表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福の道標~悪魔は聖女の妹に「聖女よ、ふさわしいものを手に入れろ」と囁いた。ピカッと光らないタイプの聖女様が起こす奇跡の物語~  作者: 赤林檎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/15

9.断罪の時

 わたくしは馬から飛び降りると、お父様とお母様のところに走って行った。


「ニーナ嬢!」


 ヴィクトル騎士団長が呼びかけてきたけれど、わたくしは返事をしなかった。今、それどころじゃないのよ。


「お母様、わたくしを罰しようとして、こんなことをなさったのね!」


「ニーナ、なんでわたくしの言うことが聞けないの!」


 お母様がわたくしの頬を打った。けれど、そんなことくらいでは、わたくしは怯まなかった。聖女様を舐めないで!


「お母様、もうやめて! わたくしはお母様ではないし、お姉様だってお祖母様ではないわ! お母様をいじめていたのは、お姉様ではないでしょう!」


「ニーナ……」


 お姉様がわたくしを呼んだ。震える声だった。


「お母様、わたくしはヴィクトル騎士団長が好きなの! とってもやさしくて、たくましくて、お顔も素敵なんだもの! レオニード殿下なんて、正直言うと嫌いなのよ! ヴィクトル騎士団長と婚約して、結婚したいの!」


「ニーナは王妃になるのよ! この国で一番偉い女になるの!」


「わたくし、たいして頭も良くないし、性格ものんきだから、王妃なんて向いてないわ! 筆頭公爵夫人だって、かなりがんばらないと……」


 よく考えてみたら、筆頭公爵夫人なんて、貴族の女性の中では最上位じゃないの……。貴婦人のまとめ役をやったりするのよ……。そんなの、わたくしにできるのかしら……。


「イネッサが王妃で、ニーナはただの筆頭公爵夫人!? そんなのダメよ! 許せない!」


 ああ、お母様の心の中では、やっぱり代理戦争が起きているんだわ……。お母様は、お姉様のことも、わたくしのことも、少しも考えていないのよ……。


「お母様は、なにか心の病気なんだと思うの。お祖母様にいじめられて、おかしくなってしまったのよ。病院に行って、治療してもらいましょう」


「ニーナ、お母様に向かって、なにを言うんだ。お母様は病気などではない。これほどに元気ではないか!」


 お父様の言う『これほどに元気』というのは、こうして怒鳴り散らしたり、わたくしのドレスを庭園で燃やしていること? これを元気だと言えるの!?


 お父様は『事なかれ主義』というものなのだと思っていたけれど、お父様もだいぶどうかしているわ!


「お父様も、お母様も、おかしいわ! 二人とも病院に行くのよ!」


「うるさい! うるさい! うるさい!」


 お母様が突然、すごい大声を出した。


「お母様!?」


「クソババアみたいなこと言うなッ!」


 お母様がわたくしの身体を突き飛ばした。


 わたくしは真っ赤に燃えているドレスの中に、背中から倒れ込んだ。


 すごく熱いわ! 髪の毛が燃える嫌な臭いがする。ドレスも袖口やレースから燃え上がっていく。


 ――わたくし、ずっと悪い子だった……。


 お母様と一緒になって、お姉様をいじめていた。


 わがままだって、いっぱい言ってしまったわ。


 お母様の言いなりになって、レオニード殿下とお姉様の邪魔をしてきた。


 浮かんでくるのは、聖女様らしくない思い出ばかり……。


 わたくしったら、聖女様としてもダメな子ね……。


「――ニーナッ!」


 お姉様の叫び声と同時に、辺り一面がすごく明るい光に包まれた。


 熱さも痛みも、すうっと消えていった。


「ニーナ嬢ッ!」


 ヴィクトル騎士団長が、わたくしをドレスの中から助け起こしてくれた。


 火はすっかり消えていて、わたくしのドレスも元通りだった。


「ニーナ嬢、痛いか!? 大丈夫なのか!?」


 ヴィクトル騎士団長が、わたくしの頬に触れてみたり、指先をなでたりしてくれた。


「わたくし……、どこもかしこも燃えてしまって……」


 わたくしはヴィクトル騎士団長に背中も見てもらった。


「大丈夫だ……。背中も、髪の毛も、なに一つ変わっていない……」


 ヴィクトル騎士団長は、わたくしを自分の方に向かせると、ぎゅっと抱きしめてくれた。


 ああ、わたくしったら本当にダメね……。


 ユニコーンの心が不安定になってしまっているわ。


 伴侶を失いかけたのが恐ろしかったのよ……。


 わたくしはヴィクトル騎士団長の胸をそっと押し戻した。


 ヴィクトル騎士団長の頬には、涙が幾筋も流れていた。


「怖い思いをさせて、ごめんなさいね……」


 わたくしは愛するユニコーンの頬を、指先でそっと拭った。


「ニーナ嬢……」


 ヴィクトル騎士団長は泣き笑いを浮かべた。


「なんということを……! なんという残忍な行いをするのか……ッ!」


 国王陛下が叫ばれて、国王陛下の護衛騎士たちがお父様とお母様を拘束した。


「あのクソババアが悪いのよ! イネッサだって、あのクソババアに懐いて! ニーナだって言うことを聞かない! わたくしがかわいそうよ!」


 お母様は、国王陛下に激しく言い返していた。


 ああ、お母様は、本当に頭がおかしかったんだわ……。


 わたくしはヴィクトル騎士団長の腕から抜け出して、拘束されているお父様とお母様の横でひざまずいた。


「国王陛下、申し訳ありません。父と母は、病気なんです。特に母は、祖母に意地悪されて、頭がおかしくなってしまったんです」


「この様子では、たしかに病んでいるようだな……」


 国王陛下がお父様とお母様を見た。お母様は、まだお祖母様を罵っている。


「国王陛下が二人を罰するおつもりなのでしたら、どうかお母様は、心の治療ができるお医者様がいる修道院に入れてあげてください。お父様も閉じ込めるのではなくて、家族を守れる強い男になれるように、強い男がいっぱいいる鉱山に行かせてください」


 わたくしはお父様とお母様のために、国王陛下に一生懸命に頼んだ。


「わたくしからもお願いいたします」


 お姉様がわたくしの隣にひざまずいて、加勢してくれた。


「お姉様……」


 わたくしがお姉様を見ると、お姉様はわたくしを抱きしめてくれた。


「ニーナ、わたくしがいながら、怖い思いをさせてしまったわね」


「お姉様……、助けてくれてありがとう」


 お姉様がピカッと光って奇跡を起こしてくれたから、わたくしは火傷しないで済んだのよ。


 もしもお姉様が聖女様でなかったら、わたくしはひどい火傷で死んでいたかもしれないわ……。


 わたくしは今になって、また恐怖が押し寄せてきて、泣き出してしまった。


「怖かったわね、すごく怖かったわよね、ニーナ……」


「ええ……」


 ものすごく怖かったわ……。


「無事でよかった……」


 お姉様がわたくしの髪や背中をなでてくれた。


「この姉妹に免じて、カーネリア侯爵は鉱山送り、カーネリア侯爵夫人は辺境医療修道院送りとする。カーネリア侯爵家はイネッサ嬢が王太子レオニードとの婚姻、ニーナ嬢が騎士団長ヴィクトルとの婚姻をそれぞれ済ませた後、取り潰すこととする。その後は、イネッサ嬢は王家が、ニーナ嬢はキートパー筆頭公爵家が、それぞれの後ろ盾となることとする」


 国王陛下が宣言してくれた。


 わたくしとお姉様は、国王陛下にカーテシーをしてお礼を申し上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ