第4話 vsアスモデウス 見えない悪魔
当初の構想から見直しをしました。
そのため前話の後書きに記載した次回予告のタイトルを変更しました。
最近、この辺に痴漢が出没しているとチヒロの学校では話題になっている。
実際、被害に遭った生徒の実名が連日のように耳に入ってきていて、
ついに帰りのホームルーム時には学校による注意喚起があった。
ホームルーム終了後に教室を出たチヒロは一連の事件について、不自然さを感じていた。
それは、これだけ被害者がいるにも関わらず犯人の情報が全く無いことである。
「これは、もしかして」
と、ある推測をしていると携帯が震えているのに気付いた。
携帯を取り出して画面を見ると“非通知設定”と表示されていた。
チヒロは学校から家には立ち寄らず、神社に直接向かった。
今が一番昼の短い時期だけあって、到着した頃には既に薄暗くなっていた。
長い階段を登りきると、本殿前に立っていた神様が
「こんばんは」
といつもと変わらない調子で挨拶をしたのに対し、
「それで、今日退治する悪魔は何ですか?」
とチヒロは本題を切り出した。
「おお、さすがチヒロ君。話が早いですねえ」
神様は既に用件を把握しているチヒロの優秀さを絶賛すると、
「こんな所で立ち話も寒いでしょうから中へどうぞ」
と本殿の中に案内した。
「最近、痴漢が多発しているのは、ご存知ですか?」
「うん。それって、もしかして」
チヒロはおそるおそる聞いてみた。
「はい。実はアスモデウスという悪魔の仕業なので、退治してほしいのですよ」
という神様の依頼に対し、チヒロは
「わかりました」
と渋々了承した。
このチヒロの回答には神様も意外だったようで、
「あれ?ずいぶんすんなりと引き受けてくれましたね。もっと嫌がると思っていたのに」
「どうせ拒否権はないんですし、僕がやるしかないんでしょ」
チヒロは悟りを開いたかのように、覚悟を決めていた。
「それで、どこにそいつは潜んでいるの?」
「え?何を言っているんですか?」
神様はチヒロの質問が意外であるかのような表情をした。
「相手は痴漢なんですから色々な所をぶらついているんですよ?
どこにいるかはわからないから、変身して街を歩いておびき寄せてください」
「ええーーーーーっ!」
チヒロにとっては羞恥プレイそのものである神様の依頼に、声を出して驚かずにはいられなかった。
「じゃ、行きますよ」
という神様の掛け声とともに光に包まれたチヒロは、目の前にいるのが神様ではなく悪魔に思えてきたのだった。
「はあ」
ユーリアは目立たないよう屋根や塀を移動してアスモデウスを探しながら、深いため息をついた。
前回のメフィストとの闘いでは変身して学校内を移動していたが、今回はついに女装外出である。
正義のためとはいえ、どんどん過激な行動をさせられていくことに対して憂鬱になっていた。
結局、悪魔の反応を感じるまで数十分かかった。
その反応に従って公園の中に移動して、見えたのは異様な光景だった。
悪魔の反応はあるが、目の前には女性一人が何かに逆らっている様子しかなかった。
「とりあえず」
ユーリアは駆け出すと、悪魔の反応に向かって左手の剣を突き刺そうとした。
するとユーリアはその反応が左に移動して剣をかわしたことがわかり、さらには左手を掴まれた感触がした。
(もしかして今回の悪魔は透明なのか?)
ひとまずは襲われていた女性が逃げられる隙は作れて、自力で脱出した。
それを見たユーリアは
「早く逃げて」
と叫ぶと、女性は一目散に逃げ出した。
ひとまずは救出成功である。
「くっそー。せっかくのお楽しみを邪魔しやがって」
聞こえてきたのは男性の低い声だった。
その男は獲物を逃がした悔しさから怒りをあらわにしていた。
「でも、まっ良いか。こっちのメイドの方がかわいいや。奉仕してもらおうかなー」
と標的をユーリアに変更したことを宣言して、向かってきた。
ユーリアは反応に対してタイミングを計っていたが、不意に左胸を触られてしまい
「キャッ」
と思わず軽い悲鳴を上げ、両手を交差させて胸を押さえた。
(間合いがつかめない)
ユーリアは神様の力が宿ったウイッグにより、姿の見えない悪魔でもその反応からおよその位置は把握できる。
しかし、伸ばしてくる腕は見えないため攻撃を防ぐことができない。
この悪魔の能力は、今まで闘ったヴァンパイアやメフィストよりも手強いと感じ、
間違いなく悪魔アスモデウスであると認識した。
「エヘヘ。Bカップってとこかなー?」
アスモデウスの下品な言葉にユーリアは屈辱を感じて感情が昂りかけた瞬間、
それを見逃さずにアスモデウスが再度攻撃を仕掛けた。
ユーリアも慌てて剣を伸ばすが、アスモデウスはあっさりとかわした。
姿を消すというアスモデウスの固有能力だけでなく、
人間の身体能力を劇的に向上させるという悪魔が本来持つ能力がユーリアを追い詰める。
アスモデウスは背後を取ると左手で胸を、左手でお尻を撫で始めた。
「ひ、ひぃーっ!触るなっ!気持ち悪いっ!」
男性から執拗に身体を触られる気持ち悪さからユーリアは叫んだ。
当初は不快感が支配していたが、時間が経つにつれて徐々に怒りへと変わる。
そしてアスモデウスの右手が前方に移動した時、ユーリアの怒りは頂点に達した。
「いい加減にしろよ!このクソ野ろ・・・」
と言いながら左肘を顔の高さまで挙げて、そのまま体を左にひねって肘打ちをしようとした。
だが、渾身の肘打ちは空振りに終わり、その勢いからユーリアは体が180度回転してしまう。
今度はユーリアの左脚が持ち上げられるのを感じ、懸命に右脚一本でバランスを取る。
脚を取ったアスモデウスはさらに上方に持ち上げ、ユーリアは二、三歩後退して尻餅をついてしまった。
「かわいい顔してクソとか、けっこう毒舌だよねー」
とここまではアスモデウスは小馬鹿にした口調だったが、一転して
「でも、そんな口たたけないようにしてやる」
とアスモデウスが冷たく言い放つ。
すると、ユーリアは腰を縛っているエプロンの紐をほどかれてしまい、スカートの中に何かが侵入するのを感じた。
「な、何をっ」
何をされているかわからない恐怖から思わず問いかけてしまった。
「決まっているじゃないか。おっぱいをもんであげるんだよ」
(冗談じゃない)
秘密を守るためにユーリアは両手で必死にガードする。
だが、アスモデウスの見えない腕はそれをあざ笑うかのようにかいくぐる。
「止めろーっ!止めてくれーっ!」
ユーリアの必死の懇願もむなしく、アスモデウスの腕は徐々に胸に近づいてくるにつれ、
「もう、止め・・・て」
とユーリアの声も徐々に小さくなっていく。
正体が暴露される恐怖のあまり、
「う・・・うう・・・」
と声を上げることができなくなってしまった。
ついにはユーリアの願いもむなしくアスモデウスの腕が胸に到達してしまう。
(終わった・・・)
その瞬間、ユーリアの頭の中は真っ白になった。
一方のアスモデウスは手を握ったり開いたりして揉んでみたり、左右に振ってみたりした後で異変に気付き、
「うわあああああ」
という絶叫とともに今まで見えなかったアスモデウスが姿を現した。
その姿はメガネをかけた小太りの20歳代後半の男だった。
アスモデウスはユーリアから離れると、そのまま腰を抜かしてしまった。
逆にユーリアはゆっくりと立ち上がって、アスモデウスを見下ろした。
形勢逆転である。
秘密が暴かれたユーリアは逆に吹っ切れた気持ちになり、殺意にも似た眼差しでアスモデウスを見下ろしていた。
「知られたからには生かしておけない」
ユーリアの尋常ではない迫力に、アスモデウスは
「来るなっ!来るんじゃねえ!この変態カマ野郎!」
と尻餅をついた状態で後ずさりをした。
「お前は勘違いをしている」
ユーリアは広がりかけた間合いをジリジリ詰める。
「僕は変態でもなければオカマでもない」
と言って左腕の剣でアスモデウスの左胸を貫通させて消滅させた。
「ふう」
アスモデウスとの激闘を終え、ユーリアはそれまでの緊張が解けて一息ついた。
落ち着きを取り戻して、アスモデウスにほどかれたエプロンの紐を縛り直すと、
おぞましかった闘いが脳裏によみがえる。
アスモデウスに体をあちこち撫で回されたことを思い出して、吐き気を催した。
だが、その闘いを振り返ると一つの疑問が湧いた。
それは、アスモデウスの変化である。
今まで姿が見えなかったのに、ユーリアが男とわかった途端に姿を現してしまったことを不思議に思った。
「もしかしたら・・・」
ここでユーリアにある仮説が浮かんだ。
「女性の前では透明になれて、男性の前だと透明になれないということか?」
とは言っても真偽は今の時点ではわからないので、アスモデウスの能力について考えるのを止めにした。
「でも、これって」
ここで、ユーリアは過去のある闘いを思い出した。
「ヴァンパイアの時と同じ?」
神様は以前ヴァンパイアと闘った後で“どう転んでも勝つ”と言った趣旨の発言をしていたが、
その時と同じように思えてきたのだった。
「本当に恐ろしいことを考える人だよ」
と神様の過激な考えが再び実行されたかもしれないことに一抹の不安を抱きつつ、
ユーリアは公園を後にするのだった。




