす。で、何やってんだ?チヒロ」
ちょうど登校してきたコータローは、不思議な表情を浮かべて話しかける。
「どうしたの?大丈夫?」
一方のイズミは心配そうに声をかける。
そんなイズミの顔を見て、昨晩のいやらしい夢を思い出してしまった。
それが表情に表れたのか、イズミは
「顔真っ赤だけど、保健室行ったら?」
と提言した。
それに対し、チヒロは大丈夫だからと当初は断ろうとした。
だが、朝から体調が今一つなのも気になったので、
「うん。そうするよ」
と受け入れた。
「よーし。そんなら、オレが付き添ってやる」
今度はコータローがチヒロを気遣う。
ただし、その表情はどこか嬉しそうだ。
「いや、さすがに一人で行けるよ」
チヒロはこの提案は断ると、
「だけど…」
とコータローも食い下がる。
「神崎君もああ言っているし大丈夫よ。どうせ、理由を付けて授業をサボるつもりでしょ」
どうやらコータローの狙いは、イズミに看破されたようだ。
そんな二人のやり取りを後目に、チヒロはふらふらと保健室へと向かうのだった。




