第6話 vsモロク② 死闘の果てに
「早く逃げて」
ユーリアは叫びながら襲われていた女子生徒に指示をしたが、
「あ、足が」
モロクの攻撃のせいか、動くことができないようだ。
ユーリアにとっては後ろにいる女子生徒を守りながら、
すなわち後ろに下がれない状態でモロクと闘わなければいけなくなってしまった。
モロクのナイフとユーリアの両腕は、膠着状態で五分と五分だった。
それにしびれを切らしたモロクは、左手でパーカーのポケットから新たなナイフを取り出す。
そのままナイフを斜めに振り下ろしてユーリアの右肩から袈裟斬りをしたものの、
皮膚はおろか衣服に傷ひとつ付かなかった。
「ちっ。どうやら特殊な服のようだな」
とモロクは舌打ちをすると、
「なら、これはどうかな」
と全身で唯一肌が露出している顔面に向けてナイフを突く。
「させるかあっ」
ユーリアは両腕に力を込めてモロクの右腕を押し返すと、右手でナイフを掴み、すんでの所で顔面を防御した。
続けて蹴りを放つも、モロクは難なく後退して距離を取る。
すると一連の攻防でモロクのフードは脱げ、全貌が明らかになる。
短い金髪に多くの耳ピアスという風貌にユーリアは思わず圧倒されそうになる。
「なるほど。こんな“なまくら”じゃ通用しねえってわけか。なら本気で行くぜ」
モロクは距離を詰めて、右手で横からの手刀打ちを放つ。
(これなら)
腹部を目がけて放たれたモロクの手刀打ちは大振りで、ユーリアにとってはそれほどの脅威でもなかった。
左手で受け止めながら、そのまま左胸に剣を刺す。
これがユーリアの作戦だったが、
(何かイヤな予感がする)
と根拠は無いものの直感が働いて、体を“く”の字に曲げて手刀をかわすことにした。
「つっ」
モロクの手刀はかすった程度だが、腹部に痛みを感じて思わず手を当てる。
「ち、血だ」
純白のグローブを見ると赤い染みが付いているが、染みの範囲からして致命傷ではない。
次に腹部を見ると、メイド服が横一文字に切り裂かれていた。
(これってヤバいヤツじゃ・・・)
ユーリアが身に纏っているのは神様の力が宿っているメイド服である。
それをいとも容易く切り裂いてしまったモロクの能力にユーリアはショックを受けた。
さらに、あの時モロクの攻撃をまともに受け止めたら、腕ごと持っていかれたかもしれないと思うとゾッとした。
「勘の良いヤツだ」
その言葉に、ユーリアは再び注意をモロクに向けた。
モロクはユーリアの血が付いた右手を一舐めして、
「だが、滑らかな良い肌だぜ。嬢ちゃん。それこそ切り刻み甲斐があるってものよ」
「そんなことはさせない」
「なら、これはどうかな」
モロクの第二撃は胸のあたりに左手で手刀を放つ。
(しめたっ)
モロクが左手で手刀を放ったことにより、左胸ががら空きになったのをユーリアは見逃さなかった。
ユーリアはすかさず左手から剣を伸ばし、モロクの左胸に突き刺すカウンターをお見舞いしようとする。
モロクに先手は取られたものの、剣の分だけリーチが長くなったことでユーリアの方が先に攻撃できそうだった。
「行けぇーっ!」
だが、今度はモロクが右手の手刀を体の前に放つ。
それによりユーリアの剣は無残にも切り落とされてしまった。
「あ、ああ」
ユーリアは渾身の攻撃が決まらなかったことに、言葉を失った。
慌てて左手を見るとグローブは破け、擦り剥いたように出血している拳が露出している。
モロクの攻撃は剣を折るだけではなく、グローブをも削り取ってしまった。
そして再び剣が伸びるよう念じたが、どんなに念じても剣が手の甲までしか伸びない。
「そんな・・・」
頼みの武器を失ったことに、絶望交じりの声を上げた。
さらに胸の辺りに痛みを感じて右手を当てると、鎖骨の下あたりで服が切り裂かれている感触があった。
視線を下方に送ると右手には新たな血の染みができ、服は「ニ」の字型に切り裂かれていた。
おまけにメイド服にかかっていたウイッグの一部も切り取られていたことにも気付いた。
「危ねえ。危ねえ。まさかこんな切り札を持っていたとはな」
さすがのモロクも焦ったのか、大きく息をついたもののすぐに落ち着きを取り戻し、
「だが、その様子だと万策尽きたみてーだな。じっくり切り刻んでやるぜ」
そう言いつつ放たれた第三撃が、服をかすめたことにユーリアは戦慄が走った。
「いいねえ。いいねえ。その顔。みるみるうちに恐怖に変わっていく。ゾクゾクするぜ」
愉悦の表情を浮かべながら、モロクは手刀を連発する。
ユーリアはそれに対し紙一重の所で避けてはいるという防戦一方状態だった。
ただし手刀は徐々に大振りで単調になっているため、考える時間はできた。
(何とかしなきゃ)
反撃の糸口を探っていると、あることに気付く。
それはメイド服を大きく切り裂いた最初の二回に比べて、今の攻撃は間合いが遠いのである。
(警戒しているのか?)
モロクの表情からして、その様子は無い。
(いや、遊んでやがる!)
モロクはおそらく、後はどうやって仕留めるかを考えていて、ユーリアの反撃はもう考えていないだろう。
(だとしたら、今しかない)
「そらあっ!」
掛け声とともにモロクは右手刀を放つ。
これをユーリアは目一杯体をのけぞらせてかわすと、そのまま左脚で蹴りを放つ。
右脚一本でバランスを保ちながらも、足の甲に鈍い衝撃を感じた。
「よしっ」
ユーリアは一矢報いたことにテンションが高まり、
「くそっ」
一方、モロクは一変して怒りに満ちた表情だった。
「このアマ。調子に乗りやがって。こうなったらジワジワ殺るのは止めて一気に行くぜ」
モロクは間合いを詰めて、左手を高く挙げるとユーリアの頭上目がけて振り下ろした。
この一撃は防ぐことができないのはもちろんだが、距離も近くて上体の動きでかわすこともできない。
どうすることもできない状況に固まってしまった。
凶刃が脳天をかち割ろうとしたその時、無意識に両腕が頭上に伸びてモロクの左手を受け止めた。
白刃取りである。
続けて右脚を鞭のようにしならせて放った蹴りを放つ。
その蹴りはモロクの側頭部に命中し、脳震盪により意識を失って倒れこんできた。
ユーリアは白刃取りで受け止めていたモロクの左手を放して、右手から剣を伸ばしてモロクの左胸を突き刺した。
その結果、モロクは音も無く消滅した。
「はあ、はあ」
ユーリアの呼吸の乱れは激闘を物語っていた。
「危なかった」
思わずその言葉を漏らしてしまうほど、モロクとの闘いは命懸けだった。
役目を終え、帰途につこうと後ろを振り向いた時、戦闘に集中していて忘れていたことを思い出す。
「あ、そうだった」
それは、モロクに襲われて身動きが取れなかった女子生徒である。
ユーリアは彼女を見て驚いた。
(ゲッ!白石さん)
襲われていたのは同じ学校に通う白石イズミだったのだ。
本当なら無視して走り去りたいところだったが、被害に遭ったイズミの無事を確認するまでは放っておけなかった。
「大丈夫?」
動揺を悟られまいと、平静を装って手を差し出す。
ユーリアはある意味モロクとの対決よりも緊張しているかもしれない。
「凄い・・・」
イズミは狐につままれたような顔でつぶやいた。
まだ現実世界に戻ってきていないようだった。
そんなイズミに対して、ユーリアは顔の前で右手を左右に振る。
ここでイズミは我に返り、
「は、はいっ」
という予想外の甲高い声に、ユーリアは思わず違和感を感じ、噴出しそうになった。
「ケガは無い?」
ユーリアの問いかけにイズミは無言でうなずいて、差し出された左手を掴もうとする。
昼間とは違うイズミの様子にユーリアは少々ドキリとしたその時、強い南風が吹き付けた。
その風は「キ」の字型に破けたユーリアの衣装がまくれ上がり胸があらわになる。
「え?おと・・・こ?」
眼前のメイド美少女の露出した胸は、イズミの想像と異なっていた。
ユーリアも胸に外気を感じたことで胸の露出を知り、慌ててまくれあがった服を戻す。
(見られたっ!)
知られたくない秘密が明らかになってしまい、頭の中が真っ白になってしまった。
そして、そのままその場から走り去ってしまった。
「あ、ちょっと待って」
イズミのその声はユーリアに届かなかった。
次回予告
不思議な体験をし、噂のメイド美少女の秘密を知ってしまった白石イズミ。
そんな彼女が思いがけず会ったのは…。
「第6話 vsモロク③ 邂逅そして再会」
お楽しみに




