第6話 vsモロク① 最凶の悪魔と同窓生
アスモデウス・マンモンとの連戦から3ヶ月以上が経った。
あれから神様の依頼での変身・悪魔退治は一度も無い。
それは本当に悪魔が出没していないのか、それともユーリアが噂になったことで、
神様が気を利かせて依頼をしてこなかったのかはチヒロにはわからない。
そのユーリアの噂も、年末年始のあわただしさもあって二週間ほどで消えてしまった。
まさに神様の言う“人の噂も七十五日”であるとチヒロは思った。
そして、今日は三学期の終業式。
帰りのホームルームが終わると、コータローは急いで教室を出る。
「あっ」
それに気付いたチヒロも慌ててコータローを追いかける。
コータローは他クラスの教室から出て来た一人の女子生徒を見かけると、
「しっらいっしさーん」
と声をかける。
「ねえ、ねえ。お花見行こうよー。お花見。」
声をかけられた女子生徒は軽くコータローの方を見た。
たしかに彼女、白石イズミは長い黒髪に切れ長の目をした美人なので、コータローが熱を上げるのもうなずける。
しかも最近は彼女にしか声をかけていないので、おそらく彼女が本命であろう。
だが、イズミは無視して歩を進める。
「ねえ、無視しないでよー」
と肩に手をかけようとしたその時、いきなり背中に重みを感じた。
「ダメだよ。コータロー」
コータローの背中に飛び乗ったチヒロが話しかけると同時に、両腕を閉じて首を絞めた。
もちろん首を絞めたのは数秒程度で、すぐに
「殺す気かーっ!」
チヒロの首絞め行為に対して、コータローは怒った。
とは言っても怒り方はどこか本気でなく、演技がかっていた。
「彼女拒否してるじゃん。ほとんどストーカーじゃないか」
とチヒロが注意したところで、
「あーっ!白石さん帰っちゃった」
とコータローは絶叫した。
チヒロとしては、ほんの数秒だけコータローの注意をこちらに向ければ良く、そのための首絞めである。
だがコータローは納得いかないようで、
「どうしてくれるんだよ。責任取って今日は俺と付き合えよ」
「はいはい。わかったわかった」
彼の恋路を邪魔したのだから、それも仕方が無いとチヒロは思った。
結局、チヒロはコータローに六時間もの長い時間付き合わされることになった。
コータローも当初は白石イズミに対する未練があったものの、時間の経過とともに無くなったようにうかがえた。
(これでコータローも彼女のこと諦めてくれるといいけど)
コータローと分かれた後でチヒロがそんなことを考えている時に、ポケットの中の携帯が震えているのを感じた。
携帯の画面には“非通知設定”と表示されている。
実に数ヶ月ぶりの神様からの依頼である。
チヒロはそのまま神社へと向かい、最後の長い階段を登り終えたその時、いきなり光に包まれた。
「な、何?」
いきなりの変身に事態が飲み込めないユーリアは、眼前の神様に理由を問いただそうとしたが、
「ちょ、ちょっと。この強力な気配は何?」
変身により感じる悪魔の気配の大きさに戸惑っていた。
「モロクです。別の場所で既に数人を殺傷している凶暴な悪魔です」
「これヤバいんじゃない?」
ユーリアは悪魔のいる場所から遠く離れたこの場所で、気配を感じることにモロクの凶悪さを感じた。
「大丈夫です」
と神様は言うと同時にいきなりユーリアに向かって走り始めた。
良く見ると右手にはナイフが握られている。
そのナイフを両手で握りなおすと、体の前方に突き出してユーリアを刺そうとしていた。
あまりに突然のこと、さらに速さに対応できずに呆然としていると、あっという間に懐に入られてしまった。
「うっ」
反応できず、刺される覚悟をしていたものの、
「あれ?痛くない」
心で準備していた痛みを感じることができず拍子抜けした。
下に顔を向けると、ユーリアの衣装は刃の侵入を全くといっていいほど受け付けなかった。
「私の力を宿したその衣装なら刃物を通しません」
神様は凛とした口調だったが、すぐに
「あ、疑っているかもしれませんが、これ本当に刃物ですよ」
と普段のおっとりとした口調に戻り、スナップを利かせて軽くナイフを横に投げた。
神様の動作と正反対に、ナイフは矢のような速さで木に刺さった。
しかも数センチめり込んでいる。
ユーリアが悪魔よりも恐ろしい物を目の当たりにして、呆気に取られていると
「さあ。急ぎましょう」
と神様に呼びかけられて、
「は、はい」
と訳もわからずに返事をして、モロクの元に急いで向かうのだった。
「すっかり遅くなったわ」
白石イズミは放課後に図書館で勉強するのが日課だが、
今日は勉強がはかどって閉館時間までいたのである。
自転車での図書館から自宅への帰路で、一人の通行人が右前方に見える。
その人物はパーカーのフードを深く被っていて顔はわからないが、体格からして男性だと判断した。
イズミはやや不審に思ったものの特に気にしないで、すれ違おうとした。
その時、男が右手をわずかに動かした後で異変が起こった。
「きゃっ!」
乗っていた自転車がいきなり安定を失い、イズミは転倒した。
何が起こったのか周りを見ると、はるか前方に自転車の前半分、足元に後半分がある。
自転車が真っ二つに切断されたのだ。
イズミは歩み寄る人影を感じて見上げると、男が右手を挙げて立っていた。
この距離でようやく男の顔、鼻と口にピアスがあることもわかった。
そして右手の袖からはタトゥーがのぞき、掌には鋭利な物体すなわちナイフが握られていた。
イズミはここで自分が通り魔の標的になってしまったことに気付き、
「そ、そんな。まさか・・・」
と絶句した。
たまにニュースで通り魔犯罪を聞くが、それは遠い世界の話のようで巻き込まれる可能性については想像できなかった。
だが、こうして今通り魔犯罪に遭ってしまった自分の運命を呪った。
「死ね」
男がニヤリと笑いながら右手を振り下ろす。
その瞬間、イズミは今までの様々な思い出がフラッシュバックする。
これが俗に言う走馬灯現象だと理解した。
(私、死ぬの?)
死を覚悟して目を瞑ったその時、
「危ない」
女性の声とともに目を開けると、メイド服姿の少女が交差した両腕でナイフを受け止めていた。
去年の年末頃、たしかに正義のメイド美少女が現れたと噂になった。
イズミはその噂が一種の都市伝説の類のようなもので、くだらないと思っていた。
だが現にこうして噂のメイド美少女が助けに来たことに信じられなかった。




