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ヨルノオシゴト

一也にしか退魔できない、と言っても一也がテンスイを手にかけようなんて考えるわけもないので、実際にできるかどうかはわからないのだが。



「テン、それじゃまたあとでな」


言って一也は寝室へと向かう。日付が変わってからの退魔業のために仮眠をとるのだ。


あるじ、安き夢を」


寝室の扉が閉じるまで一也の後姿を見つめていたテンスイは、忙しい一也が少しでも多く体を休められることを願うのであった。




およそ3時間後の深夜1時、一也とテンスイはマンションの屋上にいた。



地上から50メートル以上の高さにあるここは静かだ。時折吹く強い風の音の他には何も聞こえない。濃い闇の中、遠くに目を移せば駅周辺の繁華街の灯りがばらまかれた宝石のように煌めいているのが見えた。



一也は屋上に敷かれた芝生の上に胡座をかくと、目を瞑る。外を向いていた意識を自分の体の内側へと向け直し、じっくりと視る。


暗く、古い森をかき分けながら進むように、体内の奥深くまで意識を潜らせると、ふいに巨大な泉が現れた。泉の真上から水面に向かって少しずつ圧力をかける。すると今までガラスのように平らだった水面にさざ波が立ち始め、ゆらゆらと揺れる。さらに圧力を増すと、さざ波は大きな波となり、泉の縁からは水がこぼれ落ちた。



こぼれ落ちる水の筋ををすくい取り、流れを操ると、体の中心から外側へと押し流していく。みぞおちの下を出発点にに心臓、首、脳へと水は駆け上り、そして手足の付け根から末端へと滑り降りる。手先つま先まで行き着いた流れはそこで折り返して体の中心へと集まり、太い川となって再び泉へと注がれる。ドクドクと泉の縁から溢れ、体中を循環して戻ってくる水の流れが安定した頃には、泉は水面から淡い青白い光を発していた。



一也が今行っているのは、霊気循環。鳩尾の下にある霊気のプールから、霊気を流れにして引き出し、体の各所へと流して漲らせる作業だ。



エンジンの試運転をするように、始め低出力で回していた循環を徐々に速めていく。流れの筋も太くし、霊気の量を増やす。やがて泉の縁から滝のように霊気がこぼれ、奔流が体中をめぐるようになるころには、一也の体全体が青白く発光していた。


「美しい…」


霊気循環は一也の毎日のルーティンワークであり、見慣れたはずのその光景にテンスイは思わずため息をついていた。人一倍霊気の操作の巧みな一也は、淀みのない循環の流れを作り出せる。つかえがないためその流れは非常に高速で、霊気はどんどんと活性化されていく。並みの退魔師では蛍ほどの光も起こらないのが通常であるなか、一也は見るものが圧倒され、息を飲むほどの強く美しい光を纏っていた。


「テン、準備できたぞ」


しばらくののち、霊気循環を終え、愛刀を左手に持った一也はテンスイを呼んだ。



「では行くか主」


「ああ、今夜は南から回ろう」


「あい分かった」



二人は屋上のへりに立つと、夜の街――仕事場へと飛び降りた。





屋上から飛び降りたふたりは、すぐにテンスイが魔力でつくりだした足場に着地し、そのまま弾かれたように前方へと跳躍した。数百メートル跳んだ二人は再び魔力の足場に着地し、沈み込んだ反動を利用してさらに加速しながら前方へと跳ぶ。これを繰り返しながら移動し、1分40秒後にはつきしまの街の端に到着していた。



「どうだ?テン」


「いまのところ何も気配はないな」


「今日はできれば何も出てほしくないんだけどね」


「そう思い通りにも行くまい」


「ですよねぇ」


上空の足場の上で二人は街の様子を見る。こうして魔物の一番出現しやすい深夜2時の前後の時間を毎晩巡回し、魔物が出たと同時に急行し、被害の出る前に退魔するのだ。ちなみに探査はテンスイの役目だ。一也が探査をすると一番近い位置にいるテンスイという存在がとてつもなく大きな反応を示してしまうので、できないのだ。



「10分待機してなにもなければ西のほうにまわろう」


「あい分かった」


そういうと一也は腰を下ろし、テンスイは伏せた。二人とも空中である。一也は特室から支給されている隠遁用の呪具を使用しているため、発見されることはほぼない。テンスイは魔物なので、一般人には姿は見えない。見えたらその人には特室からのスカウトが行くだろう。



「主っ」


「おっ。来た?」


「ああ、複数だな」


「距離は?」


「5キロ弱」


「遠いなー。ランクはわかる?」


「もう少し近づいてからだな」


「おーけー。分かり次第教えて。1分半で行くぞ!」


ニュートラルにしていた霊気循環の回転数を跳ね上げながら、一也は足場から飛び降りた。

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