第3話 vsメフィスト③ 傷痕
遠藤ユカは目を覚ました。
メイド服の少女に左胸を剣で貫かれて気を失ったが、
その前にみなぎっていた力が今は感じられないことから、あの少女に敗北したのだと悟った。
「大丈夫ですか?」
とユーリアが右手を差し出す。
ユカも手を伸ばしてその右手を掴もうとした時、今の彼女は隙だらけであることに気付いた。
今なら正体暴きのチャンスかもしれない。
その一方で優しく声をかけてもらっている今、そんなことをするのは倫理的にどうかと葛藤していた。
そんなことを考えながら手を掴もうとしたその時、ユカは手を方向転換させ、髪を掴んだ。
「キャッ!?」
予想外の行動にユーリアは驚き、ユカは髪を思い切り引っ張った。
「いったーい!」
だがユカがウイッグだと思ったユーリアの髪は外れなかった
「何するのよ!」
とユーリアが怒ると、
「あれ?そんな・・・」
ユカは自分の予測が外れて戸惑って返答に困った。
そして一つのことに気付いた。
「あなた、神崎君じゃなくて、替え玉の方でしょ」
「替え玉とか何を言っているの?あなたの言っていることが間違ってるって今証明するから」
ユカの推理に対し、ユーリアは自信満々に否定した。そして、
「入ってきてください」
というユーリアの声とともに扉が開いて
「あのー。何の御用でしょうか」
と言う声の主はチヒロだった。
「あなたの言っている神崎君って、この人でしょ?
今この場に彼がいるということは、私とは別人。わかった?」
ユーリアはこんあ当たり前のことを言うまでもないというような口調だった。
「別人にしては、あなた達二人が会う確率が高すぎるわ。
そう、二人で示し合わせたみたい」
とユカが反論すると、
「困った人ね。そこまで言うからには何か証拠でもあるの?」
ユーリアはため息をついた。
「証拠ねえ。じゃあ神崎君の首の傷はどう説明するのかしら
間違いなくその格好で吸血鬼と闘った時に付いたものなんだけど」
とユカは指摘してチヒロの首を見た時に、あることに気付いた。
一週間前には学生服の詰襟からのぞいていた首の傷が見当たらないのである。
「う、うそ」
チヒロの元に駆け寄り、詰襟の中を覗き込む。
「な、ない」
改めて確認したが、ユカの首にはまだ残っている傷がチヒロの首からはきれいさっぱりに消えていた。
「だから言ったじゃないですか。あの時の傷は虫に刺された傷だって」
チヒロはやや大げさに言うと、続けてユーリアが
「ねえ。首の傷って、これのこと?」
と首を覆っている衣装をめくる。
そこには確かに吸血鬼に噛まれた傷跡があった。
「あ・・・あ・・・、そんな・・・」
最大にして唯一の証拠を失ったことで、ユカはがっくりと膝をついた。
「もう、これ以上話す必要はないようね」
ユーリアはそう言うと化学室を後にし、続けてチヒロも後に追うように部屋を出た。
「それにしても、うまくいきましたね」
化学室から去った後、廊下を歩きながらチヒロはユーリアに話しかける。
後夜祭はまだ続いているため、校内に人はいない。
「ふう」
とユーリアは一息をついて、前と同じように衣装の首の中に手を入れて顔の皮をめくり上げる。
その皮の下からは神様の顔が現れた。
ここで神様は変装を解いたはずだが、髪の毛がユーリアの栗色のままであることにチヒロは気付いて、
「あれ?ウイッグは外さないんですか?」
と尋ねた。
「今回はかつらを外されると大変なので、私の髪に編み込んでおきました」
「へえ。この首の傷を消してもらったのもそうだけど、そこまでして僕の秘密を守ってもらって何だか申し訳ないような」
とチヒロが詰襟の下の首を見せながら、神様に謝意を述べた。
「別にチヒロ君の秘密を守るためにやったわけではないですよお。
彼女がまた悪魔と契約しないようにするためですよお」
一瞬、神様の言葉にチヒロは固まった。
「ん?どうしましたか。何か驚いた顔をしていますが」
チヒロの異変に気付いた神様に対して、チヒロは「ツンデレ」という言葉が喉まで出かかった。
だが、この神様については何を考えているのか、その真意はわからない。だから
「いや、何でもないよ」
と返事をしただけで深く追求はしなかった。
その時、外ではドーンという大きな音がした。
窓の方を見ると、後夜祭のフィナーレを飾る花火が上がっている。
「わあ、見て、見て、チヒロ君。きれいですよお」
はしゃぐ神様とは対照的に、チヒロはどこか落ち着いた気持ちで花火を眺めていた。
それは正体を守りつつも悪魔を倒してユカを救うという任務をやり遂げたという達成感なのかもしれない。
こうしてチヒロにとっては一生忘れることのできない文化祭は幕を閉じたのだった。
次回予告
最近出没する痴漢退治の依頼を受けたユーリア。
痴漢に襲われている女性を救出するも、逆に痴漢の標的にされてしまう。
「第4話 vsアスモデウス 狩るか、狩られるか」
お楽しみに




