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第6話 vsモロク③ 邂逅そして再会

昨晩は白石イズミにとって色々な事が起こり過ぎた。

通り魔に襲われ、騒ぎを聞き付けた警察に事情聴取された。

その疲れがまだ残っているのかベッドに横たわりながら、昨日の出来事を思い出していた。

いきなり自転車を真っ二つに切り裂いた通り魔。

そして、その通り魔の凶行を阻止しようと現れた正義の味方。

この二人の闘いは、現実の世界からはかけ離れていた。

そして通り魔が撃退されると消滅するという事象も、その感覚を増大させる

「昨日のは、いったい何だったの?」

まるで自分が映画の中の世界に迷い込んだかのような出来事が何だったのか、イズミはそれを突き止めたかった。

「真実を知るには、あの子にもう一度会うしかないけど…」

だが、その可能性は限りなくゼロに近い。

唯一の手がかりは正義の味方であるが、再会することは難しいと思った。

なぜなら、その正義の味方の姿はメイド美少女だが、実は女装男子という秘密を知ってしまったからだ。

「それにしても、私って情けない…」

その秘密を知ることになった原因である、自らの無力さをイズミは嘆いた。

通り魔と正義の味方、この二者の闘いは人間の力を超えたものだった。

だから太刀打ちはできないのは仕方がない。

問題なのは、助けに来てもらったにも関わらず、腰が抜けて逃げられなかったことだ。

その結果、彼はイズミを守りながら通り魔と戦うというハンデを負ってしまった。

1対1で闘えば、彼の秘密を知ってしまい、傷つけることもなかっただろう。

「あー、もう」

考えれば考えるほど出てくるのは自責の念ばかりで、イズミは思わず長い髪をくしゃくしゃにかき乱した。

「少し、気分を変えようかな」

そう思い、外出することにした。


「うーん。良い天気」

数日前まではコートを着ていても寒いくらいの気候だったが、今は陽射しが暖かく汗ばむくらいだ。

そう言えばニュースで来週には桜が開花するだろうと言っていたのを思い出した。

そんなこと考えながら歩いていると、ふと横に長い階段があるのに気付いた。

階段を見上げると鳥居が目に入る。

「あんなところに神社が?」

イズミはこんな近く、しかも目立つ場所に神社があることに驚いた。

普段なら無視して真っ直ぐ進むのだが、今日は歩きたい気分だったので階段を登ることにした。

長い階段を登り切ったその先には小さな本殿があるのみだった。

イズミは本殿の前にある賽銭箱のあたりに座った

再び、昨晩の出来事に考えを巡らせていると、

「あのう、何かお困りでしょうか?」

と話しかけられた。

声からして若い10代後半くらいの女性のようである。

「私でよければ相談に乗りますよ」

イズミが声のした方向を見ると、竹箒を持った巫女装束の少女が立っていた。

人に話せる事で、相手が信頼できる人物なら話しているかもしれない。

しかし、昨晩の件は人には話すべきではないし、しかも初対面の相手なので断ろうとしたが、

「話すことで気持ちが晴れるかもしれまんよ」

と言われ、

「実は、昨晩・・・」

と話し始めてしまった。

イズミ自身もなぜかはわからず、戸惑いを感じるのだった。


チヒロはベットに横たわっていた。

ふと横を見ると、脱ぎ捨てられたメイド服・ブーツ・ウイッグが目に入る。

モロクとの闘いを終えた後で、神様に会いに行かなかったことで、変身を解除せずにそのまま帰宅してしまった。

切り刻まれたユーリアの衣装を見て、昨晩の悪夢を思い出す。

衣装が二度切り裂かれたことは覚えているが、三度目については覚えていない。

反撃を開始するまでは、三度目は喰らっていないことは間違いない。

だとしたら白刃取りをした後で、モロクの手を放した時に衣装に触れたのかもしれない。

とにかく最悪なのは正体が完全ではないものの、男であるとばれてしまったことである。

しかも、同じ学校の生徒に。

あれから十数時間しか経過していないが、チヒロは食事を取ることも、十分に眠ることもできず憔悴していた。

正義のメイド少女の噂は広まりつつある。

それだけでも厄介なのに、実は女装男子という噂まで広まるとさらに厄介なことになる。

というのも遠藤ユカに正体がばれかけたからである。

一度は疑いの目を逸らすことができたものの、噂を聞いて再び疑いの目を向けることになるかもしれない。

そう思うとチヒロは不安でたまらなかった。

そんなことを考えていると、ピンポーンとチャイムの鳴る音がした。

玄関の様子を映し出すモニターを見ると、作業着に帽子を被った若い女性が立っている。

手には箱を持っているので宅配業者と思い、玄関に急いで向かった。

印鑑を準備してドアを開けると、チヒロは驚いた。

何と玄関に立っていたのは宅配業者の格好をした神様だったのだ。

「こんにちわ。どうしてもお知らせしたいことがありまして」

珍しく早口でまくしたてている。

神様が平静を失うほどの情報とは何かがチヒロは気になり、

「上がっていってよ」

と変身中の女声のまま神様に話しかけた。


神様は和室に案内され、正座して待っている。

待つこと数分、チヒロはお盆に煎餅とお茶を乗せて運んできた。

「どうぞ」

チヒロがお茶を差し出すと同時に、

「大変申し訳ありませんでした」

と神様は両手と額を畳につけた。

土下座である。

「ちょ、ちょっと」

初めて見る弱気な神様を見てチヒロはうろたえた。

「私としたことが、モロクの力を見誤ってしまいました」

「大丈夫だから。そんなことよりも知らせたいことって?」

チヒロはさっそく本題を切り出す。

「これです」

神様は持ってきた箱を開けると、中には鏡が入っていた。

チヒロは取り出してみたものの、自分の顔が映っている何の変哲も無い鏡だった。

「貸してください」

と神様が手を触れると、鏡像が切り替わった。

切り替わった鏡像をチヒロが凝視すると、見覚えのある人物が映っているのに気付く。

「白石さん?」

「はい。白石イズミさんが神社に来ました」

白石イズミに気を取られていたが、言われてみればいつもの神社で神様も映っている。

さらに音声が聞こえてくるので、チヒロは鏡を凝視して二人の会話を聞いた。


「実は、昨晩・・・」

とイズミは語り出す。

「通り魔に襲われて・・・」

「それは災難でしたねえ」

不幸な出来事に神様は同情したが、イズミは淡々と続けた。

「信じられないかもしれないけど、その時に正義のヒーローが現れて助けてくれたの」

「おお、それは良かったですねえ」

神様は一変して声を弾ませたが、

「だけど、彼はきちんとお礼を言う前に去ってしまって・・・」

逆にイズミの口調は沈んでいた。

「きっと、その彼は恥ずかしがり屋さんなんですよお」

神様の見当違いな返答に微妙な間が空いたものの、続けて

「あなたに協力したいので、その方の特徴を教えていただけませんか?」

「え?」

「見かけたら、あなたに教えてあげますよ」

神様の申し出にイズミは困惑した。

特徴と言ったらメイド服着用くらいしか挙げられない。

その人物は男性前提で話をしてしまっているので、きちんと話をするとややこしくなる。

この話題を避けたいイズミは

「ありがとう。でも大丈夫。これは私の問題だから」

と神様の申し出を断り、そして

「そろそろ行かなくちゃ」

と神社を去ることで話を打ち切った。


イズミが神社を後にしたところで、鏡面はチヒロの顔に切り替わった。

「彼女はしゃべらないと思いますよ。たぶん」

その声でチヒロは意識を鏡から神様に切り替えた。

たしかに神様とのやり取りを見る限りでは、昨日の出来事について話題を避けていたように見える。

チヒロは少し思案して、こう言った。

「ねえ、お願いがあるんだけど」


「やっぱり行かなくちゃ」

夜になり、イズミは昨晩のヒーローが気になり、外出することを決意した。

会える保証などどこにもないし、昨晩通り魔に襲われた恐怖もある。

だが、それ以上に行動せずにはいられないという衝動にかられた。

「どこ?」

目当ての人物を探すイズミだが、わずか数分でその気持ちはくじけそうになる。

昨晩の恐怖で時間が何倍も長く感じるからだ。

「もう帰ろうかな」

そう思った矢先のことである。

「こんな時間に女の子の一人歩きは感心しないな」

上方から聞こえたのは待ち望んでいた声で、反射的にその方角に顔を向ける。

そこには塀の上に立っている、あのヒーローの姿があった。

「あの・・・その・・・昨日は・・・」

イズミにとって、今のこの状態は待ちに待ったシチュエーションである。

しかし、半分あきらめていたこともあり、いざ会ってみると混乱して言葉が出てこない。

「昨日は、悪魔に襲われて災難だったね。でも、無事で良かったよ」

「悪魔?」

「そう。昨日は運よく撃退に間に合ったけど、会わないようにするのが一番だよ」

悪魔の存在自体は信じられないが、昨晩の現実離れした現象を体験してイズミは妙に納得した。

そして、彼が悪魔を狩る者ということも理解した。

「それじゃあ」

と言って、彼が立ち去ろうとすると、

「ちょっと待って」

イズミは慌てて呼び止める。

「えっと、できるだけ早く帰りたいんだけど」

「あっ!」

イズミはその言葉の意味を理解した。

彼は見た目は美少女なので、男性であることの考慮がすっかり漏れていた。

彼としては一刻も早く用件を済ませて、今の恥ずかしさから抜け出したいところだろう。

その気持ちを察してか、イズミは

「昨日はありがとう。誰にもしゃべらないから」

と早口でまくし立てた。

「良かった・・・」

秘密を守る約束がされたことに彼は安堵すると、

「じゃあ、気を付けて帰ってね」

と言って彼は去った。

伝えたいことを伝えられてイズミはある程度満足したが、聞きたいことがもう一つだけあった。

それは、彼がなぜ女装しているのかである。

おそらくは悪魔退治が関係しているのかもしれないが、その理由を知りたかった。

だが彼の事情を考えると、聞けなかったのは仕方が無いと納得せざるを得なかったのである。


ユーリアは屋根伝いに移動している途中で、屋根の上に座っている神様を見かけて立ち寄る。

すると神様はこう尋ねてきた。

「あれで良かったのですか?」

その表情はいつになく真剣だ。

その意味は秘密を知ってしまったイズミに対する対処である。

「う、うん」

ユーリアは自信無さげに返答した。

「ここは思い切って正体を告白してみてはいかがですか?彼女は信頼に足る人物だと思いますが…」

思い切った神様の提案に対し、

「やっぱり怖いよ…」

とユーリアはかぶりを振った。

「だから逆に僕と会わないよう、警告しておいたんだ…」

「そうですか」

やはり正体の告白に恐怖心を持っていることに、神様は理解を示した。

「でしたら、その姿で彼女には会わないよう気を付けてください」

「わ、わかったよ」

ユーリアは、その忠告の意味を理解していなかったが、とりあえず返事をした。

「では、戻りましょう」

と神様が後ろを振り向いて、その場を発つと、

「うん」

とユーリアはその後ろについていき、二人は夜の闇に消えていったのだった。


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